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再演のディペンデンス  作者: 齋藤瑛
2/17

タイディに会いに行きました

唐突だが、私の今世の夢は老衰することである。

というか、老衰するぐらい長生きしたい。


その夢を叶えるには、まず二ヶ月後の処刑を回避しなければならないのだが、ヴィンセントの命令を拒んでしまえば、今度は彼に殺されてしまう。

つまり私が生き残るには、彼の二十歳の誕生日までに国外へ逃げるしかないのだ。

しかし、この世界に来たばかりの私が、ようやく慣れてきたこの国から、何も知らない他国へ一人で旅立つのは無謀というか無理である。


そこでタイディだ。

帝国騎士団が手を焼く大罪人の彼らと一緒なら、野獣に襲われようが盗賊に襲われようが生きていけるはず!…彼らの機嫌を損ねない限りは。





××××××××××××××××××××





脱出計画を考えていた私は、ようやく掃除屋(タイディ)の拠点へと辿り着いた。


「あそこか………ん?もしかして…」


生前世界史の教科書で見たような木造の建物が並ぶ中、拠点前で黒髪に黒い瞳の青年が煙草を吸っていた。


「ジャック様、ですか?」


私の顔を見た途端、何故か青年は瞳を大きく見開き、咥えていた煙草を落とした。


「……………」


(え、な、何?どうして何も言わないの?)


痺れを切らした私が、「あの」と控えめに声を掛けると、我に返った彼は落とした煙草を踏みつけて去って行った。


「あ、ちょっと!…もう、違うなら違うって言いなさいよ」


ブツブツと文句を言いながら、結局ジャックなのか分からない彼の背中を睨む。

ため息を吐き、玄関の扉前で合鍵を探しているとーー


「おい待てコラ、ド陰キャ!今日という今日はぜってぇ許さねぇからな!」


バンッと扉が開かれ、大きな衝撃音と共に私の額は赤く腫れ上がった。


「~~~ッッ!」

「あ?邪魔だ、退け」


顔を上げると、そこには同情するどころか不機嫌そうな青年が立っていた。


「退けって、まずは謝るべきじゃないですか!?」

「謝る?それ、俺に言ってんのか?」

「あなた以外に誰がいるんですか!?ほら、あなたのせいでこんなに腫れてっ…」

「てめぇがぼーっと突っ立ってんのが悪いだろ!むしろ俺の邪魔してんだからそっちが謝れや、この綿毛女!」

「はぁ!?わ、わたげって…あんたねぇ…っ」


臙脂色のツンツン頭に深紅の三白眼、何よりこの傍若無人な態度、思い出した。

こいつはタイディの一人、カイル・リードだ。


「ああクソッ、俺は今すこぶる機嫌が悪ぃんだ!もう謝んなくていいから退け!」

「嫌です!退いて欲しいなら謝って下さい!」

「あぁ!?てめぇ、ふざけてんじゃっ…」


目も眉も釣り上げるカイルの背後から革靴の足音と甘い声が聞こえてくる。


「コラコラ、プリン食べられたぐらいで怒りすぎ。ただでさえ声大きいんだから、玄関で騒いだらまた大家さんに怒られるよ」


名前を聞かずとも、現れた青年と目が合った瞬間に確信した。

絹糸のような艶のある銀髪、空を閉じ込めたみたいな空色の瞳、そして美しいという言葉が最も似合う中性的な顔、彼もタイディの一人、テディ・フィンレーだ。


(小説通り…いや、小説以上ね…って、あぶな!視線で射殺されるところだったわ)


視線を逸らされたのが予想外だったのか、テディはきょとんとした表情をした。


「ぐらい?てめぇ、今ぐらいっつったか!?あのプリンはな、一日百個限定、一個二百ガラドの高級プリンなんだぞ!」

「プリン一個で二百ガラド!?たっかぁ…」


二百ガラドということは、日本円で言うなら二千円ぐらいの価値である。

コンビニ弁当四個分と思うと、憤慨する彼の気持ちが分からなくもない。


「でも、名前書き忘れたんでしょ?だったら、文句言えないんじゃない?」


どうやら自分の食べ物に名前を貼るというルールがあるようで、たった一言で言い負かされたカイルは悔しそうに唇を噛むけれど、言い負かした本人は涼し気な顔でこちらへ視線を向ける。


「で、この子は誰?カイルの彼女?」

「んな訳ねぇだろうが!気色悪ぃ!」


(気色悪い!?今、気色悪いって言った、こいつ!?)


「どうせお前のストーカーだろ」

「ち、違います!」


私の反論は聞こえていないのか、「あー」と言いながら、テディは私の頭の天辺から足のつま先まで品定めするかのように凝視する。


「ごめん、君、俺のタイプじゃないや」

「だから違うって言ってるでしょ!私はっ…」

「こんな所で何をしてるんですか?」


背後から聞き覚えのある声が聞こえてくる。

振り返ると、群青色の髪に紺青色の瞳を持つ青年、タイディの1人、ルーカス・クロードが立っていた。


「ルーカス様…」

「ちっ、てめぇの女かよ。趣味悪ぃ」

「へぇ、こうゆう子がタイプだったんだ」

「違います」


(何で私が振られたみたいになってるのよ!)


「でも、僕達の主は好みだと思いますよ」

「あ?」「え?」


「彼女はヴィンセント様の専属侍女、所謂お気に入りですから」


ヴィンセントの名前が出た瞬間、空気が一変し、三人の視線が私に集中した。


「…………へ?」

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