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『境界線の夜明け』  作者: キロヒカ.オツマ―


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第17章 「脱出と暴露」



取調室の蛍光灯が、夜明け前の光よりも白く冷たかった。

木村直人は、机の上に置かれた紙コップのコーヒーを見つめていた。

手錠は外されたが、監視カメラの赤いランプが彼の一挙手一投足を見張っている。


隣の席には、公安外事課の監査官・葛城が座っていた。

「落ち着いて話せ、木村くん。君が言う“β計画”の記録は、内部データの一部として確認された。だが——」

葛城は一呼吸置いて続けた。

「それを外部に流した瞬間、君は国家機密保護法違反になる。」


直人はうつむいたまま、手の中の紙コップを握りつぶした。

「俺の人生が“機密”やったんか……」

声は掠れていた。


葛城は黙って見ていた。

彼の目の奥には、一瞬だけ迷いのようなものが見えた。


逃走のきっかけ


翌朝、直人は「担当医との面談」という名目で施設の別室に移された。

白衣の女性がカルテを開き、淡々と質問する。

「最近、幻聴はありますか?」

「……あります。声がするんです。“逃げろ”って。」


女性はペンを止め、短くため息をついた。

「薬を少し強くしておきます」


その瞬間、ドアの外から葛城の声が聞こえた。

「——彼を移送する。次の行き先は厚生統合局本部だ。」


直人の中で、何かが切れた。

幻聴が耳元で轟く。


「今だ、出ろ。これ以上、黙っていたら消される。」


彼は立ち上がり、診察台の上に置かれたステンレス製の器具を掴んだ。

看護師の隙を突き、廊下へ飛び出す。

警報音が響く。

警備員が走り寄るが、直人は非常口を押し開け、冷たい外気に飛び出した。


逃走と潜伏


施設の外は早朝の曇天。

市街地へ出るには、裏手の側道を抜けるしかない。

直人は息を切らせながら走った。

肩のあたりが焼けるように痛い。

数百メートル先、古びた商店の裏口が開いていた。

中年の店主が顔を出し、目を細めて言った。


「……お前、あそこから逃げてきたんか。」


直人は無言で頷いた。

店主は躊躇いながらも、奥の物置を指差した。

「少しの間だけなら、隠れとけ。見つかったら俺も終いや。」


その言葉に、直人は深く頭を下げた。


内部データの転送


物置の中で、直人はポケットから小型のUSBメモリを取り出した。

β計画の記録データ——葛城が一瞬の隙を見せたとき、彼の端末から転送したものだった。


幻聴が再び囁く。


「そのデータを使え。世界に出せ。」


直人は、古びたノートPCを見つけ、近くの公衆Wi-Fiを拾った。

画面に「匿名投稿サイト」の文字が浮かぶ。

手が震える。

「俺の人生を……取り戻すんや……」


送信ボタンを押す瞬間、ふと桐島の笑顔が浮かんだ。

“信じることを、やめないで。”

あの言葉が、心の中で響いた。


指先がクリックに触れる——

送信。


画面に「アップロード完了」の文字が表示された。


公開の波紋


翌日、インターネットニュースに見出しが躍った。


【独占】政府の極秘“β計画”資料流出 発達障害児への長期観察・投薬実験か


SNSでは瞬く間に拡散され、厚生統合局の公式サイトはアクセス過多でダウンした。

政府関係者は否定声明を出すが、記録データに刻まれた生年月日・投薬履歴・職員の署名は消せない。


直人は物置の隅で小さく笑った。

「……やっと、届いたんやな……」


しかしその夜、店の裏に停まる黒い車のライトが差し込む。

複数の影がゆっくりと近づく。


幻聴が静かに囁いた。


「まだ終わっていない。これは始まりや。」


直人はポケットの中のUSBを握り締め、外を見据えた。

その瞳には、もう迷いはなかった。

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