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⑥ 隠密登校作戦

全員、昨日の対生徒会防衛任務が終わった後そのまま家に帰っていて良かった

インカムも、トラップも全部有る

無いものは偵察機

今回の任務では『偵察機を学習準備室から盗み出す』ことから始まる

遅れたが、私の名前は冴崎さえざき美咲みさき

『SVT』のオペレーターをやっている

現在、高校にやや近づき、湖畔沿いの建物の一角の陰にいる

私の他には静道せいどうあきら先輩と葉城はしろ七美ななみがいる

湖畔沿いから高校内部までの様々な地図を広げて『緊急指令本部』とした

このインカムは秘匿性を増したもので長距離での通信は不慣れである、その為全員ある程度高校に近づいて活動する必要がある

そろそろ時間かな……

「全員位置に着いたか」

通信から返答は帰ってこない

隠密活動の任務なので異論が無ければ返答しないようにルールを決めているのである

「それでは、時間が無いので任務(オペレーション)を開始する」

……さて、この布陣でどう動くか

完全に警戒された建物に乗り込む

ハッキングの際にセキュリティホールを探すような感覚だが

今回の任務は厳しい

『攻撃三倍の法則』で敵戦力と真っ向勝負する際は敵の三倍の戦力が無いと制圧できない、という理論がある

今回の場合、それを完全に度外視した非交戦潜入任務スニーキング・オペレーション

見つかれば大戦。見つからないように動く必要がある

取り敢えず指示を出さなければならないが……この一手目が後の作戦で大きく影響を及ぼす

……

「ステルスチーム、校庭に潜入できるか?」

『現在侵入地点を探索している』




俺の名前は裁凪さいなぎ颯太そうた

現在、隠密潜入チーム(ステルスチーム)の隊長として校庭を遠くから眺めて穴を探している

双眼鏡で覗くも、やはり敵らしき人影が見える

これは、米海兵隊でも使われている電子双眼鏡でサーモグラフィーがついていて、この極寒のなかでの索敵には向いている

裏門、警戒中か

車輌進入専用通行口も警戒中

これは思ったよりも侵入が難しいぞ

ステルス迷彩でも有れば……!

校内への潜入は難しい

……!

脳裏に浮かぶ一つの情景

一つだけ、穴があった気がする……!

「こちら裁凪、オペレーターに聞く」

「用件は?」

「体育館脇、校庭側のフェンスに穴があったと思う、真偽を確かめてほしい」




「フェンスに穴……?」

「あぁ、あったな」

思わず口に出していると静道先輩が思い出したように言った

「遅刻しそうになったりするとあそこから入るとバレないんだよ」

「……なるほど、裁凪隊長、あるらしいぞ」

『了解、そこから侵入する』

フェンスの穴から侵入か……悪くはないだろうけど……

「校庭サイドは侵入ポイントも少なくて、警備が薄いかもねー」

「だが、視界も広く開けている、屋上とかに監視が居ると、まくのが大変かも知れない」

付近の警戒をしつつ、会話をしている葉城と静道先輩

……そこの判断は我々にはできない

現地の裁凪隊長にまかせるしか無い……




「クソッ……」

水爪みつま鷹宮たかみやに付近を警戒させているが、異変はないらしい

だが問題は正面

「生徒用昇降口前はやはり生徒会がはっているか……一階各教室も冬だから窓を開けているところは無さそうだな……」

「体育館から侵入しようにも体育館用玄関も生徒会がいる……」

「職員用玄関も生徒会が見張っています」

ここまで完全に警戒された区域へ攻撃する際は本来、人海戦術で押しつぶして行く戦術を選ぶのだが

そんな事はできない

どうするんだ……

と、湖畔のボートに被せてあったと思わしき大きな白いシートが近くに何枚か飛んできた

「……!」

そこで思い浮かぶ奇策

現状、一番ふざけていて、唯一の可能性

時間は無い……これで行くしか無さそうだな!

