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『境界線の夜明け』  作者: キロヒカ.オツマ―


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第20章 真実の行方



午前4時。

東京湾岸の倉庫街。

冷たい潮風が吹き抜ける中、白い軽ワゴンがゆっくりと停まった。


運転席の直人は、バックミラー越しに後部座席の沙耶を見た。

彼の頬はやつれ、右手にはまだ火傷の痕が残っている。

「……これで最後や。俺が出るのは、ここまでや。」


沙耶はうなずいた。

「でも、あなたがいなきゃ——」


「違う。もう“俺”の問題やない。

 これは、この国の構造そのものの話や。」


直人の声は落ち着いていたが、その目には深い決意の色があった。


海外報道の波紋


数日前。

国際調査報道ネットワーク(ICIJ)は、世界同時に「β PROJECT LEAKS」と題した特集を公開した。

日本語、英語、フランス語、中国語。

すべての版に共通して掲載された一枚の画像——

「厚生統合局・内部サーバーログ(β補助被験者リスト)」。


そこには、桐島玲奈、木村直人の名があった。


同時に、海外メディアが政府関係者への取材を公開。

「計画に関与した医師」「倫理審査を無視した大学研究員」「資金を流した政党支部」

次々と実名が挙げられていった。


日本国内では、SNSを中心に“β暴露デモ”が拡大。

都庁前、国会前、大阪・梅田、名古屋・栄……

地方都市にも、手製のプラカードを掲げた人々が立った。


「見えない壁を作るな!」

「障害を実験材料にするな!」


警察は警備を強化し、テレビ各局は「極左過激派の関与」と報じたが、

デモの多くは一般市民、親たち、そして元被験者たちだった。


沙耶の決断


直人はUSBの複製を沙耶に渡した。

「こいつを海外の支局に持っていけ。東京におったら、もう保たん。」


「あなたは?」


「俺は……“灰の記録”を書いた責任を取る。

 それが、玲奈へのけじめや。」


沈黙の中、潮の匂いが強くなった。

倉庫の外では、遠くでサイレンの音が響いていた。


「逃げて、直人!」


「ええ。けど、もう逃げる場所なんてない。」

直人はそう言い、ゆっくりと車のドアを開けた。


「俺は消えてもええ。でも、真実だけは残せ。」


政府の動き


同時刻、霞が関・厚生統合局。

緊急会議が続いていた。


「国際報道が止まりません。各国メディアが“実験データ”の真偽を確認中です。」

「公文書管理課からの報告では、サーバーログの一部が外部からアクセスされています。」

「国外避難を試みた元研究員2名が行方不明です。」


静まり返る会議室の空気。

局長は額に汗をにじませ、低い声で言った。


「……“β計画”の存在は、最後まで否定する。

 生き残る道は、それしかない。」


だがその言葉の裏で、ある上級官僚が密かに国外の通信社へ匿名でメールを送っていた。

件名は——《RE: GREY FILE》。


真実の報道


数日後。

欧州のニュース番組が特集を放送した。

画面には、ぼやけた日本語の資料が映し出される。


「被験者β017 生育観察終了」

「補助記録:感情操作実験失敗 被験者死亡」


解説者が続ける。

「これが事実ならば、倫理的・法的に極めて重大です。

 政府が知的・精神障害者を“制御可能な社会因子”として扱っていた疑いがあります。」


その放送は日本でも瞬く間に拡散された。

NHKは沈黙を貫いたが、民放各社は「海外フェイク報道」として扱う。

だが視聴者の多くは、もう騙されなかった。


「β計画」という言葉は、やがてネット辞書に登録され、

“国家による障害者監視システム”の代名詞となった。


消えた声


港湾倉庫の防犯カメラ映像には、

最後に一台の軽ワゴンが燃え上がる瞬間が映っていた。

その後、運転席から人影が降りて、暗闇の海辺へと歩いていく。

映像はそこで途切れている。


焼け跡から発見されたのは、溶けたUSBケースと、

黒く焦げた手帳の一部。


そこには、震える筆跡でこう書かれていた。


「誰かが見てくれるなら、俺の人生も無駄やなかったと思える」


沙耶、そして——


半年後。

ベルギー・ブリュッセル。

国際人権会議の壇上に、一人の日本人女性が立っていた。


「私の名前は、三浦沙耶。

 私は“β計画”の被験者とされた友人の証言を、ここに残します。」


会場が静まり返る中、

彼女はゆっくりとUSBメモリを掲げた。


「この中に、真実が眠っています。

 ——もう、誰も灰にしないで。」


フラッシュの光の中で、彼女の瞳はまっすぐに前を見据えていた。

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