召喚ですか?
ダンジョン作成ポイント。それはダンジョンマスターとして生き残るために必要な重要な要素の1つだ。
例えば初期に保有しているポイントの平均値である1万。この値を下回って生き残るのは困難だ。そして1万より上。ポイントが高くなればなるほど生存率は高くなる。
もちろん運もあるだろう。初めて訪れたものの能力次第で結果は大きく変わる。
センスもあるだろう。少ないポイントを有効に使いこなすものもいる。
ステータスやスキルも影響するだろう。モンスター顔負けのステータスで冒険者すら切り伏せるものもいる。
初期に決められたダンジョンマスターとしての能力は開いて見るまでわからない。
完全なランダム。ナビたちはそう思っていた。
たしかにまれにはいるのだ。容姿、性格、ステータス、ポイントとほぼ全ての能力が高いもの。
非常に飛びぬけた能力をもったもの。たしかにいる。
しかし、しかしだ。この高山の保有するポイントは、いままで何人ものダンジョンマスターのナビを勤めたアイリが見ても異常なのだ。
「この100万というのは多いのですか?」
「そうねー。多いねー」
もうアイリ自身何が起こっているのか理解できない。なかば自棄になっていたのだが高山の持つスキルも見てさらに壊れることになる。
『スキル:王のカリスマ』
「ねぇ。あんたのどこが王なの? カリスマ? どこにそんなの存在するのよー!」
高山の胸倉を掴みがくがくとゆするアイリ。
「ア、アイリさん。痛いですって」
しばらく高山に言い寄っていたアイリだが落ち着きを取り戻すと
「それではご主人様。次はモンスター召喚の説明しますね」
「もう普通にしゃべってもらって結構ですよ?」
ぜぇぜぇと息も絶え絶えの高山だった。
「そうね。なんかもう疲れたから普通にしゃべるね」
「えぇ。そちらの方が自然ですよ」
じゃあ今までは不自然だったのかと問い詰めたいアイリだったが、高山のさわやかスマイルを見てそんな気も無くすのだった。
「ところでアイリさん。私は外に出て見たいのですが」
「はい?」
「せっかくこうして知らない土地に来たというのにこのような地下に引き篭もってるのもどうかと思いましてね」
「あのね。あなたは命懸かってるんですよ? あと1週間もすれば外から侵入者がやってくるんですよ!?」
あまりにもダンジョンマスターらしくない高山の発言につい口をうるさくしてしまうアイリ。しかしそんなアイリの言葉も
「アイリさんは怒ると怖いですねー」
と、のらりくらりとかわされてしまう。
「やはり日の光に当たらないと健康にも良くないですしねー」
「わかりましたよ。ただし護衛のモンスターを連れて行ってくださいね」
高山にウィンドウを開かせモンスター召喚の説明をしていくアイリ。
「まずは初心者におすすめはゴブリンとオーク、スライムなんかですね。家事全般用にホムンクルスなんかも人気ですね。まぁ若い男は美人なホムンクルスを召喚して変なことしようと考えてばかりですけどね」
丁寧に説明するアイリだったが高山はあまりに膨大なモンスターの数に驚き、次々とページをめくっては画面に表示されるモンスターを楽しそうに眺めている。
「すごいですねー。これは骨のモンスターですか。こっちは幽霊さん」
「ちょっと話を聞いているんですか!」
またしても怒り出すアイリをなだめるために、聞いてましたよ、ホムンクルスですねとページを開く。
「そもそもですね。あなたはダンジョンマスターとしての自覚が足りないんですよって、もう召喚したんですか!?」
「いえ、ついアイリさんが騒がしかったので勢いで押してしまいましたよ」
「私のせいなの!?」
高山の前が眩く光るとそこには1人の女性が現れた。メイド姿の女性は膝をつくと高山に頭を下げる。
「召喚していただきありがとうございます」
またアイリさんのように猫被ってませんかねーと思う高山に何かを察したアイリのするどい視線が突き刺さる。
「ホムンクルスにしたんですね。まぁいいんじゃないですか。心配しなくてもホムンクルスは召喚したものに絶対の忠誠を誓うことで有名ですんで、大丈夫ですよ」
ふん、とどこか不機嫌そうなアイリ。
「メイドさん、顔を上げてください。私は高山悠二といいます。メイドさんは?」
「私はホムンクルスのイリアと申します」
イリアはアイリと比べると大人の雰囲気がある女性だった。アイリはまだどこか幼さが残る顔立ちだがイリアは20代半ばぐらいだろうかと高山は推測する。
