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死姫のヒミツ  作者: 猫柳
第一章
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第八話  死姫、叩きのめす

扉をくぐって入ってきた人影は、5つ。どれも傭兵らしい服装をした男だった。


「お客様方、当店には入店なさらないでくださいと、先日言ったはずですが」


やや険を含んだ口調でダンは言う。そこにさっきまでの女性のような甘さはない。

しかし、男たちは口を弧に曲げると、「俺らはお客様だぜぇ?」と偉そうな態度で手近の椅子に腰掛けた。


「お客様がいるからこそ、お前は食ってけてるんだろうが。あんたに俺らを追い払う権利はねーよ」

「そうおっしゃるのでしたら、先日の無銭飲食の代金を払っていただきたい」

「無銭飲食ぅ?んなもん俺らしたか?」


一人のつぶやきに続いて、「覚えてねぇな」「してねぇだろ」「言いがかりに決まってらぁ」と口々に言う。


ダンがさらに言葉を続けようとしたところで、私は、それを遮った。


「ダン」

「っ……少し黙っていてくれ。俺があいつを叩き出すまで」

「なぁに、お前が手を出すまでもないよ」


私はカウンターに代金を置いて立ち上がった。


「おにーさんたち、無銭飲食したんだって?」


五人のうち、リーダー格らしき男に声をかける。男は私を見て、胡散臭げに眉をひそめた。


「何だ、お前」

「この店のお得意。だからさぁ、あんたらがこの店に迷惑かけるの、俺黙って見てらんないんだよねぇ」


にっこりと笑みを浮かべて男を覗き込む。数秒後、大爆笑が上がった。


「ガキの癖して大人ぶったこと言いやがるなぁ、オイ!迷惑かけるの、黙って見てらんないんだよねぇ?お前に何ができんだよクソガキ。引っ込んでろ」


男が片足で私の胴を蹴ろうとした、瞬間。


男はドスン、と尻餅を付いた。


「……っ」


秘技、椅子抜き。

相手の重心が椅子の上からずれたタイミングを狙って、椅子を引き抜く。私の必殺技である。


「おま、何やった……?」

「椅子引き抜いただけだけど?蹴られたくないから」


再び柔らかく笑って、それから一段階声を低くする。


「大人しく金払ってここに二度と近づかないと約束するか、体にそれを刻み込むか。どっちが良い?」

「……っざけんじゃねぇぞガキがッ――!!」


するりと男の腕を避け、「喧嘩は外でだよ、お兄さん方」と笑って煽る。


「わざわざ人の為に喧嘩しなくてもいいだろうに」


複雑そうなため息が店の奥でつかれるのを聞きながら、私は男たちと共に表通りに出た。





ぐるりと、私を囲むように立つ五人。少し離れたところで、昼間からの喧嘩を眺める野次馬が輪を描いていた。


「一応、今お金払えば許してやんよ。俺やさしーから」

「それはこっちのセリフだ。今おとなしく謝れば許してやるよ」


私は軽く肩をすくめた。それが合図とばかりに、五人はそれぞれの剣を引き抜く。


「あ、ズルっけー。五対一でさらに剣かよ。ひでーひでー」

「なんだぁ、怖気づいたのか?頭地面にこすりつけて謝ればまだ許……」


タン、と地面を蹴ると、私はそのまま正面の男の鳩尾に足を食い込ませた。九の字に曲がった体に、おまけとばかりに両手を組み合わせて振り下ろす。


「うんうん、頭地面にこすりつけててねー」

「てめぇ!隊長に何しやがる!!」


私は眉間にしわを寄せた。両側から斬りかかって来るのをバックステップで避けて、太もものベルトからナイフを引き抜く。


「隊長?これが?はぁ、こんなんが隊長とか、隊長っていう職なめてんの?って感じだな」


まず斬りかかってきた男の剣の軌道を、ナイフで逸らす。その後こするように内側に入り、柄で手の甲を強打。ついでにふらついた足に足払いをかけつつ、二人目の間を縫って三人目の鳩尾に頭突き。


「速っ……」

「な、なんだこいつ……!!」


ぺろり、と舌なめずり。


「必殺……」


残った二人の間に直進するようなコースを取り、三歩手前で跳躍。両腕でそれぞれの首を掴むように腕を伸ばし、そのまま腕を軸に足が回転する。


「首吊り回転!!」


着地した時には、首ごと地面に押し倒された男二人が、のたうちまわっていた。


「ふ、久しぶりにやったなこれ……」


首は人間の弱点であり、そこに負荷をかけるのはあまり良くない。だからこそ部下を実験台にすることができず、実践したのはこれが初めてなのだが、意外とうまくいったようだ。


つまり、それぐらい怒っていたわけである。


再び起き上がってきた数名に、地面に落ちていた剣を拾い上げ、笑う。


「これ以上やるようなら、今度は斬るよ?」


そこに宿る並ならぬ殺気に、やっと、男たちは敗北を悟った。

半ば投げ捨てるように代金を地面に置くと、振り返りもせずに逃げていく。その後ろ姿をたっぷりと眺めてから、私はそれを拾った。


「相変わらず化けもんだな、シアン」

「ひどっ。れっきとした人間ですよ俺は。ほい、これ代金」


店の外に呆れ顔で立っていたダンに金を渡し、ふと、時計を見る。既に帰る時間だった。


「んじゃあ、俺はそろそろ行くわ。ケーキありがとなー。あと近衛士達がまた来ることがあったらそんときゃよろしくっつっといて」

「はいはい。また顔出しに来いよ」

「もっちろんさー」


軽く手を振って、大通りの人ごみに混じる。そして、行きと同じコースで屋敷に戻った。



その時の私は、知らなかった。

私が「アリシアの部屋」に入っていく姿を、見ていた人がいた、ということを。

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