前
私はザーム・ベルナー、愛などいらない。
私は死ぬ運命の日に死にたがり令嬢だ。
今日は、元婚約者と義妹の婚約式に出席をする。
今日で成人だ。景気づけにワインを飲んだわ。
「ヒック、行くわ。ソフィ、たすき掛けをして」
「はい!」
「後、馬小屋から馬糞をはいた竹箒ももってこい」
「はい!」
☆☆☆ベルナー侯爵家パーティー会場
「これより、ザーム様、ご不在ですが、メロディ様とスタイリー様の婚約式を行います」
「「「プゥ~、クスクスクスクス~」」」」
「まあ、スタイリー様、婚約破棄をしてザーム様の義妹と婚約したのね」
「真実の愛、素敵ね」
雀たちがさえずる。
ここは、ベルナー侯爵家のパーティー会場。
総領娘はザームという名の18歳の令嬢であり今日は誕生日である。
しかし、義妹の婚約式を強行し、ザームの心を折り。跡取りをメロディにしようと父である侯爵代行は画策していた。
フフフフフフ、このメロディがパーティーを仕切るわ。
今日は寄家の令嬢たちも集まっているわ。
同盟派閥の公爵家一家も来られているわ。
何よりも、祖父が来ているわ。私がパーティーを取り仕切る姿に感心して養子縁組をしてもらえば後を継げる。スタイリーは侯爵家の遠縁だから貴族法的には大丈夫だわ。
これは、直系の当主が能力不足の時に認められる処置だわ。
今日、ザームの無能を宣言して、屋敷に閉じ込めようとしたけども、数日前にメイドが逃がしたらしいわ。
どうでも良い。いなくても良いわ。あんな無気力の死にたがり令嬢、見るだけで気分が悪くなるわ。
ここで私がパーティーを仕切って存在感を示してやるわ。
その時、会場の入り口にざわめきが響いた。
「ザ、ザーム様のご登場です!」
先触れの声は慌てている。
ザワザワザワザワ~
まるで波のように会場の入り口から人が別れてザームを通した。
ザームの姿は、ドレスをヒモでたすき掛けをし。大きな竹箒を背負っている。片手にはワインだ。
令嬢としては滅茶苦茶だ。
まあ、自暴自棄になってワインを飲んだのね。
惨め令嬢、泣き叫ぶが良いわ。
とメロディは算段した。
しかし。ザームは暴言を吐いた。
「ヒィック、ウウ~、ワインだ!お茶だ!花だ!ケーキだ!と騒がしいな!正に馬鹿貴族よ!
おい、メロディ!席を用意しやがれ、総領娘のザーム様がお前と唐変木の婚約式を祝いにやってきたぞ!まあ、お前ら今日で平民落ちだがな」
メロディは呆れた。どうせ空元気だ。
「まあ、そのような暴虐を働くお義姉様の席はございませんの。お帰り下さい」
「なら、用意しやがれ!おい、そこの男爵家の六男、スタイリー!」
「ザーム、酔いすぎだ。誰か、彼女を部屋まで連れて行ってくれ」
「はあ?お前に言っている。席がなかったらお前が四つん這いになって席になりやがれ~、ウゥ~ヒック、もう関係ないから『様』をつけろや。私は女侯爵のザームだ!」
「君!いくら、僕らの真実の愛に嫉妬したからって暴虐はいけないよ」
「バ~ロ、私は今日をもって、爵位を継ぐ資格を得たんだよ。お前なんかに嫉妬する?メロディが上になってはしたなく腰を振られるだけの男のくせに」
「なっ、のぞいたのか。し、しまった!」
「キャア!」
バタン!
「メロディ様、気絶したわよ!回復術士を!」
「薄め目開けているわ。わざとよ。誤魔化すためだわ」
「じゃあ、婚前交渉していたのかしら」
「「「キャアアーーーー」」」
・・・いったい。どういう事だ?あれほど無気力に育てたのに。あれほど、この父に怯えていたのに。
「おい、爵位無しの代行!お前は今日から馬屋番で馬糞掃除だ。お馬さんの世話だ。これが、お前にやる餞別だ!」
「う、ホウキを投げるな。どうだ。父はお前のために領地経営をしてきた。私の経験無しにはお前は何も出来ない」
「なら、お前は用済みだ。お前のショボい人生経験なんていらない!」
その時、ザームの祖父が大笑いした。母方の祖父、つまり、元侯爵閣下だ。
【ア~ハハハハ、愉快。愉快。ザームの言う通りだ。お前らは爵位に群がる害虫だ。ザームが目覚めたから用なしだ】
「義父様!」
「そんな!」
「ヒィ、私が総領娘よ!」
「メロディ様、起きたわ!」
「やっぱり気絶は嘘だったのね」
侯爵家の長老の裁断が下った。
「お祖父様、お目汚し申し訳ございません。害虫駆除の協力感謝します」
「うむ。良く啖呵を切った。しかし、数日でこんなに変わるなんて」
「フフフフ、女子は3日会わなければ刮目せよですわ」
同盟派閥の公爵の父子もザームに好意的だ。
「ほお、これぞ貴族、荒削りだが、中々良い女侯爵の誕生だ。頼もしい」
「はい、父上、ザーム殿でしたら、安心して背中を預けられます」
☆☆☆ザーム回想
・・・私はザーム・ベルナーは
やっと自分を取り戻したわ。
私は死にたがり令嬢。
婚約破棄をされ、生きる気力を無くしていたら。
メイドのソフィがささやいたわ。唯一の味方よ。
「お嬢様、どうしても我慢出来なければ、これも、ありだと思います」
首を斬る動作をしたわ。
つまり、自裁・・・
でも、自裁をしたら女神様の御許に行けないわ。
「女神の使徒様と言う凄腕の暗殺者がおります。私は偶然、伝手を知っています。王都の貧民街のジンジャ教会に懺悔室があります・・・私が約束を取り付けましょうか?」
「・・・そうね。もう。ダメだわ。お願いします」
「お嬢様、使用人にお願いと言ってはいけませんわ」
「分かったわ」
そして、私はジンジャ教会に向かった。
私の自由になるお金を用意して、尊厳ある死を迎えるのよ。
最後までお読み頂き有難うございました。