みんなで話し合いました
「指輪職人のアラン、ですか」
タイディの拠点に戻ってきた私達は、対面するソファに座るルーカスに手に入れた情報を掻い摘んで報告していた。
「うん、ルーカスが探してた被害者達の共通の知り合いだよ。全員アランから指輪を購入してて、カーラに至っては彼に会いに行った後行方不明になったらしい」
「しかも、身長百九十センチぐらいの大柄な男性とのことなので、殺害、切断、遺棄、全て容易に可能です」
「なるほど、状況証拠とはいえ怪しいですね…」
顎に手を当てて考え込むルーカスは、横に置いていた分厚いファイルの中から三枚の書類を抜き取り、目の前のテーブルに並べていく。
「カーラ・デライラの死体発見現場より西側かつ、アデライン・ベラドンナの死体発見現場から五キロ圏内で一人暮らししているアランという男性はこの三人です」
「げっ、三人も居るの!?」
「エレサレスの人口を考えたら、三人もではなく三人しかなんじゃ…って、五キロ?」
「ええ、一番東寄りで発見されたのは第一被害者のアデライン・ベラドンナです。死体発見時刻は午前七時、死体遺棄時刻は不明ですが、目撃者がいない点から深夜…仮に午前零時過ぎだとしたら川で流されていたのは七時間程度。アリアドナ川の水流の速さや被害者の体重等から考えて、五キロ前後しか移動していないでしょうから」
「え、でも、カイルさんにはカーラ・デライラの死体発見現場から西側を探せとしか言ってませんでしたよね?それでは最西端まで探しに行ってしまうんじゃ…」
「でしょうね。でも、たまには犬を散歩させないといけませんから」
「さ、散歩って…」
(いじめっ子というかもはや悪魔じゃない、この男)
「ちなみに、このアラン・バーナードという男性が住んでいるアパート付近の川がギリギリ五キロ圏内です。ただこの書類には身体的特徴が記載されていないので、百九十センチあるかないかは…」
「実際三人に会って話を聞いてみないと分かりませんね」
ルーカスが指さした書類を手に取る私の横で、蚊帳の外だったテディはため息を吐きながら背もたれに寄りかかった。
「もう会いに行くの面倒くさいから三人共殺さない?」
「……………………………………………………は?」
「だって、俺達の任務は掃除だよ?一人殺そうが三人殺そうがバレないって」
「バ、バレるバレないの問題ではありません!倫理観どうなってるんですか!?」
「あはは、犯罪者に倫理観問われてもなぁ」
(そうだ、彼は…彼らは犯罪者なんだ。一緒に捜査する内に忘れちゃってた…)
夕日が差し込んだ部屋は突如として静寂に包まれる。
そんな気まずい沈黙を破るように、視線を逸らして言葉を詰まらせる私とあっけらかんとした態度で笑みを浮かべるテディを一瞥したルーカスは静かに話し始めた。
「…まぁ、否定はしません。犯罪者ではないにしても、僕も自分が殺してきた人数なんて数えてませんから、今更二人増えたところで何とも思いません」
「でしょ?じゃあ…」
「でも肯定もしません。僕達の任務はヴィンセント様が悪人と判断した人間を始末すること、善人を始末したら命令に反する」
「えー、また聞き込みするの?俺疲れたんだけど」
「いや、その必要はねぇ」
テディの不平不満を凛とした声が遮る。
その声が聞こえてきた方向に一斉に視線を向けると、入り口の扉が開かれ、自信に満ち溢れた表情を浮かべるカイルが現れた。
「カイルさん…」
扉を閉めないまま、ズカズカとこちらへ近づいてきたカイルは、テーブルに広げられた書類と私の手元の書類を無言で見比べる。
汗まみれにも関わらず、至近距離にあるカイルの体から香る柑橘系の爽やかな匂いに驚いていると、彼は私の手から書類を奪い取ってテーブルに叩きつけた。
「犯人はこのアラン・バーナードだ。他の二人は死体遺棄現場から離れ過ぎてる」
「よっ、流石ワンちゃん!」
「その呼び方やめろっ」
「お手柄ですね。でも、外に会話が漏れたら困るので早く扉を締めてください」
「ちっ、細けぇな。小姑かよ」
ルーカスに指摘され文句を言いながらも、カイルは言われた通り扉を閉めに行く。
「ではカイルさん、いつも通り後はお任せします。凶器などの決定的な証拠がないか、掃除する前に家の中を調べてくださいね。…オフィーリアさんを連れて」
「え?」「は?」
ソファに座っている私とドアノブに手を掛けるカイルの声が重なり合う。
「はぁ?何でその女を連れて行かなきゃいけねぇんだよ!?」
「何故って、彼女は僕達の監視役です」
「俺は認めねぇって言っただろ!」
「なら、今すぐここを出て行ってください」
「……………は?」
「彼女を認めないということは、ヴィンセント様の命令に逆らうということです。ヴィンセントの様の命令に従えない人はタイディに必要ありません。もちろん、ここを出るということは独房に戻るということですが…あなた、戻れるんですか?」
その瞬間、カイルは体を震わせて俯く。
「クソッ」と自分の手を強く握り締め、前髪の隙間から鋭い視線を私に向ける。
「…おい」
「は、はいっ」
「ついてこれるもんならついてこい。俺はお前に合わせねぇ、お前が俺に合わせろ、綿毛」
「え、あ、ちょっと待ってください!…ていうか、その綿毛って呼び方止めてもらっていいですか!?」
またしても扉を閉めずに出て行ったカイルを追いかけるように、ソファから立ち上がった私は慌てて部屋を後にした。
「ふっ、賢明な判断ですね」
「本当に上手いね、カイルの扱い方」