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再演のディペンデンス  作者: 齋藤瑛
15/17

カイルと任務

「終わった~~~!」


横一列に並んだシーツを見て、思わず声が漏れる。

伸びをする私の頭上に、フレディの骨張った手がぽんっと置かれた。


「お疲れ様」

「お、お疲れ様…」


顔を上げると、藤色の瞳と視線が交わる。

照れ臭くて視線を逸らした私は、彼の手から逃れるように体を向き合わせた。


「それに、ありがとう。本当に助かったわ」

「どういたしまして」

「今は時間ないから、また今度お礼させてもらえないかしら?」

「今度…」

「ええ。…あ、もしかして、もうお城には来ない?」

「……………来るよ。というか、ずっとお城(ここ)に居る」

「そう、それならよかった」


(そっか、新しい使用人なら、"来る"じゃなくて"住む"よね)


「何か欲しいものはある?と言っても、あまり高いものは買えないんだけど…」

「……………じゃあーー」


太陽の光に照らされて、藤色の瞳が煌めく。


「また会いに来てもいいかな?君に」

「え?そんなことでいいの?」

「うん。せっかく友達になったんだから、もっと君と話したいなと思ってさ」

「友達?」

「友達だろ?俺達」

「友達………そっか、友達かぁ……えへへ…」


初めて友達ができた嬉しさに、自然と頬が緩む。

その笑顔に、フレディが顔を赤らめていたことを、私は気づかなかった。


「なら、待ってるね」

「あ、ああ。またね、オフィーリア」

「ええ、また」


空っぽになった籠を抱え直し、私は軽やかな足取りでその場を後にした。






××××××××××××××××××××






(何も考えずに来ちゃったけど…あいつ、ちゃんと拠点に居るわよね?)


鼻歌混じりに、掃除屋(タイディ)の拠点に到着した私は、カイルの部屋の扉をノックした。


「カイル様、オフィーリアです。大事なお話があるのですが、今お時間よろしいでしょうか」

「………」


コンコン。


「カイル様?」

「………」


コンコン。


「カイっ…」

「だぁぁっ!コンコンコンコンうるせぇ!!」


バンッと扉が開き、額に直撃する。

出会った時と同じ痛みに、私は涙目で額に押さえた。


「~~~ッッ!………あ、あなた、私のおでこに何か恨みでもあるんですか!?」

「しつけぇんだよ!普通は二回返事しなかったら諦めるだろうが!」

「大事な話があると言いましたよね!?あなたこそ、何で無視するんですか!?」

「俺は話すことなんざねぇんだよ!帰れ!」

「帰りません!」

「帰れ!」

「帰りませんって!」


バチバチと見えない火花が散る。

威圧的な眼差しに負けじと睨み返すと、先に視線を逸らしたのはカイルだった。


「…ちっ、顔に似合わず頑固な女」

「えっと、ありがとうございます?」

「褒めてねぇわ!ポジティブ思考すぎんっ…ゴホッ、ゴホッ!」

「大丈夫ですか!?もう、そんなに怒ってばかりだと血圧上がりますよ?」

「誰のせいだよ!………ったく、寝起きに大声出させんなや」


目の下に濃い隈を浮かべたルーカスが脳裏を過ぎる。


(朝方まで後始末してたのかしら…)


「お水持ってきましょうか?」

「いらん。…もういいから、早く話せ」


腕を組み、壁に寄り掛る彼に、私はヴィンセントから預かった手紙を差し出した。


「…カイル様宛の新しい任務です」


手紙を奪い取ったカイルは、便箋を開いた瞬間、目を見開いた。


「連続放火事件の犯人…」

「はい。一件目は七日前の午後十時、北西にある酒場、二件目は三日前の午後十一時、南西にある仕立て屋に火がつけられています。どちらも火の周りが早く、酒場に至っては隣家まで延焼してしまったそうです」

「……………生き残りは?」


無言で首を振ると、カイルは「なるほどな」と呟き、封筒に便箋をしまう。


「ちょっと待ってろ」


カイルは部屋の奥へ消え、三十秒もしない内に剣帯を腰に締めて戻ってきた。


「行くぞ」

「行くって、どこへ?」

「酒場と仕立て屋に決まってんだろ。どうせ全部燃えちまってて、何も残ってないだろうが…どっちにしろ、このままだと次の犯行現場を分からねぇからな」

「………一緒に行ってもいいんですか?」

「いや、そのために来たんじゃねぇのかよ?」

「そうですけど…カイル様のことだから、ついてくんなって言うと思ったので」


そう言うと、カイルはガシガシと頭を掻きながら視線を逸らす。


「…正直、思ってはいる。でも、そんなことしたら、サイコ野郎の命令に逆らうことになるだろ」


『彼女を認めないということは、ヴィンセント様の命令に逆らうということです』


ルーカスの言葉が脳裏に蘇る。


「………俺は戻るわけには行かねぇんだ」


その表情を見て、私は言葉を失う。


「だから、死にたきゃ俺が居ないところで死ね。死にたくなきゃーー」


しかし、真紅の瞳に射抜かれ、我に返った。


「俺のそばから離れんなよ、綿毛」

「あっ、ちょっと待ってください!」


返事も聞かず、大股で歩き始めるカイルの背中を追い掛ける。

先程の子供のように怯えた彼の表情が心に引っ掛かりながら。

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