第十三話 近衛隊、魔王に遭遇する
手紙に記された刻限の前日、夕方。
バン――――ッ、と扉が吹き飛ばされるような音に、あちこちで議論を飛び交わせていた近衛士たちは、揃って口をつぐんだ。
「デューイは、ここですか?」
大魔王がいた。
柔らかな波をえがいて流れ落ちる金の髪に、透き通るような白磁の肌。細い四肢で扉の前に仁王立ちし、白魚のような手を扉にかけ。
目の下には隈。ラピスラズリのような瞳に光はなく、ぎろりと部屋中を睨め回すように動く。
なまじ美女なだけに、その表情に全員がたじろいた。
『ちょ、この娘誰っすか』
『俺が知るか。やばい、この娘はやばい。早々に人身御供を差し出してお帰りいただくのだ』
『イエス・サー』
こっそり隠れようとしていたデューイが、その会話に舌打ちをする。その瞬間獲物を射抜くような視線がデューイに突き刺さり、デューイは柄にもなくびくりと体を震わせた。
「デューイ」
「ええと、その、俺ではなくてですね、用があるのはルイスさんで」
「デューイ」
充満し始めたどす黒いオーラに、「総員退避!!」という掛け声が響く。デューイの傍にいたロイも、ルイスも、その他全員揃って駆け出した。
結果無人になった部屋に、逃げ損ねたデューイだけが残された。
「私、忙しいんですが。一体何の御用でわざわざ私を呼びつけたんでしょうねくだらんことだったら〆る」
「え、ええとですね。アリシア姫が誘拐されたと聞きまして、その、その時の状況を、詳しく説明して頂けたりすると嬉しいななんて」
デューイは、昔からこの侍女が苦手だった。
彼より二歳年下であるソフィアは、とにかく手厳しい。自由奔放で改めるということを知らない主の歯止め役を今まで一手に引き受けていたこともあるのだろう、本気で怒っているときはまさに最強。誰にも口出しできない。
というか、どうも彼女は男性が嫌いなのではないか、と感じ始めたのはここ最近のことである。五年ほど同じ主に仕える仲でありながら、デューイとソフィアは事務的な話しかしたことがない。
ソフィアはしばらく黙り込んでいたが、やがて手近な椅子を引いて座り込んだ。
「質問があるのでしたら、手短にどうぞ」
「は、はい。まず、姫様が姿を消した時の状況を教えていただけますか?……彼女は自分から姿を消したのですか?それとも、本当に誘拐されたのですか?」
正直に言えば、あのアリシア姫が素直に誘拐されたなどということは到底信じがたい。何か裏があったのではないか、とデューイは考えていたのだ。
しかし、ソフィアは静かに首を振った。
「姫様が誘拐されたのは、昨日の夜。いなくなる直前まで、私、姫様と話していたのです。なのに、ほんの数分……少し目を離した隙に、消えてしまった」
きつく歯を食いしばる音が聞こえてくるようだった。デューイはかける言葉も見つからないまま、ソフィアの次の言葉を待つ。
「何の書き置きもありませんでした。こんなこと、今までなかった。旦那様――アルバード様に報告し、今、ボールドウィン家は姫様の搜索に乗り出しています」
「姫様は、本当に、そんなにあっさりと消えたのですか?犯人の目処は?何か手がかりはないんですか?」
「あったら既に捕まえていますわ!」
弾かれたように彼女は立ち上がった。そのままデューイの襟首をつかみ、じろりと睨み上げる。
「そろそろ、教えていただけます?近衛隊は何をしていらっしゃるんです?姫様を探しているのですか?ならば、なぜ旦那様へ話を通そうとしないんで……何ですかこれ」
無言で突きつけられた紙を不審そうに受け取り、デューイをもう一度睨む。デューイは視線をそらした。
「あ、おい」と窓の外から誰かの静止する声が聞こえた。避難した裏切り者たちがどうやら窓の外で様子を見ていたらしいと知り、デューイは小さくため息をつく。
やがて、その手紙に目を通したソフィアが深く深くため息をついた。
「……状況は、理解しました。私の持てる範囲の情報を流します」
「……ご協力ありがとうございます」
二人は顔を見合わせ、そしてお互いため息をつく。
主の身から出た錆をどうにかこうにか処理するのも、不憫な部下たちの仕事なのである。
体調崩してしばらく書けなかったら、書き方が乱れました。
いつかまた書き直すと思います。本当にすみません。




