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再演のディペンデンス  作者: 齋藤瑛
11/17

カイルと掃除3

(殺される…っ)


そう目を瞑ったものの、痛みは訪れず、代わりに刃がぶつかり合う音が響く。

恐る恐る目を開けると、今朝タイディの拠点前で見掛けたジャックらしき青年が、アランの攻撃を剣で受け止めていた。


「え、」


唖然とする私の目の前で、青年は包丁を弾き、逆に下段から斬り上げる。


「ぐああああああっ!」


鮮血を撒き散らし、アランは呻き声を上げながら崩れ落ちた。

青年は剣を払って鞘に収めると、血に濡れた顔のままこちらに振り返る。


「………」


吸い込まれそうな漆黒の瞳。

視線が絡んだ瞬間、胸が強く跳ねた。


「大丈夫か?」

「は、はいっ、大丈夫です!むしろ、あなたの方こそ、顔に血が…」

「…問題ない」


そう手で拭おうとする青年に、私はハンカチを差し出した。


「手が汚れてしまいます。これ、使ってください」

「………」


(いや、だから何で何も言わないのよ!)


今朝同様、青年は何も言わずにこちらを見つめる。

無反応な彼に痺れを切らして、私は「失礼します」と勝手に血を拭った。


「そういえば、結局あなたは…」


ジャックさんですか?

そう聞こうとした瞬間、


「おいコラ、ド陰キャ!」


カイルの怒鳴り声に遮られた。


(ド陰キャってことは…やっぱり、この人がタイディのジャックだったんだ)


私がハンカチを仕舞う間に、カイルはズカズカと大股で近づいてきた。


「てめぇ、何サラッと美味しいところ横取りしてんだよ!?」

「美味しいところ?…ああ、プリンの件か。テディから聞いた、悪かったな」

「悪かったな、じゃねぇよ!一発ぶん殴らせ、ろ…って、違ぇわ!」

「じゃあ、クッキーの件か。悪い、美味しそうだったからつい」

「それもてめぇの仕業か!殺す!殴るんじゃなくて殺…いや、だから違ぇって!」


噛み合わない会話に、カイルの眉間に皺が寄っていく。


「俺が今聞いてんのは、どうして俺の獲物を、関係ねぇてめぇがとどめを刺したのかってことだよ!?ていうか、そもそも何でてめぇがここにっ…」

「僕が提案しました」


カイルの怒号を遮ったのは、部屋の外から聞こえた冷静な声だった。

振り返ると、扉口にルーカスとテディが立っていた。


「ルーカスさん!テディさんも!」


「やっほー」と手を振るテディの隣で、ルーカスは淡々と説明を続ける。


「拠点に戻ってきたジャックさんに報告したところ、以前近隣の町でも似たような事件が起きていたそうです。同一犯の場合、人数が多い方がいいと判断しました」

「そゆこと~」

「いらねぇよ!こいつの手伝いなんかなくても俺だけでっ…」

「オフィーリアさんを犠牲にして?」


たった一言で、吠えていたカイルを黙らせる。


「ヴィンセント様のお気に入りに何かあれば、次の掃除対象(ターゲット)はあなたです。強さに驕って、油断するのは止めてください、迷惑です」


冷たく突き放されたカイルは俯き、悔しそうに唇を噛む。

険悪な雰囲気を和らげるように、テディが「まぁまぁ」と明るい声を上げる。


「結果無事だったんだからいいじゃん。そんなことより、騎士団に見つかる前に早く揉み消した方がいいんじゃない?」


テディがルーカスの頭に手を置くと、低身長を気にしている彼は、「分かってますよ」とムッとした表情でその手を振り払う。


「僕が引越しの手続きをするので、テディさんとカイルさんは部屋の掃除を…」

「えぇー、こんな汚い部屋を掃除するの?めんどくさいなぁ」

「では、テディさんが手続きをしますか?何故扉が壊れてるのか、何故家主でもないあなたが解約するのか説明して…」

「掃除シマス」

「理解が早くて助かります」


テディとの会話を切り上げたルーカスは、今度はジャックに視線を向ける。


「そしてジャックさん、あなたは死体処理とヴィンセント様への報告を。ついでにオフィーリアさんを城まで送り届けてください」


指示されたジャックではなく、私が「え?」と声を上げる。


「いえ、そんなお構いなく。一人で帰れますか、ら…」


断る私をよそに、ジャックは自分より大きなアランの死体を軽々と担ぐとーー


「行くぞ」


そう短く告げ、私の返事を待たずに歩き出した。


「いや、ちょっとっ…」

「先程も言った通り、あなたに何かあれば僕達がヴィンセント様に殺されてしまいます。廃教会と城は同じ方向ですし、僕達のためにも黙って送られてください」

「そうそう、甘えちゃいなよ。ほら、早く追いかけないと見失っちゃうぞ~」

「えっと、じゃあ、お疲れ様でした?」


お疲れ様という言葉が飛び交う中、ただ一人、カイルだけは黙り込んでいた。

その異様な静けさが胸に引っかかりながら、私は部屋を後にした。


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