第十二話 近衛隊、議論する
話し合うこと三十分。新たに組み直された勤務表を片手に、近衛士達は王都の地図を囲んだ。
「先輩、裏取れました。この映像が撮られたと思われる前回の満月の日、夕方から副隊長が酒場に入り浸っていたのをダンさんが目撃。その際、「女の子を口説きに行くから飲めない」と呟いていたとのこと」
「ってこたぁ、副隊長素面で行ったのかよ……やらかしやがって……」
「新月の夜っていやぁ、三日後じゃなくて明日の夜だ。ってなると大して時間がないな。待ち合わせ場所は、ここ。赤騎士団の巡回範囲だな。おいテッド、お前あそこに伝手あるだろ。当日の巡回ルート調べて来い」
「アイサー」
「隠れるとしたらこことここ、あとこの辺りですかね。用心を重ねて、三時間前から待機しましょう。うまくいけば相手の本拠地の方角がわかります。で、一番の問題は」
そこで一旦言葉を切るデューイ。仕切っていた先輩騎士ルイスがため息をついて言った。
「ご本人だよなぁ、やっぱ」
相手が求めているのは、シアン・バードただ一人。それ以外の人間が出向いても、うまくことが運ぶとは限らない。
いち早く口を開いたのはデューイだ。
「ご本人は来るかどうかわからない……というか、この手紙がここにある以上情報が届いてないでしょう。かといって、今から見つけるのも困難。ならやることは唯一つ」
「よしデューイ、任せた」
「お任せ下さい」
ニッコリと笑うと、デューイは遠巻きに会話を聞いていた、比較的小柄な新米達に向き直る。
「総員、そこに横一列に並べ。今からシアン副隊長役を選定する。完璧にシアン副隊長に成り代わって犯人を騙し、内部に侵入する」
「「「「は!?」」」」
新米隊員達は目を剥いた。
「や、無理ですよ。あんなキラッキラした人の真似とかできませんて」
「出てきた犯人捕縛して吐かせましょうよ!そっちのほうが楽っす」
「馬鹿言え。下手に事を荒げることになったらどうする。大丈夫だ、選ばれた奴には私が立ち振る舞いから喋り方、副隊長式女性の口説き方まで徹底的に叩き込んでやる」
それはちょっと美味しいかも、とためらってしまった新米隊員達。
結局、三十人近い隊員がずらりと壁際に並んだ。ついでにそこには何故か先輩騎士たちの姿もあった。
「君は背丈高すぎ。君はゴツイ。君は凛々しすぎ。……先輩方は全員却下」
「何でだ!?」
「だから副隊長に体格が似てる人って言ってるじゃないですか。体出来てる方々はダメです。あと先輩方に副隊長式女性の口説き方は似合いません。諦めてください」
「なんだよ…………や、やってみないと分からないじゃないか!!」
なおも食い下がる先輩騎士に、デューイはふっと、笑った。
「ちなみに、副隊長式女性の口説き方の極意は、母性愛をくすぐる容姿と男前な性格のギャップです。先輩方、せっかく鍛えた肉体を捨てて母性愛くすぐる頼りない外見に今からしますか?」
「…………さーせん」
結果、外見の絞込みにより、シアンの役を行うのはロイと呼ばれる隊員になった。
「あのー、俺で大丈夫ですか?俺、シアン副隊長とはかなり違うと思うんですけど……」
そう言うロイは、猫背の目立つ陰気な青年だ。黒い前髪が長く、挙動不審。確かにシアンとはだいぶ印象が違う。
「問題ない。お前は体格も似ているし、顔も悪くない。顔も意外と副隊長と似てるし、若干いじれば十分ごまかせる。あとは態度だ。今から俺が徹底的に叩き込んでやる」
にっこりと笑って肩を叩くデューイに、ロイは引きつった顔で一歩下がった。
「え、というか、なんで副隊長の真似とか出来るんですか先輩……もしやストーカー……」
「俺はこの隊の隊員全員の立ち振る舞いの癖を真似できるが?」
「あ、なるほど。常人じゃなかったんですねごめんなさい」
ロイはデューイの特異性については深く考えないことにした。
そのままデューイとロイが稽古を始めたのを視界の片隅に収めながら、仕切り役ルイスは腕を組んだ。
「とりあえず、待ち合わせ場所は一度確認しておきたいな。ブライアン、お前昼から非番だろ。数人連れて偵察行って来い」
「了解」
「あと誘拐当時の話が聞きてぇな。あっちの屋敷の使用人で隊長にすぐ言いつけにくそうな使用人に心当たりある奴挙手」
「あ、王宮からアリシア様付きで向こうに移ったソフィアって侍女がいます。俺呼びに行きましょうかっていうか俺の名前で呼んでくれれば多分来るかと」
「待てデューイ、お前いつからそんな女作りやがった裏切り者ッ!!」
本当は一方的にしばき倒されてこき使われる下僕的位置だとは誰にも言えない、秘密多きデューイである。
「んじゃ、とりあえず一旦解散。夕方の五時ぐらいにまたここに集まれ。いなかった隊員にも話伝えて協力体制を取れよ。あと、うちの隊内以外には漏洩禁止」
「イエッサー」
かくして、長い一日が始まった。