「水爪!鷹宮!これを被れ!」

手渡したのは白い布

テーブルクロスの様なサイズがあり人間一人をすっぽりと覆える

「これから隠密行動(ステルス)で校舎まで行くぞ!そこからワイヤーを使って四階まで直接登る、いいな?」

「「了解」」

復唱が聞こえ、行動も決まった

鞄の中から大きい物体を取り出す

鎌月式グレネードランチャー

5連のシリンダーがあり、そこに弾を込める

使うのはワイヤー弾

手元のランチャーの銃口から最大で50mのワイヤーを出せる

ただし、今回使うのはただのワイヤー弾ではなく、溶接ワイヤー弾(フレア・ワイヤー)

先端にアルミや酸化鉄を混ぜた物質をコーティングしていて、飛行中に酸化し激しい熱を出す

溶けた先端で対象にくっつくのが利点だ

直接対象に刺さるワイヤーもあるのだが、四階を超える高さの壁のパテを塗るなんてごめんだからな

「行くぞ!」

始まる行動

体勢を低く屈み、三人固まって歩く

足跡が残るが警戒している人は居ない

「先に行け、水爪、鷹宮」

「「了解」」

留まり、狙う

構えるのは鎌月式グレネードランチャー

「行け……!!」

シュコン

先端が赤いワイヤーが一瞬で伸びて行く

音も無く壁に……張り付いたな

この外気では冷めるのも早い、固まっただろう

急いで校舎の真下まで行く

「鷹宮と水爪は付近を警戒しろ、合図を送ったらその布を広げて偵察機とコントローラーをキャッチしてくれ」

「「了解」」

さぁ……大一番だ

手には革グローブがはめられている、これは耐火、対衝撃の優れもので、滑り止めもしっかりしていてワイヤーを登るのには向いている

「じゃ、行って来るぞ」

ワイヤーを強く握り込み、手繰り寄せる

足を壁につける事で重力をロスさせて、負担を減らす

……

日頃から鍛えておいて良かった

無事に四階、学習準備室の窓までたどり着く

リールで体が落ちないように安定させ、インカムに話しかける

「こちら裁凪、現場窓にいる」

『こちらオペレーター、確認している』

「窓が開かないんだ、どうしたら良い?」

『……』

『こちら葉城、今、遠隔操作で開けました』

「あぁ、開いた、ありがとう」

この窓、遠隔操作で開けれるように設定されてたのか……

『健闘を祈ります』

さてと……

「よっ……と」

室内侵入完了

靴を脱いで窓の外、落下防止の段になっているところに置く

屋上からも真下は死角になっていて水爪と鷹宮が見つかる可能性は低いだろう

だが、急がねばな……

「こちら裁凪、偵察機はどこにある?」

インカムに向かって訊く

『こちら葉城、ホワイトボード付近の戸棚の中にあります』

戸棚か

窓際のPCに気をつけて部屋の中に入り込み、戸棚に寄る

こ、これは……!!

MV-22(オスプレイ)のラジコン!!

確かにこれなら大型のカメラも載せれるし、通信機器も載せれるな

だが、本物のMV-22(オスプレイ)は輸送機だぞ!

偵察機なら……OH-1(ニンジャ)とかが良いだろう!

そりゃ本体は小さいけど川崎重工製のOH-1(ニンジャ)は機動力バツグンで、縦旋回までできる!

今後OH-1(ニンジャ)AH-1(コブラ)の合体版のヘリが作られるとの噂もあり、期待大だ!

