第4話 試合
試合が始まった。
まずは先鋒戦、互いに構え、
「始め!」と、審判(先生)の声が上がり、
「アアーーーー!!」
「キアアーーーー!」
互いの闘志がぶつかりあう。
ウチの先鋒は小学校の時から剣道をやっていて、これがまた強い。アイツなら勝てる!
・・と思ったけど、どうやら向こうも中学以前からの経験者のようだ。やっぱり考えることは同じなんだな。先鋒と大将に強い奴を持ってくるのは基本らしい。
でも、
「面あり!」
よっしゃ!こっちが1本とった!
ウチの先鋒をなめんなよ。俺なんかコテンパンだぞ!
剣道は2本とれば勝ちだ。もう1本で初戦はもらい!と思ったらもう
胴打ちが入った。あざやかな勝利である。
そして次鋒は晴馬。
いったれ!お前の初陣だ!
「いけえー!ハルマー!」
みんなで応援する。ぶちかませ晴馬!
「始め!」
その合図とともに
「リャアアアアーーーーーー!!!!」
うおう。すげえ声だ。相手の声もかき消されてしまう。
晴馬は俺より気合とか気概とかがデカく、さらにストイックだ。この初陣試合にかける思いも、俺よりずっと強いんだろう。
そんな晴馬だからこそ
「小手あり!」
負けるはずはない。まずは1本。
その後は、拙い打突が続く。やはり動いている的にうまく打突を入れるのはそれだけで難しい。互いに攻撃を繰り返し、しかし審判の旗が上がることもなく時間が経っていったが、
パシッ
相手の小手打ちが見事にはいってしまった。
互いに1本取り、もう時間はわずかだ。このままじゃ・・
「ッ・・!リャアアアアアーーーーー!!!!!」
さっきよりも気合の入った声だ。もう体力も大分削られているだろうに、本当にすごい奴だ。
そのまま晴馬は一気に攻勢に出る。猛撃の打突を繰り返し、ついに
「面あり!」
晴馬の竹刀が、相手の面を切り裂いた。晴馬の勝ちだ!
次は俺だ。
前に出るところで、戻ってくる晴馬と目があった。晴馬は肩で息をしながら、
「やったれ、勝」
「おお。まかせろ。」
俺も晴馬に続く。初陣戦、勝利で飾ってやろうじゃねえか。
前に出て、礼、蹲踞、そして
「始め!」
いくぞ
「アアアアーーーーーー!!!」
「わあああああーーーーーー!!!!」
相手は、俺より一回り大きい。経験者だろうか。
いや、関係ない。敵がどうだろうと、俺は勝つ。
「メエエエエエエン!」
初撃、しかし防がれる。そのまま向こうから面打ちがきたが、即座に竹刀を戻して防いだ。
立て直そうと後ろに下がった刹那、相手が思いっきりぶつかってきた。
そのままつばぜり合い、互いの竹刀で押し合う状態へ。
くそっ。体格が違う。普通に押しあいじゃ勝てない。
だったら、引き技。互いが力任せに押している状態で、一瞬のうちに後ろに引いて、相手のバランスが崩れたところで打突をきめる。
その通り俺は素早くつばぜり合いを解除し、その流れのまま、
「ラァッ!!」
バァッン!
防がれた。うまくいったと思ったのに。
・・・・・やるじゃねえか
それから、俺は何度も攻撃を狙った。しかしことごとく打突はきまらず、1本も取れないままだ。
だがそれと同時に、相手の攻撃も決まらない。ともに決定打が入らないまま時間が過ぎていく。
「もう時間ないぞ!」
後ろからふっと声が聞こえた。そうか、もう時間が無いか。
体力は限界だ。ったく、時間いっぱいまでやれる体力つけないとな。
でも今勝つために、どうすればいいか。それは簡単だろう。
良い手本がついさっきまで戦ってたんだから。
晴馬、あいつは疲弊しきったところでさらに力を出した。
だったら、俺もここで限界を超えるしかないだろう。
最後の力を振り絞り、一気に決める。
俺は全身全霊で叫んだ。
いくぞっ!
「リャアアアアアアアアアアッッ‥!」
ドクン
え?
なんだ?
今、何かが込み上げて、
「小手あり!」
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・え?
「やめ!」
・・・・・え?え?
気が付くと、俺は小手を取られ、試合も終わっていた。
・・・・・・・・。俺の負け・・か。
何だったんだよ。叫んだ瞬間、ほんの一瞬、完全に意識が飛んじまった。
呆然としたまま、終了の礼をした。
結局、その後の副将戦と大将戦はこっちが勝った。4勝1敗、この団体戦は俺たちのほうの勝利で幕を閉じた。
わけなんだけど、
負けたの俺だけか。やっぱり悔しいな。
帰り道、
「なあ勝。お前あの時、一瞬完全に動き止まったよな。すげえ気合出したと思ったら。どうしたんだ?」
晴馬が聞いてきた。
・・・・・それは俺も知りたいわけだが。
「…あんま大声上げるの慣れてなかったからかも。」
そういうわけでもないと思うけど、それしか思いあたる節が無い。
「そっか。じゃあ竹刀振る以前に大声出す練習しないとな。まずはカラオケでも行くか。」
はっは。お前って本当いい奴だな。ありがとよ。
「オーケー。死ぬまで歌ったるぜ。」