エピローグ ― 転生先は『 残機:ゼロ 』の世界 ―
エピローグ(終わらないで、世界。)
それは、2度目の転生のエピローグ――――
今度こそノーミスで攻略するため再出発。
ふたたび宇宙人に支配されたディストピア。
こどものころに熱中し、真横から見ていた既知の世界。
横スクロールシューティングゲームに瓜二つの世界だ。
ここまでの流れは変えられなかった。
人類の存亡を賭けて、泣きべその女神と作った攻略法。
託したのは、連絡員をしていた青年・翔。
そして、転生神と同化していた右城双葉。
因縁浅からぬ2人の若者だったのだが……
短編連載版 最終話
⚠ 単体では意味を持たないシリーズ作品の一部です
[ 増補改訂版 ]
転生先は『 残機:ゼロ 』の世界でした
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『 要塞化された小惑星を発見 』
『 ビーム兵器の集中豪雨だ! 』
『 翔、あそこ! 入れそう! 』
『 周囲の砲台を破壊し、要塞内部へ突入する。行くぞ!! 』
……内部へ突入?
「これから?! 外で攻撃されていたのか? おいッ!!」
「返信、ありません」
その連絡を最後に、通信は途絶してしまった……。
オぺーレーターの空は、パイロットの一人、翔の姉でもある。
必死に機材を操作して通信波を探っているが、手応えは無い。
肌に伝わる彼女の焦りが、皆の口を重たくしていた。
アナログ時計の秒針が、やけに鮮明に聞こえている。
「遅すぎる、そうは思わないか?」
「さすがに心配になってきました」
周囲を安心させようと泰然自若としていた神祈織が、半歩だけ、近付いてきて。内緒話のような小声で囁いた。
我々は最深部へ到達して突破した経験がある。
俺と祈織にも、この停滞には違和感があった。
3面までは、予定調和から大きく外れていなかった。
続く細胞面から送信されてきた、見覚えの無い映像。
そして、完全にテラフォーミングされた、エウロパ。
巨大な樹木が立ち並び、暗く鬱閉した雨の森林地帯。
記憶とズレていく展開。
今、あの2人は、一体どんな敵と闘っているのか……
地下施設の湿った空気に、焦燥がジワリ滲んでいく。
『 ザッ ザ …こんな……聞いて い ザ ……無理 』
「これは……双葉の声か?」
「小惑星へ突入、あの連絡から……27分と、52秒です」
「通信途絶から28分?!」
小惑星を、何周もできる時間だ。
防御機構に抵抗され遅滞したとしても、あまりにも長い。
戦局は時々刻々と変化している。
予想外の事態が起きるのは当然。
問題は、断片的に聞き取れた声。
無理だと言った、そう聞こえた。
ここからは、地球にいたら、何一つ手助けできなくなる。
個人的な感情を抑え付けて、可能性の高い人間を選んだ。
旧知の間柄だった、2人を。
そのつもりだった。
「……オペ子」
「は、はい!」
「至急、パイロットを転送しろ」
「転送、誰を? ……どこに?」
「ここに2人を呼び戻せッ!!」
「そんな……座標も曖昧で……」
「 急 い で く れ ッ !!! 」
最深部の外壁に損傷を与え、断続的にだが、通信できた。
座標が特定できたとしても、対象は常に動いているのだ。
運に任せた転送作業、無謀な試みだった。
何度目かの疎通で、翔が機体の一部ごと。
パイロットは無事、安堵が広がっていく。
続いて双葉機が転送されてきたが――――
「これっ、エンジン?!」
オペ子の悲鳴にも似た叫びが反響した。
後ろ半分だけ、綺麗に切り取っている。
外装はデブリの衝突でボロボロの状態。
コックピットは、無い。
先に転送された機体のキャノピーを、外から強引に開く。
ヘルメットを脱いだ翔が、ゼリー状のミリメシをズルズル啜っていた。
唐突に連れ戻され、地球にいる、今の状況を理解してるように見える。
「翔、話せるか?」
「REWINDは、自分を修復できない」
「それにしては時間がかかりすぎていた」
カラになった袋を捨て、次を手にした。
「違うんだよ、2機いたんだ」
「ラスボスが2体だって?!」
チラリと見えた、苛立ちで血走った瞳。
「倒しても、倒しても、お互いを修復する。終わらねぇんだ!」
2体が、相互に修復しあう。
前回は修復すると、その都度、ラスボスは弱体化した。
複雑化した2倍の攻撃、それが無限ループ……地獄だ。
こちら側が位置を特定できていないと気付いていたのだろう。「都合7回分だ、復活のタイミングが知りたい」と渡してきた記録メディア。
この情報を収集するために閉鎖空間で30分もの間、粘り強く応戦していた。
