③ 緊急事態宣言
『緊急事態だ 直ちに司令部まで来い』
一日の授業を終えて家に帰ろうと思った時 何気なく見たメールには静道彰先輩からの命令
赤木導は戦慄した
あの静道先輩が緊急事態を宣言した……!?
過去にそう多くあった事のない緊急事態宣言
これは……ヤバそうだ!!
「冴崎!!水爪!!」
教室を見渡して二人の生徒に声をかける
冴崎 美咲
口調が淡々……というか抑揚無く、無邪気になんでも喋り始める電波さん混じりの奴だが 『SVT』のオペレーターと情報部長を兼ね備えている人材
水爪 祥
高校生とは思えないショタな外見をしている男子生徒で 俺のクラスメイト
小学生の様な外見なのだが 意外と凄まじい特技を持っている
その特技は『任意で自分の存在感をコントロールする』と言うもの
どういったシステムかは不明だが 水爪は自分の存在感をコントロールして相手に気付かれないようにする行動
つまり隠密行動に優れている
残念ながら小柄故に実働部隊には配属されておらず その隠密性を活かした『諜報』『尾行』『監視』『警戒』等の仕事を専門としてやっている
「わかっているよ 急ごう」
「行きましょう」
二人から返事を得て 教室を飛び出す
「緊急事態宣言……何が起きたのでしょう」
「全員招集をかけられている かなりヤバい事は確かね」
「なんだか知らないけど、さっさと行くぞ!!」
廊下を疾走していると横に人影が並走して来た
「αリーダーさんは、今回の一件、どう、思う?」
走る事で息が途切れながらも話しかけて来るのは……
葉城 七美
『SVT』科学技術部長
外見が中1くらいの女子にしか見えない お子様
無邪気でありながら 裏腹 高い工作技術を持っていて「作ろうと思えば何でも作れる」を口癖に 様々なカオスアイテムを制作している
「こっちも話していたところだ あの静道先輩が緊急事態を宣言するなんてよほどの事だろうが……」
俺は体力をつけているのでこの程度で会話に支障が出るほどまで息が荒れる事は無い オペレーション中はもっと派手な動きもするからな
「もしかしたら昨夜のオペレーションで何か不具合が見つかったとか……」
葉城の隣を走りながら話してくるのは鎌月 舞
葉城とともに1年2組の女子で こちらも『SVT』科学技術部に所属
肩までのばした髪が揺れているが 外見的な印象は薄い人物だ
凄まじい行動力を持っていて物を作る際の技術、精度は高い
さらに代々家系が心理学系とかで 『SVT』内で唯一の『交渉人』でもある
尋問術 交渉術に関しては一般人を遥かに凌駕していてわずかに会話をするだけで簡単に心を読まれそうだ
「確かに……このタイミングでの緊急事態宣言ってことは オペレーションとの関連が考えられますね」
「わたしはオペレーターだったから何もトチってないよ」
「やっぱ、石灰、残しちゃった、からかなー」
「真相を知る為にも急がないと」
「鎌月の言う通りだ 急ぐぞ!!」
急いでフロアの端 『学習準備室』に入る
「実動部隊隊長 赤木 導 出頭しました」
「情報部長 冴崎 出頭」
「情報部 水爪 祥 出頭しました」
「科学技術部長 葉城 七美 出頭!!」
「科学技術部 鎌月 舞 出頭です」
各自挨拶をして 席に着く
「全員到着したな」
既に俺たち以外のメンバーは集っていたらしく 静道先輩が口を開いた
「今回 緊急事態宣言を出した 実に5ヶ月ぶりの宣言だ」
全員の緊張の糸が張りつめる 先輩の口調からして 過去の例を上回るヤバい事になっているのは確かだ
……
沈黙はすぐに破られる
「『生徒会』の連中が動き始めた」
……!!
