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On the way to a Smile  作者: イクミ ショウ
1章~追憶~
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第6話 重い話

 大沢あいみはどう思っているんだろう。


 立場としては、この子は俺と同じだ。

 俺には父親と妹が、彼女には母親と兄が、急にできてしまったのだから。


 簡単に受け入れられることじゃない。かといって駄々をこねたってしょうがないのかもしれないけど。

 家族が増えるんだ。簡単に受け入れられるわけはないだろう。



 自己紹介が終わると、いろいろと説明を受けた。

 2階に君の部屋がある。中学を転校する必要はない。もう家族なんだから、何も気兼ねしなくていいんだよ。

 ‥‥‥もう家族なんだ。


 要するに俺に気に入ってもらおうとしてるのか。何から何までどうもどうも。


 いや、決してこのお父さんは悪い人ではない。むしろいい人だろう。

 悪いのはひがんでる俺だな。



 母さんが俺に言った。

 「今日はこの家に泊まらせてもらいましょう。これからここに住むんだから、少しずつ慣れていかないとね。」


 だから聞いてないんだけど。

 母さん、あなたは説明不足の気がありますよ。


 「…今日からずっとここに泊まんの?」

 「ううん。まだ引っ越しも何も準備してないからね。今晩は泊まって、明日には帰るわよ。」


 そうか。とりあえずはよかった。

 本当は今日も帰りたかったんだけど、まあ仕方ない。


 …せっかくだから、あいみさんに聞いてみるか。この再婚をどう思っているのか。

 あの子は、俺たちのことを素直に母と呼べるのか、兄と呼べるのか。


 俺は‥父と呼べるのか?妹と呼べるのか?

 どうだろう。



 案内されて、俺は2階に用意された自分の部屋に入った。

 この部屋は空き部屋だったらしい。しかしそこそこ広く、綺麗に整えられていて、すでに机なんかも用意されていた。

 

 …というか、あのお父さんは何の仕事をしているんだろう。結構な金持ちなのは間違いない。



 さてまあ、いろいろと見たいこと知りたいことは多いが、とりあえずはあいみさんの気持ちを聞きたい。


 彼女の部屋は俺の部屋のすぐ隣にある。

 部屋の扉を開けて廊下に出る。廊下をほんのわずか歩いて彼女の部屋の前に到着。その間、約5秒。


 一呼吸おいて、ノックしようとしたその時。


 ガチャ

 「わっ」


 ノックしようとした瞬間に、扉が開いてあいみさんが出てきた。


 「あ・・・・」

 

 目があって数秒。やばい。めっちゃ気まずい。


 「あ・・えと・・どうも」

 くじけるな俺!話をするために来たんだろ!

 なんとか会話を取ろうとする。


 と、彼女の手には服?があることに気付いた。


 「あー‥風呂か?」

 「あ、はい。‥先入ります?」

 「いやいいよ!どうぞ!ごゆっくり!」

 

 完全に予期しない方向に会話が進んで戸惑ってしまう。ひとまず俺は、横にずれて彼女を1階の風呂場へと通す。

 軽く会釈して去っていく彼女の背中に、これだけは言っておこうと声をかけた。

 「あのさ!」

 「!‥はい?」

 「あとでちょっと話がしたいんだけど、いいかな?」

 彼女は少し驚いたようだったが、

 「はい」

 と言って、1階に降りて行った。



 自分の部屋に戻って、いろいろと思案していた。・・・いや、彼女の風呂のことじゃないけど。

 彼女は再婚をどう思っているのか。

 今はハダカか。

 いきなり家にあがり込んで迷惑に思われてないかな。

 風呂場を覗く方法とかないのかな。


 ・・・・・・・だめだ。今は何も考えられない。おとなしく待っていよう。



 と、扉をノックする音がした。


 「はい」

 扉を開けると、あいみさんが立っていた。


 あ・・・・寝間着だ。上下ピンクで、中2にしては幼い(ような気がする)寝間着。薄い生地で、体のラインがうっすらとわかってしまう。

 やばい。再び俺の思考が妄想という名の濁流に呑まれてゆく。

 

 そんな寝間着のインパクトにぼーっとしていると、

 

