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死姫のヒミツ  作者: 猫柳
第一章
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第四話  死姫、語られる

私の朝は早い。


体のリズムは、何年も前から騎士としての生活に合わせられてしまっている。日の出前に目を覚まし、薄闇に紛れて王宮を出、街をぷらっぷらとふらついた後に、あたかも登城してきましたという風に騎士団詰所に向かう。これが仕事の時の生活リズムになっていた。



というわけで、朝早く起きてしまった私は今、とても暇なのであった!



ネグリジュの上にカーディガンを羽織り、バルコニーからゆっくりと明けていく空を眺める。


新婚のくせして、私達に初夜はなかった。多分、これも一応の私への配慮なのだろう。もしくは本気で女として見たくないか。私としてはまだ隊長に顔を見せる覚悟がないので、これは願ってもない幸運だが。


「あぁ……剣が欲しいなぁ……。国に返品せずにこっそりくすねてくればよかったかなぁ……。木刀でも良い、誰か私に、私に剣を……」


姫らしからぬ物騒なことを口走りながら、私はため息をつく。


ぼんやりと庭を眺めていると、そこで見知った人影を発見した。


「おー、隊長だぁ……」


手合わせしてほしいなぁ。無理だけど。バルコニーの手すりに頬杖を付き、のんびりと彼の動きを眺める。仮面をつけているので、見られても大丈夫。

彼はどうやら、剣の鍛錬の為に外に出てきたらしかった。手に持っていた木刀をゆっくり構えると、彼のまとう空気が鋭くなる。


強い憧れは、恋と似ているという。実際、剣を振るう隊長の姿を見ていると、だんだん心が浮き立ってきた。


(勝負したい勝負したい勝負したい勝負したい真剣勝負したい怪我してもいいから本気で一度戦ってみたい畜生副官辞める前に一度でいいから真剣勝負してもらうんだった)


「……そこにいるのは、アリシア姫か?」

「戦いたい戦……はい!」


危ない危ない。変なことを考えていて返事が遅れるところだった。


「朝早いな。眠れなかったのか?」

「いや、……ええと、はい。そんなところです」


そうか、と隊長が笑う。隊内ではあまり見ない、女性用の貼り付けた笑みなのだろうと分かった。


「庭を眺めていたのか?なら、邪魔して悪かった」


済まなそうな顔に、つい。


「いえ、貴方を眺めてました。……、……」


……おい口。勝手に動くんじゃない。


口走ってしまった言葉に、私は思わず頭を抱えたくなった。

庭にいる隊長も、実に微妙な顔をしている。あああああああ。穴があったら入りたい。


「あぁ、ええと、君は、剣術にでも興味が?」

「え、ええ。時々騎士たちに稽古の様子を見せてもらっていて……とても綺麗な動きでしたので、思わず見惚れてしまいましたわ」


だらだらと冷や汗を流しながら、それでも私はなんとか口を動かした。頼む、引かないでくれ隊長。

心の中で祈りつつ、隊長の様子を伺う。


「そうか?そう言われると照れるな」


照れるんですか。


隊長はふ、と笑みを浮かべると、「そちらに行っても構わないか?」と聞いた。「どうぞ」と促すと、実に軽いリズムで屋敷の凹凸に手をかけ、あっという間にバルコニーによじ登ってくる。


「お見事です」

「ははは、君は変わった女性だな。普通、こんな方法で部屋に来たら眉をひそめるものだが」


あぁ、分かるそれ。昔侍女の部屋に行くときによじ登って行ったら怒られたんだよなー。


隊長は私の隣に並んで手すりに腕をかける。


「君のように、私の剣術を綺麗だと言った奴がいた。君はなんとなく、そいつと似ている気がする」

「そう、なんですか?」


おうっふ。

冷や汗がさっきよりも多く流れ始めた。努めて冷静に、相槌を打つ。


「つい数日前まで、私の右腕として働いてくれていた男だ。若くて無鉄砲なところがあったが、実に有能で、手放し難い部下だった」

「…………」

「私の剣術は、特に流派があるわけでもない、がむしゃらな喧嘩用のものなんだが。あの男はどこが気に入ったのか、事あるごとに綺麗だ綺麗だ言ってきてな……」


これは何の拷問だろう。顔が、顔が熱いッ!

話を変えてくれないかなーと心の中で祈るのだが、彼の話はどんどん進んでいく。


「あいつは女性のように細い体しているのに、意外と女好きでなぁ。特に気の強い女性や変わった女性にやけに好かれたな。女官にも人気が高くて、見えないところで嫉妬されててな。あぁ、そういえば王宮に毎晩通い詰める程熱を入れている恋人がいるとかいないとか。あいつも不憫だなぁ……彼女を置いて、今頃どこにいるやら」


それはあなたの隣です。


勝手に暴走している噂の暴露に、私は本気で泣きたかった。女好きって何。毎晩通いつめるほど熱を入れている恋人って誰。というか、毎朝抜け出しているのがバレていたわけだ。おうっふ。


ものすごく突っ込みたかったのだが、最後の隊長の顔を見て、少し嬉しくなる。


いなくなって、心配される程度には、私は良い部下になれたのか。


「た、……アルバード様に心配していただけるだけで、そのお方も救われると思いますよ」

「……そうか?」


隊長は照れくさそうに頭を掻いた。


「変な話をしてすまなかったな。なかなかこういった話をできる相手がいなくて……。つまらなかっただろう?」

「いいえ?とても楽しかったですわ。また部下の方々のお話、お聞かせくださいませ」


次は同僚の黒歴史を聞きまくってやる。


心の中でにやりと笑いながら、私は柔らかい笑みを浮かべた。

主人公はいわゆる剣オタクです。

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