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『境界線の夜明け』  作者: キロヒカ.オツマ―


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第六章 行方不明



翌朝、倉庫に着くと、美咲の姿がなかった。

いつも彼女が座っていた作業台の端は空いており、代わりに無言の緊張が漂っていた。


「美咲さん、休みですか?」

直人が尋ねると、北山は面倒くさそうに答えた。

「知らん。昨日から連絡取れへんらしい」


それ以上、誰も何も言わなかった。

ただ、全員が“何か知っている”ような沈黙を共有していた。


昼休み。

直人は携帯を取り出し、昨夜美咲が送ってきたLINEを何度も見返した。


「明日、桐島さんのこと、もう一度調べてみます」

「北山さん、何か隠してる」


既読になったまま、返信はない。

既に削除されたか、アカウントごと消されているようだった。


胸の奥に冷たいものが走る。

同時に、頭の中がざわざわと騒がしくなる。

——誰かに見られている。

——壁の向こうに“気配”がある。

——監視されている。


直人は耳を塞いだ。

けれども、音は頭の中で反響し続けた。


(やめろ……もう、やめてくれ……)


過呼吸が始まる。

息が浅くなり、指先が痺れた。

倉庫の冷たい空気の中で、彼は一瞬、遠のく意識を必死に引き戻した。


——幻聴と不安発作。

診断を受けたのは数年前、福祉事務所の勧めで訪れた心療内科だった。

「統合失調傾向と発達障害の併存。過度なストレスで現実感の喪失が起こる」

医師の言葉は、今まさに現実となっていた。


作業を早退し、直人は桐島の事務所に向かった。

古い雑居ビルの三階。

「希望の灯」——看板の下には、テープで貼られた紙が一枚。


【関係者以外 立入禁止】


鍵はかかっていなかった。

中に入ると、事務机の上に封筒が一つ。

差出人は「愛知県福祉推進課」。

開封済みで、中には「助成金交付決定通知書」。

金額は——三百万円。


だが、通帳の写しを見ると、すぐに“北山商事”の口座に移されている。

つまり、助成金は“消えていた”。


そしてもう一枚。

封筒の奥に、折り畳まれた紙。

そこには走り書きのような文字。


「彼女を助けたいなら、今夜、港の第三倉庫に来い」


直人は息を呑んだ。

震える指先で紙を握り締める。


——美咲。


頭の中で、声が聞こえた。

“行け。彼女はお前を待っている。”

“お前にしかできない。”

“今度こそ、逃げるな。”


幻聴か、直感か、もう区別がつかなかった。

だが、その声だけは確かに“現実”に感じられた。


夜。

港の第三倉庫。

照明の落ちたコンテナの群れの中、ひとつだけ明かりの漏れる建物があった。

ドアを開けると、中には机とパソコン。

モニターには無数のデータが表示されていた。

「希望の灯」の寄付金リスト、送金履歴、関係者名簿——。


その中に、“桐島紗江”の顔写真。

そして“北山洋一”と並んで写る、ある人物の名前があった。


——「名古屋市議会議員 村瀬信義」


直人の心臓が激しく脈打った。

その瞬間、背後で足音。

振り向く間もなく、何者かが彼の頭を殴打した。

視界が歪み、闇が押し寄せる。


倒れかけた直人の耳元で、誰かの声が囁いた。


「——余計なことに首突っ込むな、生活保護者風情が」


その言葉だけが、脳裏に焼き付いた。


意識が遠のく中、直人はぼんやりと思った。

(やっぱり……俺の存在なんて……)

しかしその次の瞬間、別の“声”が響いた。


——「違う。お前には、まだ“使い道”がある。」


冷たい床に倒れたまま、直人の中で何かが切り替わった。

恐怖ではなく、怒りでもない。

ただひとつの“確信”。


——自分が、この真実を暴くために生き残るという確信だった。

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