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第41話:王都からの刺客、リオの力を危険視する動き

王国の特殊部隊「影狼」との遭遇は、リオたち三人に強烈な危機感と、そして王国中枢が自分たちに明確な敵意、あるいは利用価値を見出しているという厳然たる事実を突きつけた。フロンティアへの帰路、彼らの足取りは重く、会話も少なかった。頭の中では、これからの対策と、迫りくる脅威への備えが絶えず巡っていた。


「『星の鍵』……。それが、宰相が躍起になって探しているものだとしたら、一体何なのかしら……」


リリアナの研究室に戻り、ようやく一息ついたところで、彼女が口火を切った。刺客の意識から読み取れた断片的な情報が、新たな謎を生んでいた。


「古代の遺物か、あるいは何かの魔法か……。現時点では何とも言えんな」グレイは腕を組み、窓の外を見つめている。「だが、それが我々の目的――アストライオスの復活や、災厄の阻止――とどう関わってくるのか……。あるいは、全く別の、王国の覇権に関わるようなものなのか……」

「どちらにせよ、俺たちの行動が、彼らの計画にとって邪魔になっている、あるいは利用できると判断された、ということでしょうね」


リオは冷静に分析した。自分の持つ【言語魔法】と古代魔法の知識、リリアナの古代史や魔法理論への造詣、そしてアストライオスという存在。それらは、王国の権力者たちにとって、無視できない要素となっているに違いない。


「今回の襲撃で、奴らは我々の実力の一端を知ったはずだ。特に、リオ、お前のその奇妙な力……そして、リリアナ、お前が使ったあの古代の杖もな。次は、もっと周到な準備をしてくるだろう」


グレイの言葉に、リオとリリアナは頷いた。リリアナが咄嗟に使った古代の杖は、彼女自身も驚くほどの攻撃魔法を発動させたが、その原理や制御方法はまだ完全には解明できていない。しかし、その威力は「影狼」たちにも衝撃を与えたはずだ。


「怖いのは、彼らが私たちの力を正確に把握していないことよ」リリアナが懸念を口にした。「過小評価してくれればまだしも、過大評価して、より強力な部隊を送り込んでくる可能性もあるわ。あるいは、フロンティアの街そのものに、何らかの圧力をかけてくるかもしれない」

「街に……?」

「ええ。例えば、冒険者ギルドや領主を通じて、私たちを拘束しようとしたり、活動を制限しようとしたり……。彼らは、あらゆる手段を使ってくるでしょう」


リリアナの指摘は、リオたちにとって新たな脅威の可能性を示唆していた。これまでは、あくまで個人や小規模な集団からの脅威を想定していたが、国家権力が動けば、その影響は計り知れない。


「……どうすれば……」リオは言葉に詰まった。「俺たちは、ただ災厄を止めたいだけなのに……」

「だが、その『災厄を止める力』こそが、奴らにとっては魅力的なのだろう」グレイは静かに言った。「力は、いつだって争いの種になる」


重い沈黙が、研究室を支配した。彼らが立ち向かおうとしているものは、単なる魔物や古代の謎だけではない。人間の欲望、権力闘争、そして国家間の陰謀といった、より複雑で厄介なものも含まれているのだ。


「……だとしても、諦めるわけにはいかないわ」


沈黙を破ったのは、リリアナだった。彼女の瞳には、強い決意の光が宿っていた。


「巫女様から託された使命がある。アストライオスを目覚めさせ、災厄に備える。そのためには、どんな困難があっても乗り越えなければならない。王国の妨害があろうと、私たちは私たちの道をいくしかないわ」

「……ああ、その通りだ」グレイも、リリアナの言葉に同意した。「逃げても追われるだけなら、正面からぶつかる方が性に合っている」

「……そうですね」リオも、仲間たちの言葉に勇気づけられた。「俺たちが持っている力と知識を、もっと高める必要があります。そして、王国の動きに備え、彼らの狙いを探り、先手を打てるように……」


三人の意見は再び一致した。王国の脅威に対して、より積極的に対抗していくこと。そのためには、さらなる力の向上と情報収集が不可欠だ。


「まずは、フロンティアでの足場を固め、味方を増やすことも考えなければならないかもしれませんね」リオが提案した。「ギルドや、あるいは街の有力者の中に、俺たちの理解者となってくれる人がいれば……」