「ホムンクルスは設定しないとだいたい召喚したものが好む顔や容姿になるっていうけど、あなたはこういうのが好みなんだー」
アイリはジト目で高山を見る。
「そうなんですか? ご主人様!」
イリアはどこか嬉しそうに高山を窺う。
確かに高山はイリアのような顔は好みだった。
「確かに好みですけど、イリアさんのような美人さんは男性ならみんな好きなものですよ」
喜ぶイリアと相変わらずジト目のアイリ。
「もういいわ。とりあえず小さい女の子が召喚されなくて良かった。それよりこのメイドのステータス見せてよ。たぶんそんなに高くはないはずよ。戦闘向きじゃないからね」
「えっと、ステータスの出し方は……」
ぎこちない操作でなんとかイリアのステータスを表示させる。
「ねぇ、どうしてこんなにメイドのステータス高いの?」
「さぁ、どうしてでしょうか?」
「どうして本来500ポイントしか消費しないはずのホムンクルスの召喚なのに、5000ポイントも減ってるの?」
「さぁ、どうしてでしょうか?」
高山はイリアを召喚するときによく画面を見ていなかった。画面には
『特別召喚が可能です。通常の10倍のポイントを消費してより能力の高い上位個体を召喚できます。実行しますか?』
そう表示されていたのを知らずにyesを押していたのだった。
「ちゃんと聞いています!? あなたは偶然ポイントをたくさん持っていたからいいものをこんな序盤に5000ポイントもたかだかメイドごときに使うなんて……」
「たかがメイドとは聞き捨てなりません。撤回してください」
いつしかアイリとイリアの口論へ発展する。
「まぁまぁ、その分イリアさんは優秀なんでしょう?」
「確かにそうだけど」
イリアは目を輝かせて主の言葉を聞き、アイリも納得しかけていたが
「って、元はと言えばあなたが軽はずみに押したのが原因で……」
振り出しに戻るのだった。
結果として大量のポイントを消費してしまった高山だが彼の持つ異常な初期ポイントのおかげでたいして影響はなかった。イリアのステータスは通常のホムンクルスの約4倍の能力だ。
10倍のポイントを消費して4倍。通常の能力のものを10人召喚した場合とどちらがいいかは一概には言えないが、高山の傍に控えることになるであろうイリアが高い戦闘能力を持つことは良いことなのかもしれないとアイリは考える。
「じゃあ少し出掛けて来ます」
高い戦闘能力を持つイリアを付き添いに高山はやはり外へ出ようとする。
当然アイリはぎゃーぎゃーと高山に言うのだったが結局はアイリが折れるのだった。
「帰ってきたらダンジョンの作成してもらいますからね! 時間がありませんから!」
「わかってますよ」
苦笑いの高山とその隣を歩くイリアを見送るアイリ。ダンジョンの作成をと言ったがアイリは実際はそこまで心配していない。
なにせ100万もポイントがあるのだ。いくら高山がこういったゲーム的なものに疎いとしてもどうにでもなると思っていた。
そうはわかっているのだがつい口うるさくしてしまう自分自身が不思議だった。こんなに感情を表に出すこともいつ以来だろうかとぼんやりと考えるアイリだった。
ダンジョンが攻略されるのは発見されてまもなくがとてもも多い。まだ右も左もわからない状態にそれなりの実力を持った侵入者にあっという間に突破され死んでいく。この世界に来た事実を受け入れきれずほとんどなにもしないままに死んでいくものもいる。
様々なダンジョンマスターを見てきたアイリ。
もっと昔は感情を表に出していたと思う。ダンジョンマスターのために自分の持つ知識を全て使ってサポートもしていた。
しかしそんな努力の甲斐なくあっけなくダンジョンを攻略されて死んでいくマスターたち。
いつからだろうか、どうしてだろうか、こうして感情を表に出さなくなったのは。マスターに奴隷のように扱われたからだろうか、それとも慕っていたマスターが理不尽なまでにあっさりと殺されてしまったからだろうか。
思い返してももう思い出すことさえ出来ないほど過去の記憶。気付いたときにはアイリは感情を表にださず淡々とナビとしての役目を果たすだけだった。
心の中で今回のマスターは『あたり』『はずれ』と分別するぐらいでしかない存在になってしまったダンジョンマスター。
それがどうしてだろうか、こんなにも声を荒げて怒鳴って。あんな冴えないおっさんになぜだろう。
考えても埒が明かないと溜息をつきアイリは新しいマスターの帰りを静かに待つのだった。
アイリとイリアの番外編も考えていたりますが、必要なのかどうか。