『生徒会』、学校の組織の中では『教員団』に続きランク2の権力を持つ組織
重要会員は5人 『生徒会長』をトップに『副会長』『書記』『会計』『広報』の四天王を含めた五人が幹部
そして、その下っ端 次期会長や各専門委員会委員長等の高レベルも含めるとかなりの人数になり
個々の性能も相まって 権力は莫大な物となっている
「一体 何があったと言うんですか?」
冴崎が口を開き 静道先輩に問う
「……俺と荒威で授業を受けていたときに 前の席の御奈沢と富寺の会話を聞いてな」
『SVT』の総合リーダーである 静道彰先輩
そう言えば2年3組に在籍していて 『生徒会長』も同じクラスだったか
「『生徒会長』御奈沢と『副会長』の富寺 連中が話していたから警戒していたが かなりヤバい事になりそうだ 荒威、あれを」
「あいよ」
声をかけられて おざなりに答えた大男
制服をかっちりと着ている背が高く肩幅もあるマッチョの男は 静道先輩のクラスメイト
名前は 荒威 大
科学技術部や情報部などの部門には所属していないのだが凄まじい身体性能を持っているため特殊実動部隊 βチームのメンバーになっている
噂だとこのゴリマッチョ 片手だけで握力が60超えているらしい
その荒威先輩が懐に手を伸ばし 細長い機器を取り出す
ボイスレコーダー
所謂録音機だ
その再生ボタンを押して……
『ついに『SVT』の詳細を掴んだ、ですって??』
『えぇ、パソコン部の連中に現場付近の監視カメラのハッキングして情報を提供してほしい、と依頼したところ 暗いが人影が映っていた、との報告がかえってきたんですよ』
片方は聞き覚えのある女性の声 御奈沢雨羽先輩の声
もう片方の男の声も聞いたことがある
富寺 卿侍
銀縁の眼鏡をかけていて 知的で、怜悧な印象のある 背の高い先輩だ
マッドサイエンティストの様な『探る視線』をいつも宿していて 凄まじい観察力を持っていたとか
学校の中のランク2である事は言うまでもない……
『全員黒い服を来て 総統のとれた動きで住宅地を走っていたそうですよ』
『一般人じゃないですね……ですが証拠がありませんから、今回も彼らの勝ちでしょう』
『いや、監視カメラのデータを詳しく解析したところ 後ろの静道君が普段着ているものに極めて類似したジャケットを着た集団だったとのことで 何らかの関係性が疑えます』
『動画を盾に強制捜査をすると言うのですか??』
『彼らが行なっているのは犯罪行為です すぐに手を打たなければ警察沙汰になります』
『……それもそうですね では、どうしましょうか??』
『放課後、校内の一斉捜査を行い メンバーを探し出しましょう それから生徒会室に連行して取り調べをすれば……』
『彼らのチームワークは予想以上ですよ 逃げられるかも知れません こちらとしては深追いする事は許諾されませんし、翌日に同じ作戦で挑むのも校内の人々に迷惑です』
『安心して下さい 既に沢山の人材を集めました 今日だけで確実に捕まえれます』
『……そう。では、その作戦で行きましょう、放課後に一度 生徒会メンバーを生徒会室に集合させてから やりましょう』
『了解です』
…………
「……さて、全員聞いたな?由々しき事態だ なんとしてもこの事態を打破しなければならない」
先輩がそう言って括ろうとしたのだが
「静道先輩」
冴崎が手を上げて声をかけた
「ん?何だ?冴崎」
「今回の一件 日頃から隊員のジャケットを着ている先輩の責任じゃないですか」
「こら冴崎そういう事言わない」
全員同感の空気だった 無論、冴崎の意見に
「と、とにかくだな 今は非常にヤバい状態だ 内部抗争をしている場合ではない!!」
「そうですね」
「まぁ……確かに」
「だろ!?さぁ、打開策を考えるんだ!!」
んー……
不服でありながらも各自考え始める
「なんか警察がやっている風俗店一斉摘発みたいだな……今回の案件」
「しかも風俗店サイドで考えろとか……将来役に立たない事を祈るわぁー」
学校の制服はそっちのけで迷彩服を着ている男とポニーテールのお姉様が厭味を言う
迷彩服の男 名前は裁凪颯太
一応これでも2年生で 見ての通りミリヲタ
いつもは眠そうな目をしていてやる気が感じられない人なのだが ミリタリー成分に触れると目が煌めき やる気を迸らせて 恐ろしい勢いで動く
一応 実働部隊所属になっているから俺のチームメイト、もとい部下になる
それからポニーテールのお姉様
こちらも2年生で名前は星霧麻菜
豪快な性格で 男子に匹敵するほどの力がある
俺も一度腕相撲で勝負して負けたんだよな……トラウマだ
戦力としては一級品だがサボり癖が強い一面もある
身体性能の結果 αチームに所属している
……キャラ濃いなー『SVT』
「風俗店に五十嵐が通ってるとか 風俗店で銀嶺が働いているとかそう言う事はどうでもいいからさっさと考えろ!!」
「通ってないっすよ!?」
「僕はバイトはしない主義だよ」
静道先輩が唐突に名前をあげた二人も紹介しておこう
五十嵐 駿
荒威先輩ほどではないもののかなりの運動神経がある1年生
髪は金髪で一見すると不良なのだが ボランティアに参加する辺り 根は真面目の伊達ワルらしい
他の人のキャラが濃いのでやや陰が薄くなっている……とか言っちゃいけない
こいつも実働部隊所属のメンバーだ
もう一人
銀嶺 静流
『SVT』実働部隊所属 つまりチームメイト この人も2年生だ
イケメン ただその一言で形容できてしまうような人……なのだが
「ま、悪魔祓いなら何度かやっているけどね……」
少しシリアスな顔をして重い過去を話すような口ぶりで呟く先輩
そう、重度の厨二病を煩っていて 『イケメンの厨二病』というとても残念な人になっているのだ
ただし、そのイケメンな仕草、顔、声をつかって行なわれる『ハニートラップ』は『SVT』の諜報活動の一部に使われるほどの精度がある
……ホント、キャラ濃いな
もうこのまま『SVT』全員紹介しちゃおうか!!
