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― 転生先は『 残機:ゼロ 』の世界 ―

エピローグ ― 転生先は『 残機:ゼロ 』の世界 ―

作者: 塩谷 文庫歌

エピローグ(終わらないで、世界。)


それは、2度目の転生のエピローグ――――


今度こそノーミスで攻略するため再出発。

ふたたび宇宙人に支配されたディストピア。

こどものころに熱中し、真横から見ていた既知の世界。

横スクロールシューティングゲームに瓜二つの世界だ。


ここまでの流れは変えられなかった。


人類の存亡を賭けて、泣きべその女神と作った攻略法。

託したのは、連絡員をしていた青年・翔。

そして、転生神と同化していた右城双葉。

因縁浅からぬ2人の若者だったのだが……


短編連載版 最終話

⚠ 単体では意味を持たないシリーズ作品の一部です


[ 増補改訂版 ]

転生先は『 残機:ゼロ 』の世界でした

https://ncode.syosetu.com/n9454kg/


『 要塞化された小惑星を発見 』

『 ビーム兵器の集中豪雨だ! 』

『 翔、あそこ! 入れそう! 』

『 周囲の砲台を破壊し、要塞内部へ突入する。行くぞ!! 』


 ……内部へ突入?


「これから?! 外で攻撃されていたのか? おいッ!!」

「返信、ありません」



 その連絡を最後に、通信は途絶してしまった……。



 オぺーレーターの空は、パイロットの一人、翔の姉でもある。

 必死に機材を操作して通信波を探っているが、手応えは無い。

 肌に伝わる彼女の焦りが、皆の口を重たくしていた。


 アナログ時計の秒針が、やけに鮮明に聞こえている。



「遅すぎる、そうは思わないか?」

「さすがに心配になってきました」



 周囲を安心させようと泰然自若としていた神祈織が、半歩だけ、近付いてきて。内緒話のような小声で囁いた。


 我々は最深部へ到達して突破した経験がある。

 俺と祈織にも、この停滞には違和感があった。


 3面までは、予定調和から大きく外れていなかった。

 続く細胞面から送信されてきた、見覚えの無い映像。


 そして、完全にテラフォーミングされた、エウロパ。

 巨大な樹木が立ち並び、暗く鬱閉した雨の森林地帯。


 記憶とズレていく展開。

 今、あの2人は、一体どんな敵と闘っているのか……



 地下施設の湿った空気に、焦燥がジワリ滲んでいく。





『 ザッ ザ …こんな……聞いて い ザ ……無理 』



「これは……双葉の声か?」

「小惑星へ突入、あの連絡から……27分と、52秒です」

「通信途絶から28分?!」



 小惑星を、何周もできる時間だ。

 防御機構に抵抗され遅滞したとしても、あまりにも長い。


 戦局は時々刻々と変化している。

 予想外の事態が起きるのは当然。

 問題は、断片的に聞き取れた声。


 無理だと言った、そう聞こえた。


 ここからは、地球にいたら、何一つ手助けできなくなる。

 個人的な感情を抑え付けて、可能性の高い人間を選んだ。

 旧知の間柄だった、2人を。



 そのつもりだった。



「……オペ子」

「は、はい!」

「至急、パイロットを転送しろ」

「転送、誰を? ……どこに?」

「ここに2人を呼び戻せッ!!」

「そんな……座標も曖昧で……」

「 急 い で く れ ッ !!! 」



 最深部の外壁に損傷を与え、断続的にだが、通信できた。

 座標が特定できたとしても、対象は常に動いているのだ。

 運に任せた転送作業、無謀な試みだった。


 何度目かの疎通で、翔が機体の一部ごと。

 パイロットは無事、安堵が広がっていく。


 続いて双葉機が転送されてきたが――――



「これっ、エンジン?!」



 オペ子の悲鳴にも似た叫びが反響した。


 後ろ半分だけ、綺麗に切り取っている。

 外装はデブリの衝突でボロボロの状態。

 コックピットは、無い。


 先に転送された機体のキャノピーを、外から強引に開く。

 ヘルメットを脱いだ翔が、ゼリー状のミリメシをズルズル啜っていた。

