男に生まれればよかった
「男に生まれればよかった……」
深いため息と共に、さやかはつぶやいた。
昔からガタイがよく、力も強く、正義感に溢れ、輝く瞳、白い歯。歩き方はどすどすどす。
「男になりたいんですか?」
見知らぬ白衣姿の青年が聞いた。
「言ってみただけ」
そう言って、さやかは公園のベンチを後にした。
☆
1か月後。
公園のベンチで誰かを待っている様子のさやかに、あの白衣姿の青年が声をかけた。
「試供品の飴です。どうぞ」
「あ、あら、ありがとう」
「誰かと待ち合わせですか?」
「ええ。まあ」
「さやかさん」
「ふみのりさん」
待ち人が来たようだ。
「待った?」
「いいえ」
「大事な話ってなに?」
「わた、私と結婚してください!」
指輪を差し出すさやか。
「ちょっと、ちょっと、待って!いろいろ違うよ!」
ふみのりは尻込みした。
「そりゃあ、私は男みたいですけれど、心はれっきとした女です。ふみのりさんのことが好きなんです」
「男みたい、って、男だろ?きみ」
「えっ」
いくらなんでもひどい、と思っていると、近くにいた白衣姿の青年が手鏡をさやかに見せた。
無精髭、骨格のがっしりした姿。
「おと、おと、男?!」
「男に生まれればよかったってこの前言ってませんでしたっけ?」
「でも、こんなのひどい!」
うおーん、と泣き始める。
「僕は男同士で結婚できないし、指輪も好きな人に僕から渡したいよ」
ふみのりがそう言った。
「さやかさんが女なら問題ないんですね?」
白衣姿の青年が聞いた。
「そりゃそうだけど」
「さやかさん、もう一個飴をあげましょう。これを食べると女に戻れます」
「本当に?」
飴を食べると果たして女に戻った。
「ふみのりさん」
「とりあえず、お付き合いから始めてみましょうか?」
「はい!」
ふーん、と白衣姿の青年は思った。
「さやかさん、きみ、宝塚受けてみない?」
ふみのりが思わず口走っていた。
「なんで?ひどい」
「今のきみの魅力を最大限に引き出せるよ」
「そうかな」
男に生まれればよかった、って、役者としてか……。と白衣姿の青年は思った。
本気で性転換願ってる被験者さがしに行かなくちゃ。