第三章 薄暗い倉庫の作業場
午前九時。
冬の名古屋は風が冷たく、空気が乾いていた。
直人は、地下鉄中村公園駅から徒歩十五分の倉庫前に立っていた。
トタン屋根の古びた建物。
壁には「合同会社ユニテック物流 作業場」と書かれた小さな看板がかかっていた。
桐島から「最初のお仕事です」と言われ、紹介状を渡されたのは三日前のことだった。
仕事内容は、リサイクル品の仕分け作業。
ペットボトルのキャップや古紙、金属類などを分類して袋詰めする。
「体に負担のない軽作業」と説明された。
倉庫の中は薄暗く、蛍光灯が二本だけ点いていた。
五人ほどの男女が作業台に並び、手を動かしている。
皆、黙々と無表情で、会話らしい会話はなかった。
「新しく来た加瀬さんだね」
声をかけてきたのは、四十代くらいの男性で、髪を短く刈り上げ、作業服の上から腕時計を光らせていた。
「ここを任されてる北山です。桐島さんから聞いてるよ。まあ、無理せん程度にやってもらえれば」
北山は淡々としていたが、どこか目が鋭かった。
労働者というより、“管理者”の視線。
直人は少し身をすくめながら「はい」とだけ答えた。
作業は単純だった。
古紙を仕分けて、金属を別の袋に移す。
しかし、作業台の脇に積まれた段ボールの中には、リサイクル品ではない“何か”が混じっていた。
見慣れないブランド品の箱や、未開封の化粧品。
誰かが拾ったゴミとは思えない。
(……これ、どこから来てるんやろ)
昼休み。
他の作業員たちは持参の弁当を食べていたが、直人は食欲がなく、缶コーヒーをすすっていた。
その時、隣にいた中年の女性がぽつりと言った。
「ここな、全部“支援物資”って名目やねん」
「支援物資……?」
「寄付で集めたもんを、業者に流してんの。
“希望の灯”がNPOの名義で受け取って、それをこっちで仕分けして、業者が転売するんよ。
働いてるうちらは、日給二千円。桐島さんらは、その十倍くらい抜いてるらしいわ」
直人は言葉を失った。
信じていた“支援”が、まるで別の顔を持っていた。
「みんな分かってる。でも、言えへんのよ。ここ辞めたら、もう他に行くとこないから」
女性はそう言いながら、静かに弁当の蓋を閉じた。
その夜、直人はアパートに戻ると、布団の中で天井を見つめた。
頭の中に桐島の言葉が蘇る。
——「あなたの人生は、まだ途中なんです」
(……本気で言ってたんやろか。俺を“助けたい”なんて、そんなこと)
壁の薄い部屋の向こうから、隣人のテレビの音が漏れていた。
「特集:NPOの不正受給問題」――そんなナレーションがかすかに聞こえる。
直人は目を閉じた。
胸の奥に、小さなざらつきが残ったまま、眠れない夜が続いた。




