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6通 先に差し出された手はもう離してはあげない件


 ーーハンバーガー店



 向かい側に座りハンバーガーを食る南をじっと見つめる。さっき、恋人繋ぎをされそうになった。



 俺たち、付き合ってないし。友達だから、そういうのは違う気がして、手を払ってしまった。



 何か言った方がいいのかな? 今後もそういうことをされるのは少し困る。なんだか今も少し気まずい。南に声をかけた。



「あのさ……」

「なに?!」

「さっきのことなんだけど……」

「え……」



 『さっきのこと』と言っただけで、南の顔が一瞬で引き攣った。何を指しているのか分かったらしい。言わない方がいい? どうしよう。でも俺たち友達だから。



 やっぱり言おう。



「俺たち……友達だし……えっと……恋人繋ぎみたいなのはちょっと……そもそも手を繋ぐこともちょっと違う気も……」

「そうだね、ごめん」



 がたっ。



 まだ食べ終わってないのに、南が立ち上がった。俺の言葉が気に障った? 言うべきではなかった?



「帰る」

「え? まだ食べてる途中だよ?!」

「海里くんにあげる」

「いや、要らんし!!!」

「今日は解散で。ばいばい、海里くん」

「あっちょっ……」



 目を合わせてくれない。声のトーンも低い。余計なことを言ってしまった。どうしていいかも分からず、ただ、暗い顔で俺に手を振り、去っていく南の背中を、ぼーっと見つめた。



「えっと……」



 南ちゃんを傷つけた?



 ただそれだけが頭に過ぎる。



 さっきまでお腹が減り、食の進んだファーストフードも今は食べたいとは思わない。2人分のお盆を持って、返却口へ行く。



 ゴミ箱の中に残した全てを突っ込む。俺の言った言葉も全てこのゴミ箱に捨てることが出来たらいいのに。



 一度発した言葉は取り消すことは出来ない。



 今俺に出来ることって? でもこれは俺が悪いの? いろんな感情が交差し、まともに考えられない。



 ポケットの中に手を入れると、南から借りたハンカチがあった。



「返すの忘れた……」



 胸が苦しい。この状況は嫌だ。俺が泣いている時、南ちゃんはハンカチを貸してくれた。なのに俺は南ちゃんを傷つけるのか?



 たとえ、俺が悪くても、謝ろう。傷つけたのは間違いない。



 ハンカチをぎゅっと握りしめる。



「まだ近くに居るかな? 探しに行かなきゃ!!」



 頭をぐしゃぐしゃっと掻き、ファーストフード店を出た。



 *



 ばかばかばかばかばか!!!! 海里くんのばか!!!!



 あえてそれもう一度言う神経!!!! バカなの?!?! 僕の気持ち全っ然気づいてない!!!!



「こんなにあからさまに押してるのに何も気づいてないの?!?!」



 怒りで歩くスピードがどんどん早くなっていく。行くあては特にない。ただ、闇雲に歩き続ける。



「バカじゃん!!!! はぁあ~~っ!!!」



 その場にしゃがみ込み、頭を抱える。もうやだ。会うのやめようかな。それでもあんな意味の分からない映画で泣いちゃうような海里に惹かれる自分がいる。


 

 ウエストバックからスマホを取り出し、メール画面を開く。特に海里からは連絡なし。



 勝手に出てきたのは僕の方。海里くんの言ってることは正当性がある。



 謝るべきは僕。



「でも、なんかやだ……」



 僕を避けるように人々が横を通っていく。こんなところでしゃがんでいても仕方ないのは分かる。だけどその場を動くことが出来ない。



 海里の言ってることは間違っていないし、勝手なことをした僕が悪い。



 それでも海里のことが好きな僕にとっては言われたくなかった。



「このままはだめだ……」



 メール画面を見つめる。当たり前だけど、連絡はない。う~~ん。なんて送ろう。



 スマホを握りしめ、悩んでいると、目の前が暗くなった。スマホを見つめる目線を上げ、影の主を見る。



 秋も終わりかけ、日中でも肌寒くなってきているこの季節で、腕まくりをして、汗だくになり、笑っている。



「見つけた!!!! はぁ~~…っ」

「海里くん……」

「はぁ…はぁ…めちゃくちゃ探したんだよ?」



 息を切らしながら、僕の目の前に手が差し出される。これは掴んでいいやつ?



「探してくれたの?」

「友達だからね!!!」



 歯を見せて、笑いながら友達だと言う海里にグダグダ考える自分が馬鹿馬鹿しく思えた。もういいや。



「そうだね」



 差し出された手を掴む。



 君が先に出してきたんだ。この手は離してあげないよ。



 掴んだ手にぎゅっと力を入れ、立ち上がった。



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