第二十五話 死姫、告白中
いっそ、すべての事実をさらけ出して、そのまま『元近衛士副隊長シアン・バード』という人間を完全に消してしまって、アルバードの下で、幸せな結婚生活を送ってしまう、という選択。
あの日の屈辱を晴らし、敵を取るため、嘘を貫き通し、アルバードの好意に縋ってまで、犯人を負い続けよう、という選択。
諦めてしまえばいい、と。心のどこかで誰かが言う。
他の誰かに迷惑をかけてまで、戦う必要はないじゃないかと。
「というわけでっ!シアンの無実にカンパーイ!!」
「お前らどれだけ俺を疑ってたんだ馬鹿ァ!!」
久しぶりに再会を果たした部下や友が開口一番に言った言葉が『お前人妻には手を出すなよなぁあああああああ』で、私は再会早々ずっこけることになってしまった。
確かに女の子は口説いた。それは事実だ。しかしだなぁ、今まで女性に手を出したことはないしひたすらそういうことからは逃げてきてるんだぞ。
それをなんで無節操な万年春男みたいに言われなきゃならないんだ。というか私は女だ!
ということで、むかっと来たのでさらっと事実を流すことにした。どうせいつかバレる事実だし、勝手に事態が転がるくらいなら、自分の手で転がしてしまった方がいい。そう、笑って済ませるうちに。
「全く信用ないよな……俺は女だぜ?今まで女性を口説いたことはあっても手を出したことはないんだからなっ!全くひどいったらありゃしねぇ」
「嘘つけ。お前よく王宮で朝帰り……、…………、…………?」
笑い飛ばそうとした連中の何人かが、私の言葉に引っかかって固まる。ちゃんと聞いていなかった奴らは固まった連中を見て、「どうした?」と首をかしげる。
「……副隊長、さーせん、もういっぺん……」
ちらりと視線を動かすと、酒場の奥で壁に手をついて大きく肩を揺らしているアルバードの姿が見えた。大爆笑ですか。受けたようで大変嬉しゅうございます。私も反応が予想通りで実に楽しいよ。
酒の入ったグラスジョッキを片手に、私は机の上によじ登って宣言。
「俺は女だ!よって、俺は完全なる無実だもんねーっ!」
「ちょっとシアン!あたしの店の机に土足でよじ登んじゃないわよ汚らしい!!」
凍りついた空間に、ダンの怒声と隊長の押し殺した笑い声がやけに大きく響いた。
パクパクと口を動かして固まる者、隣の者と「冗談?これ冗談?」「いやでもほら細っこいしちびっこいし」「でもあの化物並みの体力を女が持てるもんなのか?」「あそこで隊長大爆笑してるぞ。どっちだ?事実なのか冗談なのか?」などと耳打ちをする者。ちびっこいは余計だ。
その中で、驚きを浮かべていないのが……四人。
一人は大爆笑しているアルバード。もう一人は壁際で苦笑しているデューイ。
「だから降りなさいって言ってんでしょーがッ!!」
三人目はダン。こちらに向かってものすごい勢いでフォークが飛んできたので、私は慌てて机から飛び降りてそれを避ける。
「あっぶねぇなぁ……と」
着地した私の前に、ちょうど四人目がいた。彼は複雑そうな顔をしつつも、「副隊長」と声をかけてくる。
「一つ、答え難いだろう質問をしてもいいっすか」
「いいよ、ロイ。今回お前にゃ苦労かけたらしいからな」
長い前髪のあいだから覗く自身なさげの瞳がわずかに揺れて、それから伏せられる。一拍置いて、質問。
あぁ、これバレるな。バラすつもりのなかったもう一つもバレるな。
そう思ったけど、止めなかった。いっそ二つまとめてバレたほうが、私も吹っ切れる。
吹っ切った状態で、彼らと向き合える。
「副隊長と動きの癖が非常に似ている女性を、俺、一人知ってるんすけど」
勿体ぶったロイの言い方は、多分それを言っていいのか迷っているんだろう。彼の視線が私とアルバードの間を彷徨う。
視界の端でデューイが軽く頭を下げた。彼が多分ロイに私の振りをさせる時に、私の言動の癖を教えたのだろう。それで気づいてしまったというわけだ。
気にしてない、と私はデューイに笑い、それから「早く言えよ!」と周りに絡まれているロイの言葉を促す。
「どうぞ?多分、当たりだけど」
「……あなたにまんまと騙されたわけっすね、アリシア姫」
苦い笑みを浮かべたロイに、私は「正解」と満面の笑みを浮かべた。
「や、でもあれは騙してたわけじゃないぜ?ちょっと油断してて、本気で誘拐されたんだ、あれ。だからみんなには本気で迷惑かけたと思う。ごめん」
「……待て待て待て。俺まだついてけてないんだけど。は?女?しかもアリシア姫?死姫?」
声をかけられて振り向くと、顔面蒼白なブライアンの姿。あまりに真っ白なので、心配になって肩を叩く。
「おーい、生きとる?」
「いやだって、お前俺と一緒に入団試験受けてたよな!?途中で入れ替わったのか?本物はどこかにいるのか?」
「いやだから最初から俺。一般公募で入団するのが騎士やる条件だったから。国王陛下と三日三晩の大討論の末許可をもぎ取った」
ぶいっとピースサインを突きつけると、ブライアンは自分の記憶を洗いざらい引っ張り出して、呆然とした顔で私を見た。
「……気づかなかった」
「そりゃ光栄」
ざわざわとした空気が、だんだんと落ち着いてくる。それを感じ、私は静かに深呼吸をした。
「……さて、サプライズは終わりだぜ。ここからは、真面目な話をしよう」
多分これが、副隊長シアン・バードとして彼らに会う、最後の機会になるから。
第二章の数話が○○中だったから統一してみたあの頃の私に全力後悔中。
タイトルに非常に困ってます。
ていうかまた一ヶ月ぶりの更新……サーセンサーセン