 「あの・・」

 おっと、しまった。俺が話したいと言ったんだ。俺がリードしなければ。


 「あ、話、してくれるんだよね。えっと‥俺の部屋でいいかな?」

 「はい・・」


 さっきから、ろくな応答をもらえていない。緊張しているんだろう。

 まあ仕方ないことか。俺がちゃんと話さなければならない。



 部屋に入り、彼女はイスに、俺はベッドに座った。


 ・・さて、これから彼女の意見を聞く。どう思っているのか、受け入れるのか拒むのか。

 子供は子供で、ちゃんと話し合いをしなければならないだろうから。



 「あのさ・・」

 「あっ、はい」


 ・・・・・何と言って始めるべきか。

 

 「とりあえず、今日はごめんね。いきなり泊まる感じになっちゃって。」

 まずはこんな事から。ここから核心に迫っていこう。


 「え?ううん。今日泊まることは聞いてましたよ。」

 

 ‥‥‥‥‥母さん…


 「それに…」

 彼女から話し出した。

 「結構前から2人のことは聞いていたから。会えてうれしいです。」


 少し恥ずかしそうだ。

 というか、俺がいることも聞いていたのか。‥‥母さん‥


 「あ、でも、私たち同じ中学なんですよね。すれ違うことくらいはあったのかも。」


 元の家とこの家は割と近い。だから中学を転校する必要もない。


 「えっと、部活とか入ってますか?」

 「ああ、剣道部だけど。」

 「へえ、すご~い。私運動ダメで、美術部なんです。でも、じゃあすれ違うことはあったかもしれないですね。」

 「ああ。そうかもな。」


 ‥‥‥ん?

 あれ?再婚についての大事な話をするはずが、思いっきり世間話になっている。


 つーかこの子、おとなしいと思ったら割としゃべる。何となく無理してるようにも感じるが。

 おそらく、俺と同じでコミュニケーションを取ろうと積極的になっているのだろう。ただし、そのコミュニケーションの内容は俺とは違うが。


 まずは仲良くなろう、ということか。重い話もその後でいい、と。

 まあわからなくはないけどさ、大切な話なんだ。早く話したい。


 悪いと思いながらも、話を戻すよう試みる。

 「剣道部ってやっぱりた‥」

 「あのさ!」

 「!…はい?」


 よし、言うぞ。


 言うぞ。母さんと俺を、どう思っているのか、受け入れられるのか。

 よし・・


 「その‥俺のこと、どう思ってる?」

 「へっ?」


 完全に言い方を間違えた。

 これだけじゃあ、俺が、好きと思われているか気にする女々しい男みたいじゃないか。


 ああ恥ずかしい。完全に誤解されただろう。

 しかし、彼女は


 「まずは、仲良くしたいと思ってます。にいさん」

 と言った。



 兄さん?

 兄さんと呼ばれるということは、受け入れられている、ということなのだろうか。


 彼女は、俺のことを家族と思っているのだろうか?



 わからないが、それはともかく、なにか返事をしないと。


 兄さんと呼ばれた。ならば、俺は彼女のことを何と呼ぶ?

 あいみさん?他人行儀だな

 あいみ?呼び捨てってのもなあ

 あいみちゃん?それもちょっと‥


 兄さんと呼ばれた。ならば…

 

 「あの、いもうとさん」

 「ぷっ」

 

 ・・・・・・

 俺ってこんな会話下手だったっけ。

 何がどうなったら妹さんになるんだよ。


 いや、理由は簡単か。

 つまるところ、俺は緊張していたのだ。この子よりずっと。


 よくよく考えれば、俺の親しい友達の中に女子はいなかった。おまけにこの子は超かわいい。その上寝間着。

 そこらへんが影響して、こんなになってしまったんだろう。


 「フフフ。妹さんなんて普通言いませんよ。フフ、アハハハハハ」


 初めて、彼女の笑顔を見た。

 何の屈託もなく無邪気に笑う彼女の笑顔は、恥じらいの顔の何倍もかわいい。


 こんな笑顔を見せられたら、


 「兄さんって、面白いですね。フフフフ」


 こんな笑顔を見せられたら、重い話なんてする気になれない。



 ・・・わかったよ。もういいや。重い話は後回しにしよう。

 彼女が正しい。

 初対面なんだし、少しの間は気楽にいこう。まあ後でも話したいことは話せるしな。


 

 今は、楽しい話をしよう。

 

 

 

 


 

 

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