1通 一度思い込んだら、そうとしか思えない件
『おはよう』から始まり、『おやすみ』まで、毎日やり取りしている相手がSNS上に居る。付き合ってはいないが、その連絡量の多さはまるで恋人同士のよう。
その子の名前はミナミちゃん。かれこれ1年近くやり取りをしている。
【今日もお疲れさま! かいりくんがゆっくり眠れますよーにっ!】
【え、知らない! すごーい♡】
【そっかぁ~~大学大変だよね! テスト頑張ってね! 応援してる*°】
かわいい。
会ったことはないし、顔も知らないが、DMでやり取りしていて、本当にかわいいと思うし、癒される。AIで作られた可愛い女の子のアイコンからは、中の人は女の子としか想像できない。
そして今日、ミナミちゃんと初めて会うことになった。
俺は海里、大学2年生。漫画やゲーム、日常生活のことについて話すと、無限に、話すことができるミナミちゃんが密かに気になっている。
こんなに趣味が合うのは嬉しい。
相手は20歳だと言っていた。大学2年生らしい。俺と同い年。可愛い子ならば、ぜひ、恋人になりたい!!! ドキドキしながら、待ち合わせ場所の駅前広場でミナミちゃんを待つ。
ポン
DMが来た。
【ごめんね! もうすぐ着く!】
【気をつけてきてね】既読
待っているといっても10分程度。これぐらい平気。どんな子かなぁ。好みじゃない子が来ても、最低限のおもてなしはする予定。今後DMのやり取りをするかは別だけど。
あんな可愛いDMが送れる子なのだから、絶対にかわいい子に違いない!!! 俺の勘がそういっている。彼女とか居たことないけど!!
目の前にやってくる1人の人物。くりっとした大きな瞳に二重瞼。ふわふわとした癒し系の雰囲気の『男性』。
「海里くんかなぁ?」
「え……そうですけど……」
え? 誰? 思考が止まる。
「僕、南。小森南、よろしくね。今日、海里くんに会えて嬉しいよ」
目の前の相手はニコッと可愛らしい笑顔を見せた。
え、ミナミちゃんって男?
そして、なんだか聞いていた年齢より少し幼い気が……。いや、そんなことよりも男? え、男? 男? 嘘? 男? おと……。
「お、男ぉおぉぉおおぉお?!?! ぇえええぇええ?!?! 聞いてないし!!! うわぁあぁあ!!!! ネカマじゃん!!! 騙されたぁあぁあぁあ!!!!」
海里は両手で頭を抱えた。
「……僕DMで女の子だなんて、一言も言ってないしー」
南が俺の顔を覗き込み、微笑む。いや、まぁ、確かに言ってなかったような気もしないこともない。
そして1つの疑問。年齢。性別を偽っていた(※別に偽ってない)のだから、年齢詐称もあり得る!!!!
「ねぇ、本当に20歳?!」
「あ~~それは嘘ついた。ごめんね? 中学2年生。今から遊ぼーーっ!」
「遊ぶって……」
終始笑顔を見せる南に、荒れた気持ちが少しだけ癒される。だけとそういう問題ではない!!!
まぁ確かに? 会っちゃったし? 性別の確認をきちんとしなかったのは俺のミス!!! しかし相手は中学生!!! どうなのこれ!! 犯罪? いや同性だし!! 関係ないか?!?! ここはとりあえず遊んでおく?! 変な女が来るよりは健全?!
友達程度にはなれるはず!!!
しかしまぁ、可愛い。すごく可愛い。女だったら、速攻惚れる。だけどっ……これは違がぁあぁあぁあぁぁあ!!!
「遊んでくれるの?」
「まぁいいけど……」
「やったぁ、ありがとう! 僕、海里くんのおうち行きたいな」
南に両手が包まれ、ドキッとする。
「ちょ……」
急に手を掴まれ、頬が赤く染まる。相手は同性。何をそんなことで照れてるんだ!!! バカか!!!
「だめ?」
首を傾げ、訊いてくる。大きな瞳と目が合い、恥ずかしくなり、思わず目を逸らす。
「……部屋汚いよ……?」
手から感じる南の温もりにドキドキする一方だ。俺って恋愛耐性なさすぎ。相手は同性なのに。
「やったぁ~~」
南が嬉しそうに両手を挙げ、喜ぶ姿に、色んな気持ちが有耶無耶になりそうになる。
良いのか? こんな素性も分からないやつを家にあげて。そもそも遊ばない? と誘っておきながら、家へ行きたいって何? おかしくない?
でも中学生相手に何かあるとも考えづらい。
きっと、大丈夫。
「家、こっちだから」
俺は『同性だし』『相手は中学生』と高を括って南を家へ招き入れてしまった。そう、俺が南にDM上で密かに恋心を寄せていたように、南もまた同じ気持ちだったと気づかずにーー。
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