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再演のディペンデンス  作者: 齋藤瑛
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テディと任務6

「ごめーん、バレちゃった」


娼館の一室に、テディの明るい声が響いた。

向かいのソファに座っていたグレッタが、目を見開く。


わなわなと震え、咥えていた煙草を指で摘んだ。

灰が床に落ちる音が、妙に大きく聞こえる。


顔を上げた瞬間、グレッタはテーブルに片足を乗せ、こちらに身を乗り出した。

火のついた煙草が真っ白な肌を焼く、その寸前ーー


テディが彼女の左腕を掴んで止めた。


「あはは、残念。俺、今禁煙中なんだよね。ていうか、向きと位置、間違えてない?」

「間違えてないわよ。あんたの大好きなタトゥーを増やしてやろうと思って」

「いや、それはタトゥーじゃなくて烙印…って、あれ?何でマッチ取り出してんの?…グレッタ?おーい、グレッタさーん?聞こえてる??…ねぇ、ちょっと、まっ…」

「コラコラ」


マッチに火がつく直前、グレッタの隣に座っていたカールが彼女の右手を掴んだ。


「暴力はダメだろう?グレッタ」


その姿は、まるでカイルとジャックの喧嘩を仲裁するテディのようだった。


「でも、こいつのせいで、この子にクロウ(私達)のことがバレたのよ!?」

「遅かれ早かれ、だ。最近、記者に張り込まれていたからね」

「それだって、元はと言えば、こいつが子供に姿を見られたからでしょ!?しかも、変な名前までつけられて!」

「ははは、頭が良さそうな良い名前じゃないか」

「………何でそんなに落ち着いていられるの?このままじゃ、私達処刑されちゃうかもしれないのに!」


(処刑……?)


「せめて、あの日タトューを見られなければ…いや、私の言う通り、すぐに消していれば、反女神派だってことはっ…」

「グレッタ」


諭すように言葉を遮り、カールは穏やかに微笑んだ。


「大丈夫。このお嬢さんなら、分かってくれるさ」

「……………全く、カールさんは甘すぎるわ。誰に対しても」


しぶしぶ足を下ろすグレッタを見て、テディは声を出して笑った。


「逆に君は少し見習った方がいいんじゃっ…」

「あんたはもう喋るな」

「ハイ」


煙草を灰皿に押し付け、グレッタは再びソファに腰を下ろした。

足を組み、新しい煙草に火を点ける。


「………ご想像通り、私達がクロウよ」


二藍色の瞳に射抜かれ、思わず体が強張った。


「そこの全身落書き男が女神派の貴族から騙し取った金を、私が物に変えて、三人で貧民街の子供達に配って回ってるの」


「落書きって」という隣から聞こえてくる呟きを無視して、私はおずおずと問いかけた。


「えっと、何故、そのような活動を…?」

「……………あんた、どうして、あの子達が貧民街にいるのか知ってる?」

「い、いえ……」

「…親を処刑されたからよ。反女神派っていう理由だけでね」


真っ赤な口紅で彩られた唇から煙が吐き出され、私の頭の中を真っ白に染める。


「なのに、女神派(あいつら)は異端の血を引いてるからって、修道院で引き取ることさえしない。だから、あの子達は貧民街に…地獄に行き着いて、すぐ死んでしまうの…っ」


ぐしゃりと握り潰された煙草の箱が、ソファの上に転がった。


「…少なくとも私は、亡くなった同胞の分もあの子達に長生きしてほしいだけよ」


(長生き……)


黙り込む私を見て、グレッタは「やっぱりね」と呟き、視線を逸らした。


「ふん、チクリたければチクれば?」

「?いえ、言うつもりないですよ」

「………はぁ?何で?教会の人間に報告するだけで、三人だから三万ガラドも報奨金が貰えるのよ?」

「三万ガラド……」

「それどころか、私達を庇ったことがバレたら、あんたも罰を受けることになる。いいの?」

「いや、よくはないですけど、でもーー」


私は彼女を真っ直ぐ見つめて、微笑んだ。


「私の目標も長生きすることなので」


グレッタは目を丸くして、「そう」と照れ臭そうに顔を背けた。

それをからかうように、テディが口を開く。


「良かったね、グレッ…」

「いつ喋っていいって言った?」

「ゴメンナサイ」


舌打ちをして部屋を出て行こうとしたグレッタを、テディは慌てて引き止めた。

そのやり取りを遠目で見ながら、私は思わず呟く。


「仲が良いんですね…」

「ああ。あの二人は同じ娼館で働いていたからね」

「同じ娼館………えっ、テディ様って、男娼をしていたんですか!?」

「あれ、聞いたことない?一晩五百万ガラドの人気男娼、テディ・フィンレーって」

「五百万ガラド……!?」


(だから、教皇からも同じ金額(五百万ガラド)貰ってたんだ……)


「ははは、俺も初めて聞いた時は耳を疑ったよ。…でも、一目見たら納得した。だって、あまりにもーー」


鶯茶色の瞳が、必死に弁解するテディを見つめる。

けれど、そこに彼は映ってなかった。


「ミラにそっくりだったから」

「ミラ?」

「テディの母親だよ。…すごく綺麗な女性だったんだ。本当に女神が実在するとしたら、きっと、こんな女性なんだろうと思うくらい………」


言葉にされなくても分かってしまった。

彼の、彼女への想いが。


「俺とミラは幼馴染なんだ。だから、彼女の代わりに、テディの願いは全て叶えてあげたい。……それが俺の活動する理由さ」


その顔を見た瞬間、何故か教皇の顔が脳裏を浮かんだ。


「では、テディ様は一体何故……?」

「さぁ?何でだろうね」

「知らないんですか?」

「ああ。あいつは隠すのが上手いから。………いや、"上手くなった"なのかな」


「え?」と首を傾げると、カールは少し逡巡してから話を続けた。


「…ミラが亡くなった後、あいつは貧民街で暮らしていたんだ。本当の自分のまま、あの地獄を生き残れるはずがない」


曇った瞳が脳裏に蘇る。


(違う自分を演じ続けて、感情が分からなくなっちゃった?それともーー)


完璧すぎる笑みを浮かべるテディを目で追った。


(泣きすぎて涙が出なくなっただけ、なのかな……)


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