……っと、熱くなってしまったな

「コントローラーは……っと」

見つけた

さっさととんずらするかな

窓の外に出てワイヤーを数回引く

そうすると何度か引き返される

下を見れば白い布を広げてこちらを見上げている二人の姿が見える

手を離して、ラジコンを落とす

オスプレイ墜落

無事、布に受け止められたようだ

コントローラーも落とし、インカムに報告をする

「ラジコンを地上部隊に降ろした」

『了解した』

『裁凪、お前はもう校内に残れ。後の任務のリスクを考えてお前は校内に留ることが最適だ。』

「了解」

『ワイヤーは酸弾アシド焼夷弾フレアで外しておいてくれ』

「わかったよ」




僕の名前は水爪みつましょう

ラジコンを回収したところだ

一緒に居るのは鷹宮たかみや幽麒ゆうき先輩

隠密行動チームとしてよく組ませてもらっている

今回、裁凪先輩が一緒に行動していたけど、もう仕事は終了らしい

僕らの任務はこれを届ける事

「どうしますか?鷹宮先輩」

寒いのか布に包まって気配が消えていた先輩に声をかける

「届けないと……いけない……」

「来たルートと逆で行きますか」

「そうだな……」

僕も白い布を被りかがむ

結構大きめのラジコンだが、持てない事も無いので頑張って持って歩く

帰る時は足跡に沿って歩けば良いから楽だ

……

そろそろ着くか

目の前には穴の開いたフェンスがあり、安堵する

「水爪君、荷物は私が運ぶ」

そこには裏寡うらか香奈かなさんが居た

横には白と灰色で迷彩塗装されたスノーモービルがある

何故か知らないけど裏寡さんは車輌の運転には長けているからね……スノーモービルもできるのか

「水爪君と鷹宮先輩はここで待機して下さい」

「うん、お願い」

ラジコンを渡し、鷹宮先輩もコントローラーを渡す

「くれぐれも警戒を怠らないように、気をつけて」

裏寡さんはやっぱり静かだな……

ブロロロロ……とエンジン音を響かせて動き出すスノーモービル

一気に雪を飛ばしながら走り出す

わざわざ任務の為にスノーモービルを取りに家に帰るのもマメな人の証かな

そう言えば、裏寡さんの家って学校から近かったな

『SVT』で唯一の兵站

任務において車輌を使う時に活躍する裏寡さんは特殊実働部隊(βチーム)に所属している

「僕も実働部隊に配属されたいな……」

切実に、思う




ブロロロロ……

裏寡うらか香奈かな、ラジコンを運んできました」

「ご苦労だったな。葉城、使え」

「了解っ!!」

裏寡が無事に偵察機を運んで来てくれたから、計画が前進した

スノーモービルの利用により、時間もやや余裕ができた

後は任務を滞り無く進めるだけ……

「こちらオペレーター、偵察機の確保に成功した。裁凪隊長以外、全員指令本部に来い」

『『了解』』

復唱

「葉城、動かせるか?」

「はいっ!問題なくフライトできそうです!」

静道先輩と葉城の会話を聞くところ、順調だな

「葉城、先にフライトを始めろ。索敵を頼んだ」

「了解っ!」

二つのプロペラが上を向いたラジコンが離陸する

ある程度高度が上がるとプロペラの角度を変えて飛んで行った

これで屋上の敵を索敵、その他地上の敵達も確認できる

その後は、いよいよ全員で進入

と、集って来たな

全員……いるな

鷹宮先輩の姿が見えにくかったけど、無事にいる

裁凪先輩は現在、校内にいるから数えない

「屋上は……正門サイドに二人いるね、それ以外は居ないみたい」

葉城がスマホに映った映像を見ながら言う

あのラジコンの映像はスマホで受信できるのか

「うーん……一番警備が薄いのは言うまでもなく屋上なんだけどね……校庭サイドが薄い方かな」

地図の上に石が置かれていく

その石が生徒会役員ということかな……

「確かに警備は薄いが、裏門から昇降口までは広く開けた校庭で障害物が無い、距離もあるから確実に見つかるだろう」

「質量で逃げ切りゃ良いんじゃ無いんすか?」

静道先輩が呟き、五十嵐が反応している

「いや、見つかれば校内までも追いかけて来る、連中の方が人数は多いからSHRショート・ホーム・ルーム開始まで逃げ切れないだろう」

赤木あかぎが見解を見せる

「でも、体育館玄関も警備員(生徒会)がいるから、西側からの突入も厳しいね」