 唐突に連れ戻され、地球にいる、今の状況を理解してるように見える。



「翔、話せるか?」

「REWINDは、自分を修復できない」

「それにしては時間がかかりすぎていた」



 カラになった袋を捨て、次を手にした。



「違うんだよ、2機いたんだ」

「ラスボスが2体だって?!」



 チラリと見えた、苛立ちで血走った瞳。



「倒しても、倒しても、お互いを修復する。終わらねぇんだ!」



 2体が、相互に修復しあう。

 前回は修復すると、その都度、ラスボスは弱体化した。

 複雑化した2倍の攻撃、それが無限ループ……地獄だ。


 こちら側が位置を特定できていないと気付いていたのだろう。「都合7回分だ、復活のタイミングが知りたい」と渡してきた記録メディア。


 この情報を収集するために閉鎖空間で30分もの間、粘り強く応戦していた。

 その余波が、敵拠点の外壁に大穴を穿つほどの奮戦、命がけの貴重なデータ。

 祈織が受け取り、頷いた。


 それを見て、緊張の糸が切れたのだろう。


 そのまま、だらりと弛緩し、突っ伏した。

 新鮮な酸素を求め、激しく上下する背中。

 最悪の状況から生還したが、翔は、憔悴しきっていた。



「双葉、まだ……生きてる」

「俺だって、そう思いたい」

「被弾して、機首、切り離してたんだ」

「そうか! それで転送座標がズレた」



 コックピット部分のパージ。

 残機制の導入と同時に着手した安全装置。

 右城双葉が、無事でいる可能性は、高い。


 今のところは……と、注釈は付くだろう。



「残機はあるか?」

「最後に一機だけ」

「戻る! 転送を用意してくれ」



 気持ちは理解できるが、焦り過ぎている。



「相手の能力を聞く限り、()()()()()()()()()()()()必要がある。無理ゲーだ、詰んだ、もう残機は無いんだ。 ……なのに、お前一人で戻ってどうする?」


「7ツも8ツも変わらないだろ!」

「残り2つ、9機だ……勝算は?」


 翔は「フッ」と、鼻を鳴らした。



「救いようのない状況か? かもしれない。でもな? 同時に倒せば修復できずに共倒れするんだ。なら、できるはずだ。あんた達は言っただろ、()()()で、奴を。()()()()()()()()()()んだってな……あれは、聞き間違いか?」



 地下施設の隅、役目を終えて翼を休める機体を見た。

 ゲームとは違う、2P側は赤く塗らた色違い。

 これは前世で右城と乗った、あの複座の機体。



「ああ。試作機、プリシュティナ」



 周囲には淡々と作業する人影。

 着々と準備が進められている。



「俺が女神と世界を救った機体だ」

「なら、8ツ。アンタがひとつだ。計算は合ってる! ……けどよ」



 その指揮を執るフライトスーツの女性を見て、翔が目を丸くした。



「昨今じゃ、女神も現場で働くのかよ?!」

「ルーティンワークには向いてないからな」



 苦笑いしていると、気付いたようだ。

 少し小首を傾げながら近付いてきた。


 手渡されたのは懐かしいヘルメット。



「準備完了! 今度こそ、世界を救いに行きましょう!」

「ああ。 ……どうも他人任せは性分に合わないらしい」



     ・


     ・


     ・

     ・



 転送先は、侵略拠点の最深部。

 翔の説明どおり、右城機の機首が浮いていた。

 デブリと判断されたのか、放置されたままだ。


 そして、2機の戦略兵器【REWIND】が待ち構えていた。


 攻撃パターンこそ前世と同じ。

 絶え間なく撃つ枝分かれする粒子ビーム砲。

 凶悪な範囲を焼き尽くす、レーザーの照射。

 チャージ時間の隙間を埋める実体弾の乱射。


 今回は、同時に2体。

 猛攻を避けて、反撃。


 継戦能力の衰えを、背後の祈織が、翔の援護が支えてくれる。

 視界が霞む、身体の節々が痛む、ブランクの長さを痛感する。


 この間、翔は双葉機のコックピットへ近付いてキャノピーを開き、双葉の救出劇までやってのけた。繊細な操作に裏付けされた、まさに勇者としか表現できない、英雄的な行動だった。



