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再演のディペンデンス  作者: 齋藤瑛
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カイルと任務7

「じゃあ、村に火を放ったのは……」

「俺の父さんだ」


闇を切り裂くように稲妻が走り、世界が白く染まる。

次の瞬間、耳をつんざくような雷鳴が轟いた。


「だ、だったら、何故カイルさんが罪を償うんですか!?あなたは何もっ…」

「しなかったんだ」

「え?」

「何もせずに逃げ出したんだ。俺の()()で大勢の人が死んだってのに…」


逃げ出した時の記憶を思い出しているのか、カイルの顔は苦しそうに歪ませる。


(俺のせい………)


『あなたって、自己評価は高いくせに他人からの評価は低いと勝手に思い込んでますよね?』


(違う。彼は女神に創造された災厄を、村を焼き尽くした放火魔を演じているだけで本当は自己評価が低いんだ。だから自分を卑下し、非難する…父親の呪いによって)


気づいてしまった事実にズキズキと胸が痛んだ。


「だから、俺は罪を償うべきなんだ。でも、このままじゃ、その前にエレサレスが燃えちまう……っ」

「それなら、エイダンさんにも真実を話したらどうですか?あなたが恩人じゃないと分かれば、彼だってっ…」

「いや、この放火は俺への恩返しと同時に、両親への復讐でもあるはずだ。あいつが女神派に固執するのは、()じゃなくて()()を苦しめたからだからな」

「俺達?」

「あいつが言ってた"あいつら"ってのは、女神派だった両親のことだ」

「………!」


『恩返しさ。八年前、両親(あいつら)から救ってくれたから』


ギラギラと輝くエメラルドの瞳が脳裏に蘇る。


「…エイダンの言う通りなんだ」


そう言って、カイルは落ちたハンカチを拾い上げる。


「俺はあいつの手を振り払えない。だって俺は、あいつと戦えないから、殺せないから。あいつは俺の……俺、の………」

「友達、なんですよね?」

「……………友達?」

「ええ。だって、あなたが父親の手を振り払ってまで生きたいと思ったのは、彼と遊ぶのが楽しかったからでしょう?また遊びたいと思ったからでしょう?なら、それはもうーー」


「友達じゃないですか?」


会話が途切れ、雨音だけがその場に残る。


「………友達……友達、か。そうだな、俺達は友達だ。化け物の俺に、人間であるあいつの友達になる資格があるのか分からねぇけど」

「ありますよ。あなたは化け物じゃないーー」


深紅の瞳に温かな光が宿る。


「嬉しかったら笑う、イライラしたら怒る、悲しかったらこうやって涙を流す、ただの人間の男の子です」


その瞬間、光が零れ落ちた。

彼の顔に手を伸ばして拭うけれど、一度溢れた光は止めどなく頬が濡らしていく。


「別に殺す必要はありません。ゴミ箱に捨てるだけでも掃除ですから」

「ゴミ箱?」

「牢屋ですよ。あなたみたいな特例措置がない限り、放火犯である彼は一度中に入ったら二度と外へは出て来れません。みんなの力を借りれば戦うことなく捕まえることができる…それならきっと、ヴィンセント様も文句はないはずです」

「………屁理屈じゃねぇか」

「別に屁理屈だっていいじゃないですかーー」


ハンカチを握り締めるカイルの手を両手で包み込む。


「この手は殺すためじゃなく、こんな風に誰かのハンカチを拾うためにあるべきだと思うから」

「………!」

「ちなみにこれは贖罪ですか?」


冗談交じりに問いかけながら、カイルの手からハンカチを抜き取った瞬間ーー


「違ぇよ、マヌケ」


彼は私を力強く抱き締めた。

雨の匂いに混じって、ふわりと柑橘系の爽やかな香りがした。


「えっと、カイル様?」

「………雨が降っててよかった」

「え?」


雨のカーテンに遮断された二人だけの世界に、息を吸い込む音が響いた。






××××××××××××××××××××






(な、何でーー)


「おい、動くな」


(後ろから抱きしめられてるの!?しかも、下着姿と上半身裸(こんな格好)で!!!)


