第2話 遠くへ
歩いていた。その足取りは重い。
俺の前を歩いているのは、父さん。
2人で散歩しだしてから1時間くらい経っただろうか。散歩中1度も父さんの顔を見ていなければ、会話もしていない。
だって、顔を見られたくなかったし、見るのも嫌だったし、それに何を話していいかもわからなかった。
だから父さんから、散歩をしようと言われた時も頷いただけで、ずっと後ろを歩いて父さんの背中を見ていた。
いいかげん、何か話さないと。
そう思った時、
「なあ、勝」
父さんのほうから口を開かれた。
「小学校、もうすぐ卒業だな」
その時俺は小学6年生で、卒業も近づいていた。でもさ、
なんでそんな話をするんだろう。もっと大切な話があるんじゃないか?
だって・・
「小学校を卒業したら中学生、その次は高校生だ」
だから、どうして未来の話をするんだ。
大切なのは今この瞬間、この時間のはずだ。
だって・・
「お前はさ、これからどんどん成長していく。その中で嫌なことや辛いこともあるだろうし、1人じゃどうにもならないことだって起こるだろうよ。
でも・・・父さんは力になってやれない。」
もう会えないって、聞いていたから。
離婚、するって、聞いていたから。
「無責任な父親でごめんな。
でも、でもな。お前ならこれから先どんなことが起こってもきっと‥」
「やめてよ」
もうそんなの聞きたくない。なんで、
「なんで先の話ばっかりするんだよ。俺は‥今が‥」
大切なのに。
どんどん声が小さくなって、最後の言葉は言えなかった。
父さんといる今が大切なのに。
その言葉は言えなかったけど、どうやら汲み取られてしまったようだ。
父さんは小さく
「ありがとう」と言った。
そして
「なあ」
「何?」
「俺は、遠くに行くけど、
これから先も、
お前のお父さんでいていいか?」
また未来の話だし・・もういいけど。
俺の父親でいていいか。
それはもちろん
「いいよ」
「・・・ありがとう」
話はこれだけだった。
この次の日には、父さんは家を出て行った。
離婚の理由とか、どこに行ったのかとか、
俺は何も聞かなかった。聞く必要もないと思っていた。
だって、父さんがいなくなる、という事実があるだけだから。
俺も小6だ。耐えられないほど辛かったわけじゃない。
それに離婚なんてわりとありきたりな話だし
ただ、温もりが1つ消えるんだなってだけで。