その余波が、敵拠点の外壁に大穴を穿つほどの奮戦、命がけの貴重なデータ。
祈織が受け取り、頷いた。
それを見て、緊張の糸が切れたのだろう。
そのまま、だらりと弛緩し、突っ伏した。
新鮮な酸素を求め、激しく上下する背中。
最悪の状況から生還したが、翔は、憔悴しきっていた。
「双葉、まだ……生きてる」
「俺だって、そう思いたい」
「被弾して、機首、切り離してたんだ」
「そうか! それで転送座標がズレた」
コックピット部分のパージ。
残機制の導入と同時に着手した安全装置。
右城双葉が、無事でいる可能性は、高い。
今のところは……と、注釈は付くだろう。
「残機はあるか?」
「最後に一機だけ」
「戻る! 転送を用意してくれ」
気持ちは理解できるが、焦り過ぎている。
「相手の能力を聞く限り、2機のラスボスを同時に倒す必要がある。無理ゲーだ、詰んだ、もう残機は無いんだ。 ……なのに、お前一人で戻ってどうする?」
「7ツも8ツも変わらないだろ!」
「残り2つ、9機だ……勝算は?」
翔は「フッ」と、鼻を鳴らした。
「救いようのない状況か? かもしれない。でもな? 同時に倒せば修復できずに共倒れするんだ。なら、できるはずだ。あんた達は言っただろ、試作機で、奴を。REWINDを倒したんだってな……あれは、聞き間違いか?」
地下施設の隅、役目を終えて翼を休める機体を見た。
ゲームとは違う、2P側は赤く塗らた色違い。
これは前世で右城と乗った、あの複座の機体。
「ああ。試作機、プリシュティナ」
周囲には淡々と作業する人影。
着々と準備が進められている。
「俺が女神と世界を救った機体だ」
「なら、8ツ。アンタがひとつだ。計算は合ってる! ……けどよ」
その指揮を執るフライトスーツの女性を見て、翔が目を丸くした。
「昨今じゃ、女神も現場で働くのかよ?!」
「ルーティンワークには向いてないからな」
苦笑いしていると、気付いたようだ。
少し小首を傾げながら近付いてきた。
手渡されたのは懐かしいヘルメット。
「準備完了! 今度こそ、世界を救いに行きましょう!」
「ああ。 ……どうも他人任せは性分に合わないらしい」
・
・
・
・
転送先は、侵略拠点の最深部。
翔の説明どおり、右城機の機首が浮いていた。
デブリと判断されたのか、放置されたままだ。
そして、2機の戦略兵器【REWIND】が待ち構えていた。
攻撃パターンこそ前世と同じ。
絶え間なく撃つ枝分かれする粒子ビーム砲。
凶悪な範囲を焼き尽くす、レーザーの照射。
チャージ時間の隙間を埋める実体弾の乱射。
今回は、同時に2体。
猛攻を避けて、反撃。
継戦能力の衰えを、背後の祈織が、翔の援護が支えてくれる。
視界が霞む、身体の節々が痛む、ブランクの長さを痛感する。
この間、翔は双葉機のコックピットへ近付いてキャノピーを開き、双葉の救出劇までやってのけた。繊細な操作に裏付けされた、まさに勇者としか表現できない、英雄的な行動だった。
「まだか? ……あと、どれくらいだ」
翔に随分遅れて、傍目にもわかる損傷を与えた。
このまま攻撃を続ければ、墜とせそうに見える。
実際には片側が危険になれば、もう一方が修復。
振り出しに戻ってしまうと、翔は説明していた。
そこで祈織から「ストップ」と、声がかかった。
「赤のαが損傷率99.68%、このβは99.71%。今、同じタイミングで弱点に一撃を見舞えばREWINDを倒せます。ですが」
あと一撃。
あと一撃で終わる。
同時に、確実にだ。
…………ですが?
「なにか……問題か?」
「右下、見てください」
右下へ視線を移す、途中。
オレンジ色の警告灯。
見覚えのあるマーク。
燃料残量警告灯――――!
「急ぐ」
「はい」
「相対位置で操縦できるように空間座標を設定してくれ」
「了解しました」
弱点。
弱点なら知っている、どいつも皆同じ。
青くて丸い、『コア』と呼ばれる部分。
「右城! 5秒後、同時に倒す……行くぞぉッ!!」
『了解!』
「はい!」
スピーカーから右城の懐かしい声が、ずっと共に戦ってきた右城の声が背後で、心地良く耳に響く。それは、まるで荒廃世界の救済を願う2柱の女神の詠唱。
瞬時に互いを再生する2機の戦略兵器【REWIND】、同時に倒すのは至難、俺と翔では不可能だろう。それでも、右城と祈織のサポートがあれば可能、それを確信する!!
胸にこみ上げてきた熱いものを抑え付けるように、努めて平静に、弱点のコアに向けて一気にペダルを踏み込む――――
機体が急速に前進する!!
