タイディに会いましたが
「帰れ」
「………」
「とりあえず中で話しましょう」と促され、私は拠点へ足を踏み入れた。
二人掛けのソファに座る私は、対面するソファに座るルーカス、その肘掛けに腰を掛けるテディ、そして窓付近の壁に背を預けるカイルの様子を伺いながら挨拶を口にしたけれど、予想通り、眉間に皺を寄せた赤毛の男に話を遮られてしまった。
「カイル、言い方」
「俺はな、命令されんのが嫌いなんだよ」
頭に血が上って話が聞こえてないようで、改善されないカイルの高圧的な態度に、テディは「って、聞こえてないし」とため息混じりに呟く。
「牢屋から出すっつうから、我慢してあのサイコ野郎の下についてやったってのによぉ。蓋を開けてみりゃあ、赤の他人との共同生活を強制させられて?おまけに世話係という名の監視役までつけられて?」
ゆっくりとした足取りで私に近づいてきたカイルは、「ハッ」と笑い声を上げながら、ソファの肘掛けに足を乗せ、こちらに身を乗り出した。
「話が違いすぎんだろ、それ」
敵意に満ちた深紅の瞳が、前世で最後に見た母親の姿を彷彿とさせる。
何も言い返せず、弱々しく睨みつける私を見て、テディが助け舟を出そうとしたけれど、今まで傍観していたルーカスによって遮られてしまった。
「話が違うというか、自分の都合がいいように解釈してただけじゃないですか?まぁ、どう考えてもこんな猛獣達を放っておくとは思いませんけどね」
「……………猛獣達だぁ?」
地を這うような声を出しながら、肘掛けに乗せていた足を下ろすカイルを見て、テディは「あちゃー」と額を押さえた。
「他に的確な表現ありますか?放火魔と詐欺師と殺人鬼に」
「おいおい、まるで自分は人間みたいな言い方だな」
「ええ、僕は檻に入れられたことがありませんから」
「んだと!?てめぇっ…」
声を荒げて詰め寄るカイルを止めようと、テディは二人の間に割り込んだ。
「はい、ストーップ!二人共落ち着いて、冷静に!」
「僕は冷静です。ほら、どう見ても檻に入れられた狼じゃないですか」
「あぁ!?誰が狼だっ…」
「ほらぁ!彼女が置いてけぼりになってるだろ?」
二人の視線が私に集中する。
困惑する私の顔を見て、ルーカスは「失礼しました」と恥ずかしそうに視線を逸らしたけれど、カイルは舌打ちをするだけで反省の色が一ミリもないようだった。
「てか、そうゆうてめぇはどうなんだよ?」
突然話題を振られたテディは、「え、俺?」と虚を突かれた表情を浮かべる。
「せっかく牢屋から出たんだぞ?監視されてもいいのかよ?」
「俺は構わないよ。牢屋でおじさんに監視されるより、ここで女の子に監視される方がいいし、それに…」
振り返ったテディの瞳は、まるで獲物を狙う肉食獣のようにギラギラしていた。
「こんな可愛い女の子にお世話してもらえるなんて、むしろご褒美だ」
(さっきはタイプじゃないって言ってた癖に一体何を企んでるのよ、この男…)
いつも通りの爽やかな笑みを浮かべたテディは、カイルの横を通り過ぎて、警戒心を顕にする私の隣に腰を下ろす。
「ってことで、俺はテディ・フィンレー。これからよろしくね、オフィーリア」
「あ、おい、勝手に話を進めるな!」
「勝手にって、反対してるのはカイルだけだよ。ねぇ、ルーカス」
「僕も構いません。彼女を追い出したところで、別の監視役が来るだけですから」
「ほらね。…あ、あの小さい彼のことは知ってる?ルーカス・クロード」
「小さいは余計です」
「とにかくっ、俺はぜってぇ認めねぇからな!」
「で、この声大きい人がカイル・リード」
テディの説明を聞いて、私は「はぁ」と半ば呆れた声を漏らした。
(前途多難だな、これ)