⑦ アンチ・アイスバーン作戦
生徒会による挨拶運動を見事に躱して登校したその日の夜
新雪の降り積もる夜空の下に『SVT』は隊員の制服姿で湖の湖畔にあるボート乗り場に集合していた
俺の名前は赤木導
この『Secret Volunteer Team』略して『SVT』に所属している高校1年生だ
これでも実働部隊αチームのリーダーを務めていて、ささやかな重役ではある
「これより、道路のアイスバーンに対抗する為の任務『アンチ・アイスバーン作戦』を開始する。気を引き締めろよ!!」
「「サー・イエッサー!!」」
『SVT』の総隊長、静道彰先輩が声を放ち、復唱が応える
士気は高まり、これから行なわれる作戦への意気込みが溢れていた
「今回の任務は雪かき作戦とアイスバーン解氷作戦の同時進行で行なう!αチームとβチームの二班に分かれてそれぞれ雪かきをし、その後合流してからアイスバーンを破壊する!わかったか!?」
「「サー・イエッサー!!」」
静道先輩が説明した通り、今回は二つの作戦を連続的に行なう。
長期戦になりそうだが、我々『SVT』は民間人に見つかる事が許されないため、今回の任務はスピード重視でとにかく早く行なわれる
『こちらオペレーター、冴崎美咲。周辺の監視システム稼働安定中、現在人影は確認されていません』
「こちら静道、了解した。」
オペレーターは自宅のPCで監視システムの映像を確認して、通信でサポートしてくれる
『SVT』の隠密性を保つためには周辺の索敵は重要事項なのでオペレーターの仕事はとても重要だったりする
『こちら監視官、水爪。暗視ゴーグルで一般人を探していますが確認されません』
「了解」
『同じく監視官、鷹宮。こちらも異常なし』
今回の作戦から導入が決定した監視官はオペレーターが見逃した人影を警戒する為に置かれた人材で『SVT』の中でも特に隠密性能に優れている人間で行なわれる
こちらもまた、オペレーターと同じ理由でとても重要だ
「了解した。実働部隊用意は良いか!」
「「大丈夫だ!問題ない!」」
静道先輩の確認に対して、凄く不穏な空気が漂う復唱が続き、全員の準備完了を証明した
「時間も無い、これよりアンチ・アイスバーン作戦を開始する」
「「サー・イエッサー!!」」
任務の開始が近づき、本格的に緊張と昂りが増して来る
そして、任務前には必ずやる『合言葉』が『SVT』には存在する
それは、スポーツの試合の前に選手達が団結力やモチベーションをあげる為に円陣を組んで意気込みを叫ぶ。いわばあれと同じような事だ
静道先輩が息を吸い、呼吸を整えて、口を開く
「俺たちの心は共に——」
「「AllForAll!!」」
団結力を増す為の合言葉
あの有名な言葉を簡略したものであることは、すぐわかるだろう
この言葉で心は通じ、感情がさらに高まる
「行くぞ!!」
静道先輩の声と共に駆け出す人影
全力の社会貢献が始まる
『αチーム、そこから南東に進んだ位置から雪かきを開始せよ』
「了解!」
一気に駆け出して、各班の持ち場へと到着した
「各員、雪かきを始めろ!!」
「「了解!!」」
俺が命令をして、復唱が続く
メンバーが移動しているのを見つつしみじみ思う
やっぱ上級生に対して命令口調は嫌だよな……
俺の所属する実働部隊は俺を含めて五人なのだが、一年生は俺と五十嵐しかいない
つまり、残り三人は先輩で、あまり命令口調はしたくないのである
俺がリーダーに就任した当初は本当に恐ろしかったからな
今でこそ命令口調ではあるが、昔は敬語で指示をしていた
「敬語だと文字数が増えるから命令口調にしろ」と静道先輩に言われてから命令口調にして今に至る
先輩達も寛大な方々で命令しても気にしていないようだから本当にありがたいものだ……
