中
ソフィに教えられた教会に行ったわ。
作法通り懺悔室で依頼内容を言う。
「グスン、グスン、女神の使徒様に懺悔をします。私、死にたいのですわ」
私はザーム・ベルナーと申します。侯爵家の総領娘でございます。
私が4歳の頃、母は亡くなり。父はすぐに後妻が迎えました。
義母はすぐに女の子を出産し、義妹が出来ました。
それから、父は厳しく私を育てました。
『何だ。こんな計算も出来ないのか!』
『申し訳ありません・・・・』
『マナーも全くダメだと家庭教師も言っていたぞ!』
『お義姉様、こんな事も出来ないの?』
それから、私は使用人達にも馬鹿にされるようになりましたわ。
『あの、お茶を下さいませ』
『お嬢様、聞こえません。はっきりと仰って下さい』
『『『プ~クスクスクス』』』
貴族学園にも行かせてもらえませんでした。
『ザームは人が苦手だろ?面倒な事はメロディに任せなさい』
だけど、婚約者はいました。
男爵家のスタイリー様です。とてもハンサムで温厚な方で、初めは優しかったのですが・・・
『ザーム様、もっとしっかりしないとダメですよ。話もつまらないし』
『申し訳ございませんわ』
先日、ついに。
『僕は真実の愛に目覚めた。メロディと婚約し侯爵家を継ぐ!』
『お義姉様、ごめんなさい。その方が家にとっても良いのかも』
『そ、そんな。考え直して下さいませ!』
・・・・・・・・・・・・・
「もう、生きて行く気力がありません。18歳になる前にお母様の所に行きたいですわ。成人する前ですわ。どうか、楽に殺して下さいませ。女神様の使徒に殺して頂けるのなら、女神様の御許に行けますわ。自由になるお金は金貨30枚です。それで依頼をお願いしますわ」
沈黙が続いたわ。
「・・・・分かった。金はもらうぞ」
「はい、お願いしますわ」
声は女?
懺悔室を出たら、13から15歳くらいの少女がいた。茶色の平民の一般的な服装だわ。
髪は黒だわ。まるで伝説の異世界人のように真っ黒、でも、瞳は青だわ・・肌は若干濃い肌色・・・少数民族かしら。
☆☆☆山中
「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、死ぬ。死にたい・・・」
「黙って歩け。まだ、10キロも歩いていない」
私は背嚢という物を背負わされて王都を出た。
彼女の後を追う。
「3時間で7キロか・・・」
不機嫌そうに腕を見る。あれは何かしら。時計?懐中時計よりも小さい。どこで売っているのかしら。
スタイリー様とおそろいで揃えたら、振り向いてくれるかしら。
「まあ、良い。休憩だ」
「はい!」
50分くらい歩いて10分休憩する。
女神の使徒様は背嚢を降ろして靴を脱ぐ。
「キャア!」
「どうした?」
革靴を脱いで、靴下を脱いだわ。はしたないわ。
「お前もそうしろ。後でくるぞ」
「いえ、これでいいですわ」
私も革靴と厚い靴下を渡されたわ。
素足を晒すなんてはしたない。
でも、この道、あまり人が来ないわね。死に場所かしら。
「ヒィ」
思わず悲鳴を上げた。
使徒様は水筒を取り出し、水を飲んだわ。
欲しい!欲しい!欲しい!
「あの、私にも水を下さいませ・・」
「死にたいのに水が欲しいのか?」
「欲しいですわ」
「ほら」
ヒドい、水筒の蓋に水を注いで私に渡したわ。
足りないわ。でも、飲んだわ。
それからもひたすら歩いた。
辛い。辛い。辛い。死にたい。死にたい。死にたいわ!
「これから、危険な道を通るから気をつけろ」
「はい」
片方が崖の道を通る。
私はフラフラだわ。
「はあ、はあ、はあ、はあ」
崖から落ちたら間違いなく死ぬわ。
「はあ、はあ、はあ、はあ」
目眩がするわ。
「ヒィ」
もう少しで落ちそうになったわ。
「ここで大休止をとる。50分だ」
「はい!」
「これを飲め」
何かしら。これは・・・異国のビンを渡されたわ。
でも、飲んでいいのね。全部飲むわ。
「ウグ、酸っぱい!」
「レモンの原液だ」
ヒドい!こんな物を飲ませるなんて。
「酸っぱいから少しずつ飲め」
今更言っても遅いわよ。
でも、少しずつ飲んだ。体は求めているのね。
「死にたいのに飲むのだな」
いちいち癇にさわる事を言う。
あら、女神の使徒様は、休んでいない。水筒の水を少し飲んで・・・警戒しているのね。
「あの女神の使徒様も休まれては?」
「不要」
レモンの原液を飲んだせいか少し楽になった。
でも体中がいたいわ。
死にたい。
それから数時間が経過して、やっと村についた。
ほっとしたわ。
「ワーイ!アリサ様だ!」
「アリサ様が帰られたぞ!火を使っている者以外は全員整列だ!」
アリサ、これが女神の使徒様の名前?大人と子供達が出むかえたわ。
「ここはササキ村だ。ようこそ、ご令嬢様、選ばれたね」
「えっ」
と唖然としていると、使徒様は言う。
「村長、違う。これは標的だ」
「・・・左様でございますか。その、残念です」
何、これ?
「この村、余所者は入れないから、てっきりお仲間になるのだと思いました」
「村長、そんな事はない。許可を受けた者は入れると掟で決めたはずだが?」
「失礼を」
やっと、背嚢を下ろせたわ。
目眩がする。
ドレス、汚れたけれども、この姿で女神様の御許にいるお母様に会いに行こう。
と思っていたら、背嚢に子供達が群がる。
「ワーイ!オモチャだ」
「お人形さんだわ!」
「すごい、王都の絵本だ」
え、何?私、子供達のオモチャを運ばされたの?
ヒドい。
「「「お姉ちゃん!有難うございます!」」」
「あ~、あぅりぃがと~う」
「いえ、どういたしまして」
お人形を抱きしめている子供、吃音の子かしら。
「この子、マーシと言って、耳が聞こえないんだ。お姉さん有難うと言っている。ネ、マーシ」
「あい」
そう、上手く発音できないのね。
「今日、王都で資材を仕入れた。いつものように加工を頼む」
「はい、もちろんでございます」
ガラン
とガラクタを・・・魔法袋から出した。
何、これ、最初から魔法袋を使いなさいよ。
それを見透かしたかのように使徒様は言う。
「気持が大事だ」
「そ、それだけの理由で?あんな重いものを背負わせたのですか?」
「大事な理由だ。真心だ。魔法袋は数が少ない。そればっかりに頼ったら物流の大事さを理解出来まい」
「そんな事のために?」
「今日は寝ろ」
私は粗末な小屋をあてがわれて、就寝をした。久しぶりに深く睡れたわ。
最後までお読み頂き有難うございました。