耳元で囁かれ、吐息がかかってくすぐったい。

冷たい床に座っているのに、触れ合う肌が熱を帯びる。

高鳴る鼓動が聞こえてませんようにと祈りながら、私は「あの」と話し掛けた。


「私達は今雨宿りしてるんですよね?」

「ああ、あのクソ馬車のせいでずぶ濡れになっちまったからな」


そう、あの後、私達は通りかかった馬車に泥水を掛けられてしまったのだ。

そして、一度拠点に戻るしかないと話していた時、雨宿りしていた建物にテナント募集中という張り紙が貼られていることに気づき、せめて雷が止むまで中で待たせてもらうことにしたのだがーー


「じゃあ、どうしてこの体勢で座ってるんですか?それに、この格好…」


何故か下着姿の私は、上半身裸のカイルに後ろから抱き締められていた。


「濡れた服着てたら風邪引くだろ」

「いや、こんな格好でいる方が体調悪くなりますよ」

「だから、この体勢だ。燃やすもんもねぇし、こうでもしねぇと寒ぃだろ?」

「まぁ、確かに()()体温なカイル様のお陰で温かいですけど…」


その言葉に、カイルは「子供体温だぁ?」と低い声を出して眉間に皺を寄せる。


「ハッ、幼児体型な奴に言われたくねぇわ!」

「はぁ!?どこが幼児体型なんですか!?」

「どう見ても幼児体型だろうが!このぺちゃぱい女!」

「なっ、ぺ、ぺちゃ…そんなことありません!ほら、ちゃんと見てください!」


怒りに任せて体ごと振り返るとーー


「わっ、バカ!こっち向くな!」


暗闇でも分かるぐらい真っ赤な顔を、ゴツゴツとした骨ばった手で隠された。

指の隙間から見えた深紅の瞳と目が合ったけれど、すぐに逸らされてしまう。


「つ、つーか!けどって何だよ?……………もしかして…嫌、なのか?」


カイルは眉毛を下げ、顔から離した手で頬をかいた。

まるで耳を後ろに倒した犬のような姿に、私は罪悪感で胸を痛む。


「嫌ではないですけど……」

「…っ、そ、そうか。なら、問題ねぇな」


笑みを隠しきれていないカイルの背後には、ブンブンと大きく動く尻尾を見えた。


(これがデレ期に突入した犬系男子!攻撃力高ッッッ)


深紅の瞳に射抜かれ、私の顔は同じ色に染まる。

その顔を見られたくなくて体の向きを元に戻すと、彼は再び私を抱き締めた。


「カイル様?」

「………悪かった。イライラするとか言って」


『お前を見てると、イライラする』


拒絶を示すカイルの背中が脳裏に浮かぶ。


「思い出したんだ。心配するって言いながら、俺を残して死んだ母さんを」


(ああ、カイルは私もお母さんみたいに嘘をついてると思ったんだ…)


「それに小屋でも迷惑かけた。狭い…特に窓がない部屋に居ると、軟禁されてた時と投獄されてた時を思い出して、息が出来なくなるんだ」


抱き締める手にぎゅっと力がこもる。


「………本当は気づいてた。母さんが俺に怯えていたことも、父さんが何度も俺を殺そうとしてたことも。ただ気づかないフリしてたんだ。…誰からも愛されてないって自覚したくなかったから」

「………誰からも、ではないと思いますよ」

「え?」

「少なくとも、私はあなたのこと嫌いじゃありませんから」

「………!」


張り詰めた糸が静かに解けていく。

また雨が降り出しそうな気がして、私は「そんなことより」と顔を上げた。


(ここ)をぶつけたことを謝ってくださいよ。本当に痛かったんですからね、あれ」


口を尖らせて額を指さす私を見て、カイルは「ふっ」と笑みを零す。するとーー


「悪ぃ悪ぃ。………これで許せ」


降ってきたのは雨ではなく、温かくて柔らかい感触だった。

その感触の正体に気づいた瞬間、私の顔は見る見るうちに赤く染まっていく。


「な、な、なにをっ…」

「怪我は舐めれば治る」

「それは切り傷の場合でしょ!?ていうかっ…」


(舌じゃなくて唇が触れた気がするんですけど!?)


結局見られてしまった真っ赤な顔に、カイルはニヤニヤと悪戯な笑みを浮かべる。


「んだよ、まさか違う場所にご所望か?」

「そ、そそそんなわけないじゃないですか!バカなこと言わないでください!」

「ははは、さっきから動揺しすぎだろ。……形勢逆転、だな」

「~~~ッッ!」


やっぱり、彼は犬系男子ではない。

隙あらば飼い主にさえ噛み付く狂犬系男子だ。


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