銀嶺ぎんりょう先輩の言う事ももっとも

「どうしたものかしらねぇ……」

「気付かれる前に警備を気絶させるのも良いんじゃねぇか?」

頭を抑えながら星霧ほしきり先輩が言い、荒威あらい先輩が笑う

現在、作戦会議は至難を極めていた

状況打開策は……

「あのー……裁凪先輩は校内にいるんですよね?」

鎌月かまつきが声をあげる

全員が静まる

「体育館は恐らく、玄関しか警戒されていないはずです。でしたら、体育館横の大きな扉を開いて、そこから入れますよね」

「「……!!」」

全員に走る声の無い歓喜

その作戦があったか……

体育館と言うのは大抵、フロア横に通気用と思わしき大きな扉がある

本来その扉は施錠されていて生徒が通れるのは体育の授業中か放課後の部活のときだけ

警備を立たせようとは思わない位置だ

あの扉を校内にいる裁凪先輩に開けてもらい、侵入する

体育館と校舎を繋ぐ渡り廊下を通り、外にいる生徒会にバレないように昇降口で靴を置き、上履きに履き替える

そこから先は学習準備室で立てこもるなり、教室にいるなりしていれば大丈夫だ

……よし

「全員、その作戦で問題は無いか?」

静道先輩が声をかけて、全員が頷く

「冴崎、裁凪に連絡してくれ」

「了解…………こちらオペレーター、裁凪隊長、応答せよ」

『こちら裁凪、聞こえている』

よし……任務が完全に終了するまではインカムを外さないように心がけていたようだ

「これより作戦を第二段階に進める。裁凪隊長、隠密行動(ステルス)で体育館に忍び込み扉を開けてほしい」

『了解……生徒会に見つからなきゃ良いんだな?』

「あぁ」

『だとすれば、生徒会は総動員で警備体制に当たってるから校内の警備はほぼゼロのはず。隠密行動ステルスよりも速度重視の行動を選ぶべきでは?』

「そうだな、では高速行動(スピード)で頼む」

『了解』

……さて、と

「全員、動くぞ。目的地は体育館裏」

「「了解!」」

全員の復唱




「まったく……作戦内容は命令でわかったが……俺への負担が大きいだろうに」

鞄を降ろしながらぼやいても現実は変わらない

上の白いコートを脱ぎ、普通の制服になる

「隠密行動なんかしてたら時間足りねーからな」

静かにドアを見つめる

行くかな

ドアの鍵を外して、ドアを開ける

左右を確認しても誰もいない

ドアを閉めて駆け出す

ここは校内東側に位置しているから西側、体育館の方向にかける

すれ違うのは登校が早い生徒達

生徒会はいないな……

いたら「廊下は走るな」とか言って来るだろうからな

西の階段を駆け下り二階で渡り廊下を駆ける

体育館玄関と渡り廊下からの階段は死角同士になっているので問題は無いだろう

フロア寒いな……!

扉を開けてインカムに呼びかける

「こちら裁凪、扉を開けたぞ」

『了解、もう到着する』

……

来た

こちらを見て合図を送って来る

『敵影は?』との合図だ

『問題無し』、と

ぞろぞろ……合計12人の仲間が来た

「裁凪、今回の作戦はお前のおかげで順調に進んだ。感謝しているぞ」

「これが俺たちのやり方だろ?静道」

「あぁ、『手段は選ばず、制約は破らず』」

自分たちに課した制約の範囲内で手段を選ばない

これが仕事だ

「取り敢えず……任務完了ミッション・コンプリートだな?」

「おう、一件落着だな」




こうして、隠密登校作戦は成功に終わった

生徒会との戦いは疲れるが、これから授業である

『SVT』の仕事はこれからだ




どうも、永久院 悠軌です

長くなりました

生徒会とSVTの戦いはまだまだ先がありそうです

次回はたぶん、アイスバーン防止作戦になるでしょう

僕の地元も丁度今雪が積もっていまして……雪かきが大変です

元が水分だけに重いのなんのって……

過去の話に出て来た『酸化カルシウムで解氷』する作戦は僕が実際にやった事があったので書いたんですよ

跡が白くなってしまい、後処理が大変でした

寒い中、親に「綺麗にしてこい」って言われて水で洗い流して……また凍りついて


みなさん、油断はなりませんよ

寒さの本気はこれからです

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