「まだか? ……あと、どれくらいだ」



 翔に随分遅れて、傍目にもわかる損傷を与えた。


 このまま攻撃を続ければ、墜とせそうに見える。

 実際には片側が危険になれば、もう一方が修復。

 ()()()()()()()()()()()と、翔は説明していた。



 そこで祈織から「ストップ」と、声がかかった。



「赤のαが損傷率99.68%、このβは99.71%。今、同じタイミングで弱点に一撃を見舞えばREWINDを倒せます。ですが」



 あと一撃。

 あと一撃で終わる。

 同時に、確実にだ。



 …………()()()



「なにか……問題か?」

「右下、見てください」



 右下へ視線を移す、途中。


 オレンジ色の警告灯。

 見覚えのあるマーク。



 燃料残量警告灯――――!



「急ぐ」

「はい」

「相対位置で操縦できるように空間座標を設定してくれ」

「了解しました」



 弱点。


 弱点なら知っている、どいつも皆同じ。

 青くて丸い、『コア』と呼ばれる部分。



「右城! 5秒後、同時に倒す……行くぞぉッ!!」

『了解!』

「はい!」



 スピーカーから右城の懐かしい声が、ずっと共に戦ってきた右城(神祈織)の声が背後で、心地良く耳に響く。それは、まるで荒廃世界の救済を願う2柱の女神の詠唱。

 瞬時に互いを再生する2機の戦略兵器【REWIND】、同時に倒すのは至難、俺と翔では不可能だろう。それでも、右城と祈織のサポートがあれば可能、それを確信する!!


 胸にこみ上げてきた熱いものを抑え付けるように、努めて平静に、弱点のコアに向けて一気にペダルを踏み込む――――



 機体が急速に前進する!!


 モニターに表示された照準器(レティクル)にコアを捉え、ゆっくり終幕に向けて刻むカウントダウンを見詰めながら、冷徹にトリガーを引き絞った。





 が……なにも起きなかった。





(タマ) () れ っ ?! 」



 咄嗟に残量を見る、燃料表示は、0.02%。

 弾丸と推進剤に、エネルギーを共用する機体。

 これがプリシュティナの、最大の弱点だった。



「パージします」



 祈織の操作で、即座に機体から切り離された、コックピット部。

 メインスラスターを噴射した慣性力で、押し出されていく本体。

 愚直に猛進するプリシュティナの後ろ姿が、小さくなっていく。



 直後。


 プリシュティナが、コアに衝突した。



 分解した原子核が発光、視界を塞ぐ。

 周囲が把握できない状態で…………



「ゥ ッグ!!」



 唐突に、全身が引き寄せられる感覚。

 続いて衝突音、上下に揺さ振られる。

 疲れ切った内臓を襲う、強烈な重力。


 ()()…… 重 力 ?





「戦略兵器【REWIND】の破壊を確認。最深部からの転送に成功しました」





 オペ子の声が、スピーカー越しに、耳へ届いた――――



「倒したのか?」

「そのようです」

「どうして……」



 感動的なストーリーはおろか、エンディングすら無い。

 雑魚なんてもんじゃない、命が幾つあっても足りない。

 チープな横シューに、みんな熱中していた時代だった。

 ここは、あの時に肌で感じた、あのゲームと似ている。


 しかし、ゲームでは違っていた。

 横シューは衝突したらオシマイ。

 一方的すぎる、死亡判定だった。



「特攻、体当たりをしたからです」

「肉を切らせて、骨を断ったのか」



 現実世界だからこそ、機体の大部分をぶつけて倒せる。


 残機制にするために用意した、安全装置と、転送装置。

 それらをフル活用したからこそ戦局を引っ繰り返せた。

 手持ちの駒を全て使い倒して掴んだ、起死回生の勝利。



「祈織」

「はい」



 ノーミスで、クリアした。


 この世界は、地球は、救われてしまった。



「俺が視た世界は、未来の地球は。最低のクソゲーで。毎回、英雄になれなくて。でも。どっちも、ブラウン管に映った終末世界じゃなくて、最ッ高の人生だった。また、転生神に逢って、俺なんかの希望を叶えてくれるなら。何度も、何度でも、何度だって神様に逢いに行ける。だから、もう。終わったんだと思う」