「それは良い考えかもしれないわ。でも、誰を信用できるか、慎重に見極める必要があるわね。王国の息がかかっている可能性も否定できないから」

「そうだな。当面は、我々三人だけで動くのが安全だろう。だが、いずれ協力者が必要になる場面も来るかもしれん」


具体的な行動計画として、以下の点が話し合われた。


1. **リオの魔法能力のさらなる向上:** 特に【レビテーション・フライト】と【マテリアル・クリエイト】の応用を習得し、戦闘だけでなく、移動や拠点構築にも活かせるようにする。

2. **リリアナの「共鳴魔法」の深化と古代知識の解析:** アストライオスとの連携を強化し、儀式に必要な知識や、「星の鍵」に関する情報を文献から探し出す。

3. **グレイによる情報収集と戦闘訓練の継続:** 王国の動向、特に宰相派と「影狼」の動きを警戒し、リオとリリアナの戦闘技術向上をサポートする。

4. **フロンティア内での協力者の模索(慎重に):** ギルドマスターや、良識的な商人、あるいは他の冒険者など、信頼できる可能性のある人物を見極める。


「それと……」リオは、もう一つ気になっていたことを口にした。「あの刺客たちが言っていた『星の鍵』……。もし、それが本当に存在するなら、俺たちもそれを探すべきかもしれません。それが災厄とどう関わっているのか、そして、王国の手に渡るのを阻止するために」

「『星の鍵』ね……。手がかりは全くないけれど、確かに重要な要素かもしれないわ。今後の調査で、常に気にかけておく必要があるわね」


計画が定まると、三人の心には再び闘志が湧き上がってきた。敵は強大だが、彼らには仲間がいる。そして、古代の叡智という強力な武器がある。


その日から、リオたちは以前にも増して、それぞれの活動に没頭した。リオは、ギルドの依頼をこなしながら、時間を見つけては「賢者の迷宮」で得た知識を元に、飛行魔法と物質生成魔法の訓練に明け暮れた。


【レビテーション】は、徐々に自身の体を長時間浮かせることができるようになり、短距離であれば空中を滑るように移動することも可能になってきた。まだ「飛行」と呼ぶには程遠いが、戦闘時の機動性や、高所への移動など、応用範囲は確実に広がっている。


【マテリアル・クリエイト】も、より複雑な形状や、異なる素材(木材、金属、ガラスなど)を安定して作り出せるようになってきた。特に、リオは「光」を物質化する練習に力を入れていた。純粋な光の刃や、防御用の光の盾など、エネルギーそのものを形にする技術。それは、アストライオスのエネルギー問題にも繋がるかもしれない、重要な研究だった。


リリアナは、研究室に籠もり、「共鳴魔法」の精度を高めるための瞑想と、膨大な文献の解読に明け暮れていた。彼女の魂は、アストライオスとの繋がりをより強固なものにし、遠く離れた場所に眠るゴーレムの状態や、その周囲の微細な魔力の変化すら感じ取れるようになってきていた。また、「星の鍵」に関する記述を求めて、古代エルフの伝承や、失われた天文学の書物などを丹念に調べていた。


グレイは、フロンティアの裏社会や、近隣の村々を渡り歩き、情報収集に努めていた。彼の持つ人脈と経験は、王国の公的な動きだけでなく、水面下で蠢く様々な陰謀の気配をも捉えることができた。そして、リオとの模擬戦では、より実践的な状況を想定し、リオの弱点を的確に突きながらも、彼の成長を促すような指導を続けていた。


しかし、王国の影は、彼らが思うよりも早く、そして巧妙に迫ってきていた。


ある日、リオがギルドから宿屋へ戻る途中、見慣れない男たち数人に声をかけられた。彼らは一見すると普通の商人風の身なりだったが、その目つきや立ち振る舞いには、どこか不自然な硬さがあった。


「失礼、あなたが『賢者』リオ殿ですかな? 少し、お伺いしたいことがあるのですが……」


男たちは、当たり障りのない口調で近づいてくる。しかし、リオの【言語魔法】は、彼らの思考の奥底に隠された、明確な悪意と、そして……どこか既視感のある冷徹な気配を捉えていた。


(……影狼……! また、奴らか!? 今度は、こんなやり方で……!)


リオは咄嗟に身構えた。昼間の人通りのある往来で、彼らは一体何を仕掛けてくるつもりなのか?


王国の刺客たちは、もはや力ずくでの排除や確保だけを狙っているのではない。リオの力を危険視し、その評判を失墜させ、社会的に抹殺しようとする、より陰湿な動きが始まろうとしていた。リオの「賢者」としての名声が、逆に彼自身を追い詰める罠となりつつあったのだ。

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