「相手は長期戦を恐れているんだから、こちらは長期戦で望めば良いんじゃ……?」
掻き消えそうな声で言っている髪が長い男は2年生の鷹宮幽麒先輩
ギャルゲーの主人公のよう髪を長く伸ばしていて 陰が薄い
水爪のように任意ではないものの その隠密性能は水爪を超えるものがある
水爪とともに『防諜』の仕事を行なったり 『尾行』『監視』等の要人警戒を得意としている先輩だ
なんといっても地味
「それだ鷹宮!!長期戦!!……どうするんだ!?」
少しずつ荒れて来る場
「時間が無い……ここを突入されて身柄を確保されたらアウト かといって自分たちだけ逃げたって物的証拠が残る……指紋を拭き取って逃げても間に合わない……」
「防衛戦なら ここを守れる」
言葉少なに呟いたのは俺の同級生の裏寡 香奈
一貫して言葉が少なく 近付き難い存在
だが、その無口な性格の裏腹 ありとあらゆる車輌の運転整備に長けている、という謎の人物
無免許の癖しやがって何でも運転できるからな……
運転技術で 特殊実働部隊βチームに所属している
「……!!全員静まれ!」
静道先輩が声を張って 全員がとまる
全員の顔を見渡してから口を開く
「防衛戦でここを守るぞ!最終下校時刻までこの『学習準備室』を防衛すれば俺らの勝ちだ 逆に最終下校時刻までにここに乗り込まれたら負け また、メンバーが捕虜にされてもアウトだ 全員自分を守りつつ 仲間を守り この部屋を守るぞ!!」
……この他に作戦は見つかりそうに無い
「αリーダー 了解」
俺の返事の後に他の面子も返事をして作戦が決定した
「では、メンバーのフォーメーションを言う 冴崎はいつも通りオペレーターを頼むぞ」
「了解」
「赤木と銀嶺、それから鎌月 三人一組で行動しろ 場所はここのフロアの廊下だ リーダーは赤木 チーム名はαチームだ」
「赤木 了解」
「銀嶺 了解したよ これが定めだと言うのなら……」
「鎌月 了解しました」
「次、俺と五十嵐と荒威の三人で戦前 生徒会室前で攻防する 生徒会メンバーの動きを鈍らせるのが目的だ リーダーは俺 チーム名はβチーム」
「五十嵐 了解」
「荒威 了解した」
「裁凪と葉城、星霧は四階の階段付近の警備ここから近い方を担当だ リーダーは星霧 チーム名はγチーム」
「裁凪 了解」
「葉城 了解です!」
「星霧 了解」
「水爪と鷹宮は防諜だ 警備の際に位置を割り出されるかもしれないから割り出されないようなフェイクで動き回ってくれ 一応リーダーは鷹宮 チーム名はσチーム」
「水爪 了解しました」
「鷹宮 了解……」
「裏寡は急いで増援を呼んでくれ 今回の敵は俺たちだけでは勝てないかもしれない」
「裏寡 了解」
「全員 いいな!」
即席だがいいフォーメーションだ
俺のチームは交渉の鎌月と女性の相手のプロの銀嶺先輩 ここまで来る連中は話し合いで解決するみたいだな
だが、単純戦力も無いと丸腰同然の警備になるから俺も配属
生徒会室は敵地拠点になるため そこで大騒動を起こして生徒会の戦力を止める
そこで戦力が別れることを想定して星霧先輩たちを送る
防諜班の仕事は先程の通り
裏寡はバイクの走り屋なんぞをやってるからバイク好きの不良に応援を要請するんだろう
この作戦ならいける……!
「行くぞ!出陣だ!」
響く声と共に全員が動き始めた
世にも奇妙な生徒会とボランティア集団の全力バトルは今、始まろうとしていた
『SVT』隊員の全員が登場!
キャラの濃い『SVT』に舞い込んで来た『緊急任務』
生徒会との全面抗争が決定し 作戦を練り始める
さて、次回は戦闘シーン!!
また、長くなりそうだ