「……っと俺もさっさと落とさないとな」
塀に上り、そこから縁側の雨よけの上に飛び乗り、さらに上にのぼる
屋根の上についてそのままの動きで背負ったトンボを抜いて雪を落としはじめる
他のメンバーよりも動き始めは遅かったが、すでに雪かきを始めているのは俺だけだ
俺は体が軽く、小さい頃から木登りが好きだったため動きも素早い。
それのおかげで誰よりも早く屋根に上る事が可能で、活動のスピードは俺が一番早い
その活動速度を見込まれてリーダーに指名された訳だが……普通に学年順にしてほしいものだ。
俺は早々に雪を落とし終わる
点滅しかけの街灯で屋根の上が照らされている
氷も張っていない様子だ
「各自、雪を落としたら道路側へ出しておけ!」
「「了解!」」
室内に声が聞こえないように、しかしながらメンバーにはちゃんと聞こえる程度の声で指示をだした
それから屋根を飛び降りて着地する
「ふぅ……やっぱり葉城に作ってもらった靴は良いな……」
屋根でジャンプしても雪の上に着地しても滑らないし、浸水もしない
着地時の振動も殆ど緩和されてかかとの痛みが無い
ホント、ハイテクな靴だな
とか考えつつ道路側に雪をかき出し、他のメンバーが活動を終えるのを待つ
と、点滅していた街灯の動きが止まった
悪い方で。
「視界が暗転した……!照明弾発射用意!」
「了解!」
すぐに視界を安定させるべく裁凪先輩に照明弾の用意を頼むと、すぐに鎌月式グレネードランチャーを空に構えた
「こちらαリーダー、照明弾の発射許可をもらえないか?」
『こちらオペレーター、許可する』
「ありがとう。照明弾発射!」
「了解!発射!」
シュコン!と音がして暗い星空に光がのぼる
照明弾の時間は1分
「急いで作業しろ!」
「α5完了!」
「α2完了!」
「α3完了!」
「α4完了!」
全員が作業を終了して道路に出て来る
照明弾の時間はあと……20秒前後か
「トンボ構え!」
前列2人後列3人の二列横隊で並ぶ
ちなみに、この並びは前列が俺と五十嵐
後列が星霧先輩、銀嶺先輩、裁凪先輩、と学年別になってたりする
トンボが突きたつ雪は下に確かにアイスバーンの感覚があった
「突撃!」
第一班である俺と五十嵐が道路を走り抜ける
その後、合図を出して先輩達を呼ぶ
これでほぼ完全に雪は除外できたので、次は冴崎からの指示を聞く
「こちらαリーダー、アイスバーン上の除雪に成功した。次の指示を」
『こちらオペレーター。よくやったαリーダー。裁凪隊員の持っている鎌月式グレネードランチャーで破壊せよ』
「了解した。グレネードランチャー、アイスバーンを破壊しろ!」
「了解!!」
俺が命令すると何故だか裁凪先輩はほぼ真上にグレネードランチャーを構えていた
そしてシュコン!と、弾が発射された
裁凪先輩は発射後も上向き故の反動軽減の構えをしたままだ
パツッ……
唐突に上空で何かがはじける音がして、見上げてみると何かが降って来た
パキパキパキパキパキ!と、アイスバーンの固い氷に何かが突き立っている
USBメモリーほどの大きさをしたそれらはしかし、外見は全く異なるもの
裁凪先輩はさらにもう一発撃ち上げる
先ほどと同じようにやはり何かが降って来てアイスバーンに突き立つ
「全員、匍匐の体勢をとって下さい」
裁凪先輩がそう言ったので、全員が伏せた。
と、次の瞬間であった
「発破」
パパパパパパパパパーンッ!
裁凪先輩が短く呟いた直後、音が小さめの爆竹の様な感じの音が炸裂した
ふと見てみると、アイスバーンに突き立っていたものが炸裂したようで、アイスバーンは皹が走るどころか、ほぼ粉々になっていた
これって……クラスター爆弾じゃねーか!
