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『境界線の夜明け』  作者: キロヒカ.オツマ―


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33/43

第33章 消された記者


翌朝。

新聞の一面に、どこか見覚えのある記事が載っていた。

《フリー記者・高木隆一さん、行方不明に》。

最後に目撃されたのは、昨夜午後8時半、名古屋・栄三丁目の喫茶店付近。

携帯電話は圏外のまま。

同行していた人物は特定されず。

警察は「事件性は薄い」として、公開捜査を見送った。


――“事件性は薄い”。

その言葉を見た瞬間、山崎の手が止まった。

胸の奥が、ひどく冷たくなった。

自分が高木と会う約束をしていた時間。

彼は、消えた。


庁舎のエントランスに入ると、すでに何人かの職員がその記事の話をしていた。

「フリーの記者って危ないんだな」

「やっぱ、変なネタを掘るとそうなるんだよ」

誰も、深くは詮索しない。

まるでそれが“当然のこと”であるかのように。


山崎は静かに自席に座り、端末を開いた。

行政ネットワークに接続してから、β計画関連の内部フォルダにアクセスする。

――アクセス権限が削除されています。

画面に無機質な文字が浮かんだ。

さらに、自分のメールアカウントも一部凍結されていた。


「山崎さん」

背後から声をかけてきたのは、上司の小田だった。

「昨日、厚労省の中里さんが来たって聞いた。何の用だった?」

「研究助成の報告書の件です」

「……それだけか?」

「はい。」

彼の視線が鋭くなる。

「この時期に、余計な動きはしないでくれ。βの件は、もう“終わった話”なんだ。」

“終わった話”――そう言われたとき、山崎は悟った。

庁内全体が、上からの“指示”で沈黙している。


夜。

帰宅した山崎は、玄関の鍵が少しだけ回しにくくなっていることに気づいた。

ドアの内側に靴の位置のずれ。

そして、居間の棚に置いたUSBの金庫の角度が、微妙に変わっていた。


「……誰か入った。」

すぐにスマートフォンを取り出し、録音を開始する。

冷静に部屋の中を確認し、引き出し、寝室、押し入れ――

すべて、微かに触れた形跡がある。

警察に通報しようかと一瞬思ったが、やめた。

内部の誰かが関与しているなら、通報自体が“通報先に筒抜け”になる。


その夜、彼女は外のコインロッカーをいくつも回り、USBの分割コピーを3か所に隠した。

暗号キーは、自分しか知らない方法で分割して記録。

翌朝、封筒をひとつ郵便局で投函した。

宛先は、かつて高木が所属していたネット系独立メディア《Voice9》。

差出人の欄は空白。


三日後。

その《Voice9》の公式サイトに、一本の記事がアップされた。


【告発:厚労省主導の医療研究“β計画” 死亡事例隠蔽の疑い】

文責:編集部。

本文の末尾に、小さく添えられた一文。

「この原稿は、行方不明となった記者・高木隆一氏の端末に残されたデータをもとに再構成したものです。」


ネット上では瞬く間に拡散した。

「国家ぐるみの研究」「倫理委員会の隠蔽」「被験者の死亡」。

だがその熱は、二日ももたなかった。

記事は翌日、「編集上の不備」を理由に削除され、編集部の代表は「誤情報だった」と謝罪した。

主要メディアは一切取り上げず、SNS上の投稿も次々と凍結された。


――見えない“消去”が、また始まった。


山崎は画面を見つめ、静かに拳を握った。

高木の死も、直人の死も、また“なかったこと”にされる。

それでも彼女の目には、はっきりとした光が宿っていた。


その夜、彼女は地下鉄の終点・藤が丘駅の近くにある古いビルの一室を訪れた。

インターホンの横には、手書きの紙が貼られている。

《報道独立ネットワーク・中部支部》

ドアが開くと、二十代半ばの青年が顔を出した。

「……山崎さんですね。高木さんから聞いてます。」


「あなたたち、誰?」

「僕らは、“Voice9”の残りです。記事を消されたけど、データはまだ生きてる。」

青年はUSB型のデバイスを差し出した。

「これ、見てください。被験者リストに“生存扱い”の名前がひとつ残ってる。」

画面に浮かび上がったコード――


Subject No.000:Naoto.K


山崎の心臓が跳ねた。

「……直人が、生きている?」


青年は頷いた。

「データ上では“観察継続中”になっています。

 β計画の最終段階、“K-Protocol”――直人さんは、その中枢にいます。」


山崎は、目を閉じた。

直人が消えていった夜の、あの冷たい雨の匂いが蘇る。

あれから一年。

すべてが、まだ終わっていない。

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