モニターに表示された照準器にコアを捉え、ゆっくり終幕に向けて刻むカウントダウンを見詰めながら、冷徹にトリガーを引き絞った。
が……なにも起きなかった。
「 弾 切 れ っ ?! 」
咄嗟に残量を見る、燃料表示は、0.02%。
弾丸と推進剤に、エネルギーを共用する機体。
これがプリシュティナの、最大の弱点だった。
「パージします」
祈織の操作で、即座に機体から切り離された、コックピット部。
メインスラスターを噴射した慣性力で、押し出されていく本体。
愚直に猛進するプリシュティナの後ろ姿が、小さくなっていく。
直後。
プリシュティナが、コアに衝突した。
分解した原子核が発光、視界を塞ぐ。
周囲が把握できない状態で…………
「ゥ ッグ!!」
唐突に、全身が引き寄せられる感覚。
続いて衝突音、上下に揺さ振られる。
疲れ切った内臓を襲う、強烈な重力。
上下…… 重 力 ?
「戦略兵器【REWIND】の破壊を確認。最深部からの転送に成功しました」
オペ子の声が、スピーカー越しに、耳へ届いた――――
「倒したのか?」
「そのようです」
「どうして……」
感動的なストーリーはおろか、エンディングすら無い。
雑魚なんてもんじゃない、命が幾つあっても足りない。
チープな横シューに、みんな熱中していた時代だった。
ここは、あの時に肌で感じた、あのゲームと似ている。
しかし、ゲームでは違っていた。
横シューは衝突したらオシマイ。
一方的すぎる、死亡判定だった。
「特攻、体当たりをしたからです」
「肉を切らせて、骨を断ったのか」
現実世界だからこそ、機体の大部分をぶつけて倒せる。
残機制にするために用意した、安全装置と、転送装置。
それらをフル活用したからこそ戦局を引っ繰り返せた。
手持ちの駒を全て使い倒して掴んだ、起死回生の勝利。
「祈織」
「はい」
ノーミスで、クリアした。
この世界は、地球は、救われてしまった。
「俺が視た世界は、未来の地球は。最低のクソゲーで。毎回、英雄になれなくて。でも。どっちも、ブラウン管に映った終末世界じゃなくて、最ッ高の人生だった。また、転生神に逢って、俺なんかの希望を叶えてくれるなら。何度も、何度でも、何度だって神様に逢いに行ける。だから、もう。終わったんだと思う」
それでも、今回も思う。
最後まで、泣きべその女神を笑顔にできなかった。
「もう。 ……前世の記憶はいらない」
元通り、輪廻に戻れば、何度でも逢える。
祈織は本来、転生を司る神様なのだから。
「転生神は、悲しい世界へ産み落とされていく命を、眺めるだけの無価値な存在。ですから……きっと、こう答えるでしょう」
ちょっと落胆したような涙声。
後席に座る祈織の顔を見るのが辛くて、自然と下を向いていると、「ゴン!」と後頭部に物凄い衝撃が奔った。
驚いて振り返ると、ヘルメットを投げつけたままのポーズで、少し怒った顔で、祈織は大声を張り上げた。
「 新 た な 侵 略 者 が 地 球 を 狙 っ て 現 れ た ! 」
「 え ぇ え え っ …… い つ の 間 に ぃ?! 」
「というわけで。 ……私は次の襲撃に備えて多忙なのです」
コンソールを黙々と操作し始めた。
下を向いていて、表情は見えない。
だが、不満気に唇が尖がっている。
なにかマズイことを言ったようだ。
恐る恐る、尋ねてみる。
「まさか……続編があるのか?」
「当然、来るでしょう。何世紀後かは存じ上げませんけど」
「じゃあ、一緒に転生しよっか? ……世界のためにさ!」
翔と双葉も、続いて転送されてきたようだ。
後ろから羽交い絞めにされて、必死になだめている翔の姿に苦笑いしていたが、思ったより長時間だし顔色まで悪くなってきた。
少し不安になり背後に目配せすると、「休ませたほうが良いですね」と困り顔で2人を指差したので、「ギャグマンガみたいだ」と、ぼやきながら操縦席に身体を縛り付けていたベルトを外していく。
既に沈黙してしまったコックピット。
内側から固定用のレバーをいくつか力任せに動かし、キャノピーを解放すると、地下施設は喝采に包まれた。
英雄の帰還には小規模すぎる。
精々20人ほどの、歓喜の声。
軽く手を上げて歓声に応える。
2周目で、ようやく手にした勝利を、徐々に実感していく。
「でもさぁ……」
「なんですか?」
「輪廻転生って、ホッタラカシにしていいもんか?」
「ワンオペできるほど、全自動化されているんです」
「そうなのか?」
「そうなのです」
「なら安心か……続編、今からスゲェ楽しみだ!!」