内心、めちゃくちゃ驚いている
鎌月式グレネードランチャーは鎌月の完全オリジナル製品で、弾頭も自ら作っているためバリエーションが多い
今回使われた弾は炸裂弾を改造して作られた遠隔起爆炸裂弾
物体は表面にエネルギーを与えるよりも内部にエネルギーを与えた方が破壊しやすい
だから対象物であるアイスバーンに刺さり、炸裂した事でアイスバーンは粉々になっていたのである
「除雪!!」
「「了解!!」」
俺が指示を出して、すぐに動き始めるチームメイト
さっきのように一気に走ってアイスバーンの残骸を撤去する
道路には表面からのエネルギーしか与えられなかった様で、一切の損傷はなさそうだ
そして、ここからが今回の”任務”の重要事項
今後アイスバーンが発生しないように対策をとる事が、重要なのである
「こちらαリーダー。アイスバーンの撤去が完了した、次の指示を」
『こちらオペレーター。よくやったαリーダー。次は塩化カルシウムの散布を行なう。その場で待機せよ』
「了解。全員待機だ!周辺を警戒せよ!」
「「了解!」」
塩化カルシウム。一般的な呼び方で言うならにがり
一番ポピュラーな凍結対策だろう
と、そこにエンジン音が聞こえて来る
「こちらαリーダー!エンジン音が聞こえるぞ!どう言う事だ!?」
『こちらオペレーター。心配いらない』
「心配……いらない?」
ブロロロロロロ……
今、曲がり角を超えて俺たちの前に姿を現したのは一台のバイク
黒塗りのそのバイクは警察が白バイとしても使っているCB1300Pのベース、ホンダCB1300スーパーボルドールだ!
そしてその上に乗っているのは俺たちと同じ服装の人物
「裏寡か!?」
「はい」
フルフェイスヘルメットを外してこちらに顔を向ける裏寡は特に気取った様子も無かったが、物凄くかっこ良くみえる!!
「では、みなさんは次のエリアに移動して下さい。塩化カルシウムは私が散布しておきます」
「りょ、了解した!αチーム、移動するぞ!」
「「了解!」」
あまりのかっこよさに見蕩れてしまい噛んだなんて言えない。さっさと移動する
と、走りながら裏寡を見てみると……おぉ!?
CB1300をバーンアウトさせている
バーンアウトした状態で体の重心をずらしてバイクの向きを変える
と、そこで前輪のブレーキを解除して、急加速
ウィリーしそうになる車体を前傾姿勢で抑え込み、街灯の切れた暗い道路を紅のブレーキランプが軌跡を描く
速度が出たところで後方のサイドボックスが開き、白い粉末が周辺に舞った
あれが塩化カルシウム散布……!!
カッコいい!!
何なんだよ“夜闇を駆ける漆黒の女ライダー”って!?
かっこ良過ぎる羨まし過ぎる……!!
『こちらオペレーター。αリーダー、今回の任務は終了だ。帰投せよ』
「終了……?」
『あぁ、βチームの新型除雪器がうまく働いてな。今日の任務は終わった』
「そうか、了解した。」
『あぁ、各自帰宅だな。今日は反省会はない』
「了解。」
俺はメンバー全員の足を止めて帰宅の命令を出した
今日の任務もまた一般人に見つかる事無く終わった
俺たちの任務
まだ、終わらないな
『こちら水爪、照明弾の残骸を回収しました』
『こちら鷹宮……防諜を完了した』
『了解、全メンバー帰宅せよ。今日の任務は終了だ』
俺たち、最近忍者っぽくなってきたな……
忍者かスパイか。どっちも過去の存在としては諜報員
だが、俺等は違う
社会奉仕こそが俺たちの活動、存在意義
ボランティアはまだ続く
どうも永久院です
久々の更新で第7話
アイスバーンに対抗する話ですね
昼間は生徒会と戦い、夜はボランティア
『SVT』に平和はあるのか……!?