第十一話 死姫から近衛士達のターン
「まったく、貴方って女は最低ね。私のアルバード様を取った上に、シアン様まで誑かすなんて。ねぇ、楽しい?アルバード様とシアン様、花形二人を両側にはべらせるのが夢?……って、聞いているの?」
(どー……しよっかなぁ、この状況)
もう状況が自分の予想外の方向に転がりすぎていて、呆れるしかなかった。
「で、私を誘拐したのは何故なんですか?ただ恨み言を言うために?」
胡乱な目を向けると、フィーナはキリリと言う。
「貴方は人質ですわ。シアン様を落とすための、ね」
「アルバード様ではなく?へぇ……」
恋敵を誘拐してまでも落としたいほど惚れられるなんて、私ってなんて罪な女なんだろう。ふっ。
……自分を落とすために人質にされたとか洒落にならん。
「もちろん、アルバード様は私のもの。でもね、この子がどうしてもシアン様が欲しいっていうの」
あぁ、虚ろな目の子の方ですか。どっちかって言うと私はフィーナの方が好み……いやいやいや。やっぱどっちもダメだ。私は女なんだからな。
「と、いうわけで。シアン様が助けに来るまでせいぜいここでゆっくりしていることですね。最も、助けに来ていただいても、その先あなたに幸せな未来があるとは限りませんけれども。ミーシャ、行くわよ」
そう言い残して、二人は部屋を出ていく。一人暗い部屋に取り残された私は、小さくため息をついた。
「……助ケテー、シアン様ー」
シアン様、現在密室でポツンです。
「は?シアン宛の手紙?なんで今頃ここに来るんだよ」
「や、俺に言われても困りますよ。とりあえず、確かに届けましたからね」
そう言って立ち去る文官の後ろ姿を見送りながら、ブライアンは訝しげに手紙を眺めた。
蝋でしっかりと封をされた手紙は、先日辞職した副隊長、シアン宛のものだった。しかし、現在この隊内で彼と接触を取れる者はいない。実際には約一名いるのだが、それは本人以外誰も知らなかった。
「なんだ、それ」
近くにいた隊員が木刀を片手に、その手紙を覗き込んだ。
「シアンへのだと。でもさー、これどうすんの。届けようがないよな」
「燃やしちまえそんなもん。どうせ恋文か何かだろ。あー、あの人いなくなってくれて良かったわー。いい人なんだけどもさ、出会いも片っ端からかっさらってくんだよな」
「それはお前らの性格とかそういった問題だと思うけどな」
ブライアンはため息をついて手紙を睨んだ。
こういう時は、隊長の指示を仰ぐのが妥当なのだろう。しかし、隊長は今日は非番であり、たかだか手紙一通に呼び出すのも忍びない。
ブライアンは迷った末、手紙の封に手をかけた。
「重要なことであれば隊長に報告。どうでもいいことであれば燃料行き。でいいよな」
「問題ねぇだろ」
「……いいんじゃないですか?」
ひょっこり顔を出したデューイが、不思議そうに手紙を眺める。いつの間にか集合していたみんなの注目が集まる中、ブライアンはビリビリと封を破り、中身を取り出した。
中に入っていたのは、映像保存の魔術がかけられた特殊用紙だ。
全員が広げた紙を覗き込む。
「どれどれ……、…………」
「ふむ……、え、は……?」
そして、固まった。
それは、見てはいけないものだった。絶対見てはいけないものであった。思わず固まった隊員達の顔色が白くなる。約一名は冷や汗をだらだらと流しながら、周りの反応を伺っている。
『貴方が人妻に手を出したことは知っている。アリシア・エルヴァーレンの命が惜しくば、三日後の月が頭上に昇る頃に、西の森にある廃屋まで来られたし』
――――副隊長、ついにやらかしやがった……!!!
いち早く復活したのは、手紙を開いたブライアンである。
「ど、どーするよ……」
「どどどど、どうするっつったって、なぁ……」
出来ることならば、この手紙を焚き火に放り込んで見なかったことにしたい。が、しかし。何やら隊長の妻の命がかかっているらしいので、見なかったふりはできない。
「隊長に、報告しますか……?」
恐る恐る呟いたのは、半年前に入隊したばかりの新人隊員だった。
「バカ言え、隊長に報告してどーすんだよ。今日は隊長がいない日でよかったな」
「んだな。バレてみろ、この王宮からシアン副隊長の居場所がなくなるぞ」
「つか地の果てまで追い詰められてサイコロサイズまで切り刻まれるな」
「副隊長……あの人一応節操ぐらいは持ち合わせてると信じてたのに……」
「勇者だ。勇者すぎるぜシアン……」
隊員たちは口々に新人隊員に言い聞かせた。最後はゴリ押しで「隊長には絶対秘密」と無理やり誓わせた。
「いいか、なんかよく分からんが勇者になっちまったシアン副隊長と、隊長の若奥さんを守るべく、我ら王宮近衛隊は立ち上がる!!異論ある奴いるか!!」
「あるわけがないっ!!」
「隊長の奥さんっつったら死姫さんだろ?王族を守るのが俺らの役目だからなぁ」
次々と立ち上がっていく隊員たちを眺めながら、事情を半分ばかり知っているデューイは、小さくため息をついた。
「不倫なんて、あるわけないんですけどね」
とりあえず、あれに写ってるのが自分でなくてよかった。
死姫から出番の少なかった近衛士さん達のターンに。
それにしても主人公の信頼のなさw
だれも「不倫なんかするわけないじゃないか!」なんて言ってくれない。




