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『境界線の夜明け』  作者: キロヒカ.オツマ―


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第九章 焼け跡の真実



夜明け前の雨が、すでに小降りになっていた。

加瀬直人は、港へ向かう歩道橋の上で足を止めた。

視界の先、旧印刷工場の屋根の上から薄い煙が上がっている。


——遅かったか。


心臓がどくどくと鳴る。

“あの声”が耳の奥でささやいた。


「中に入れ。まだ、残っている。」


警戒しながら敷地内へ入ると、焦げた紙が雨に濡れて地面に貼りついている。

インクの焦げた臭いと、どこか生臭い匂いが混ざり合っていた。


工場の中央には、黒く焼け焦げた机。

その裏には——かすかに、金属片が光っている。


直人は震える手で拾い上げた。

USBメモリ。

桐島が映像で言っていた“証拠”だ。


「これが……真実の鍵……」


その瞬間、背後で小さな物音。

反射的に振り返ると、壁の影に人影があった。


「誰や!」


沈黙。

懐中電灯を向けると、壁際に——

焼けただれた布をまとった“何か”が横たわっていた。


焦げた髪、崩れた皮膚。

だが、指先に残る赤いマニキュアが、誰であるかを告げていた。


「……桐島、さん……」


直人の膝が崩れた。

目の前の現実が、音を立てて崩れていく。

まるで、心の奥の“秩序”という支柱が燃え落ちるように。


「彼女を殺したのは……お前じゃないのか?」


また“声”がした。

どこからか、誰かが自分を見ているような感覚。


「違う……俺じゃない……!」


「本当にそうか? お前の手を見ろ。」


直人は自分の手を見る。

煤で黒く染まり、指先には小さな火傷の跡。

記憶が断片的に蘇る——

炎、叫び、逃げる足音。


(俺が……火を……?)


頭がぐらぐら揺れる。

“声”が重なり合って渦を巻く。


「お前は彼女を救おうとした。」

「いや、焼き殺したんだ。」

「どちらも真実だ。」


「やめろ!!!」


直人は耳を塞いで叫んだ。

それでも声は止まない。

彼の脳内で、現実と記憶と幻覚がせめぎ合う。


そのとき——

遠くからパトカーのサイレンが聞こえてきた。


警官のライトが工場の外に差し込む。

「いたぞ! 加瀬直人だ!」


直人はUSBを握りしめ、裏口へ走る。

背後で警官の声、無線の音、足音が混ざる。


倉庫の影に身を潜め、雨に濡れた頬を拭う。

ふと、懐から桐島の名刺が落ちた。

裏面には、見覚えのない手書きのメモ。


【SION計画/希望の灯=βテスト】

【担当:安田議員→長谷川研究所(豊田)】


「……安田?」


それは、桐島が以前、寄付金問題で名を挙げていた与党の若手議員の名だった。


桐島は、何か国家レベルの研究——“希望の灯”の裏の計画に関わっていたのか?

そして、それを知った彼女は消された……?


——だとしたら、俺が握るこのUSBは……。


「それが、お前の“証明”であり、“罪”でもある。」


“声”がまたした。

だが今度は、どこか冷静で、導くようだった。


直人は息を吸い込み、顔を上げた。

「……もう逃げへん。今度は俺が、暴く。」


警察のライトが近づく中、

彼はUSBを胸ポケットに押し込み、静かに港の闇に消えた。


——この夜が明ける頃、

 名古屋の街は、彼の存在を完全に“敵”として扱うことになる。

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