 それでも、今回も思う。

 最後まで、泣きべその女神を笑顔にできなかった。



「もう。 ……前世の記憶はいらない」



 元通り、輪廻に戻れば、何度でも逢える。

 祈織は本来、転生を司る神様なのだから。



「転生神は、悲しい世界へ産み落とされていく命を、眺めるだけの無価値な存在。ですから……きっと、こう答えるでしょう」



 ちょっと落胆したような涙声。


 後席に座る祈織の顔を見るのが辛くて、自然と下を向いていると、「ゴン!」と後頭部に物凄い衝撃が奔った。

 驚いて振り返ると、ヘルメットを投げつけたままのポーズで、少し怒った顔で、祈織は大声を張り上げた。





「 新 た な 侵 略 者 が 地 球 を 狙 っ て 現 れ た ! 」

「 え ぇ え え っ …… い つ の 間 に ぃ?! 」



「というわけで。 ……私は次の襲撃に備えて多忙なのです」



 コンソールを黙々と操作し始めた。

 下を向いていて、表情は見えない。

 だが、不満気に唇が尖がっている。


 なにかマズイことを言ったようだ。

 恐る恐る、尋ねてみる。



「まさか……続編があるのか?」

「当然、来るでしょう。何世紀後かは存じ上げませんけど」

「じゃあ、一緒に転生しよっか? ……世界のためにさ!」



 翔と双葉も、続いて転送されてきたようだ。


 後ろから羽交い絞めにされて、必死になだめている翔の姿に苦笑いしていたが、思ったより長時間だし顔色まで悪くなってきた。


 少し不安になり背後に目配せすると、「休ませたほうが良いですね」と困り顔で2人を指差したので、「ギャグマンガみたいだ」と、ぼやきながら操縦席に身体を縛り付けていたベルトを外していく。


 既に沈黙してしまったコックピット。

 内側から固定用のレバーをいくつか力任せに動かし、キャノピーを解放すると、地下施設は喝采に包まれた。


 英雄の帰還には小規模すぎる。

 精々20人ほどの、歓喜の声。

 軽く手を上げて歓声に応える。



 2周目で、ようやく手にした勝利を、徐々に実感していく。



「でもさぁ……」

「なんですか?」

「輪廻転生って、ホッタラカシにしていいもんか?」

「ワンオペできるほど、全自動化されているんです」

「そうなのか?」

「そうなのです」

「なら安心か……続編、今からスゲェ楽しみだ!!」



 神 祈織は、悪戯っぽく笑いながら囁いた。


挿絵(By みてみん)


「何度挑んでも終わりの見えない無限ループの世界で、延々と、永遠に続く希望。それはクソゲーかもしれませんが、私の求める最高の侵略者(御相手)です」



 ちょっと身勝手な転生神の望む未来は、ゲーム画面で見た終末世界。

 地球外から襲来する侵略者の殺戮兵器が跳梁跋扈するディストピア。

 人類の完全勝利が約束された、やさしい荒廃世界。



 もっと改善できる、きっと打開策がある。

 そう信じて、人々の生きる世界。



 延々と、永遠に終わらない世界――――


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― 新着の感想 ―
互いに回復させあいっこのボスは厄介ですね〜。 みんなの団結がすばらしかったです(๑•̀ㅂ•́)و✧ 突っ込んで倒せちゃうのは確かに、横シューではないですね! 意外な結末でした。 最後は侵略者が来ること…
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