10通 代償は払ってもらわないと気が済まない件
海里の胸に顔を埋める。願ってもみない展開に、頬が緩む。
だって、海里くんは女性が好きだと思ったから。
デートの約束をしたはずなのに、女性を連れてきた海里くんを見て、お前とは付き合わないと言われたような気がした。
恋人になれなくても、また、以前のように、毎日DMをやり取りして、オンラインゲームで遊べる関係に戻れるなら、友達のままでも良いと思った。
早くその女と離れろ。海里くんが好き。友達のままでいいなんて心底では思っていない、諦めの悪い自分が嫌い。でも海里の前では笑っていたい。
色々な感情がぐちゃぐちゃになって、耐えきれなくなり、逃げ出した僕を海里くんは追ってきた。
だから、この告白は本当に嬉しかった。
「で。デートはいつしてくれるの?」
「えっ?!」
「今日デートしてくれるって言ったくせに女連れだったじゃん」
わざと連れてきた訳ではないと思うけど。僕的には許せない。顔を上げ、海里をじぃっと見つめる。
「うっ……」
「いつしてくれるの?」
「週末!!!」
「ふーん、まぁいいけど。今からはどうする?」
「どうするって……ッ!!」
海里の下腹を手でそっと撫でる。手を添えただけなのに、顔を真っ赤に染めて、肩をビクリと震わせる海里は可愛い。
「ここは外です!!!」
「家の中ならいいの?」
「そういう問題じゃなぁあぁあい!!! そそそそんな付き合ったからって…いいいいきなり……ぇっち……するのは違うと思う!!!!」
「…………(付き合う前にシたくせに)」
まぁ、今日のところはいいか。下腹から手を離し、海里を見つめ続ける。でも、僕とのデートに女を連れてきた代償は払ってもらわないとなぁ。
満面の笑みで、海里に向かって両手を広げた。
「海里くんからハグとキスしてくれたら、僕は大人しく今日は帰るよ」
「……小悪魔……」
「なんか言った?」
「いいえ、何も言っておりません」
海里の腕が僕の背中を優しく抱きしめた。甘えるように、背中に腕を回す。ぎこちなく海里の顔が僕に近づいた。
「ん……」
拙い口付けは、綺麗に唇が重なってはいなかったけど、触れ合う口唇と温もりから、海里くんに『好きだ』と言われているように思えた。
「キス、へたくそ~~」
「なっ……頑張ってしたのに!!!」
「あははっ…ありがとう、海里くん。じゃあ、また週末~~」
少し寂しいが、約束だから、帰ろう。海里に手を振り、歩き出すと、手が掴まれた。
「……帰るなよ」
「へ?」
「だから、帰るなって……俺の家……来る?」
「……行っても良いならいくけど」
僕は今、海里くんに誘われてる? これはそういう意味? ちらりと海里の顔を見る。頬を真っ赤に染めながら、僕から目線を逸らした。
「意外とえっちなんだね、海里くん」
「はぁあぁああ?!?! な…ななな何言って!!! 俺は一緒にゲームがやりたくて誘ったの!!!」
「…………」
クソかよ。心の中で悪態を吐き、顔は笑顔を取り繕う。僕を家に誘っておいて、ゲームだけで済むと思うなよ。
「だめ???」
「いいよ、海里くんの家に行こう」
「うん……えっと……その……ほら……俺は年上だからリードしないと」
「え?」
海里が恥ずかしそうに、僕に手のひらを差し出した。あんなに手を繋ぐことを嫌がっていたくせに、自分から言うの?
嬉しくて、海里の手を握ると、手のひら同士が合わさり、指先が絡まった。
「恋人同士みたい!!!」
「……恋人同士でしょ」
本当に年上か? 少し呆れながらも、海里と歩く。指先が触れ合うたびに、微かな温もりが海里から伝わる。
手のひらの感触は、言葉では表せないほど、安心感と、親密さをもたらした。
好きだと言葉にして気持ちを言うのは、少し恥ずかしくて。想いを知らせるように、僕は海里の手を強く握った。