美しく儚く脆く残酷
「て、天使?」
私の目の前にとても綺麗な女性が光を放って私を見ている。
青い綺麗な瞳、、。
「エミリ、、」
さきほど暗い闇の中に落ちていきそうだったのに
今はなぜか懐かしくて暖かい気持ちなる。
そうだ。私は電車に乗っていて途中下車して、それで今はホームの椅子に座っているんだった。
エミリは私の目の前に立って不安げな顔で私を見つめている。
「大丈夫です、ちょっと疲れてたのかも」
と私が言うとエミリはとてもホッとした顔をした。
それを見てると何故かとても愛おしい気持ちになった。
そしてエミリの背後から光が放たれているのに気づいた。
光の正体を確かめようと視線をあげると、そこには大きなステンドガラスでできたような絵が6つ見えた。
「なにこれ、、すごい。」
絵の長さは1つ5メートル以上あるのではないかというほど大きくそれが6つ均等の大きさで並んでいる。
そしてなによりもとても神秘的なこの光景に息を呑んだ。
眠りにつく前ははなかったはずなのに。
いや、それとも外からの光がさしていなかったから気づかなかっただけなのだろうか。
1番最初に目についたのは向かって1番左のステンドガラス。
白い服をきた神様のような天使のような人物が横を向き祈っている。
左から2番目は天使がとても優しい顔でお腹のあたりに光を抱えている。
左から3番目は鎧を着た人物が右手に剣を持って堂々と立っている。
真ん中の絵は、二匹の狼がそれぞれ右と左に向かって吠えているように見える。
そして向かって右側の絵は全ての雰囲気が先程の絵とは全く異っていてとても恐ろしいと感じた。
というのも右側の3つの絵は全て鬼のような生き物が描かれている。
そして右側に向かっていくにつれてその鬼は大きく恐ろしい鬼が描かれており、特に向かって1番右はとても大きく不気味な鬼で凝視できないほどに恐怖を感じた。
すると、エミリが私の目の前にきてジーっと私を不安そうに見つめている。
そしてそのおかげでまた我にかえることができた。
「あれなんだと思いますか?」
とエミリに聞くとエミリはなにも言わず困った顔をした
あ、そうだエミリは私の質問にYesかNoで返せる質問にしか答えられないと言っていたことを忘れていた。
そんなことを思っていると外からの光がなくなりステンドガラスの絵もあっというまに見えなくなってしまった。
目の前の景色はまた暗闇に包まれてホームにある火の玉のオレンジ色の灯りが薄っすらと私達を照らしている。
なんだったのだろうさっきの絵は。
神秘的で、美しく儚く脆く残酷。
そんな矛盾した感情が胸に残る。
あの6つの絵が脳裏に焼きついて離れない。
ただ今はそれよりもこれからどうしたらいいのかを考えなければならない。
パチンッパチンッ
頬を叩き、自分自身に気合を入れる。
まず最初に考えられるのは電車に乗るか乗らないか。
このまま次の電車を待ったほうがいいのだろうか。
「エミリ、ここで待っていたら次の電車が来ますか?」
目の前にいたエミリは私が座っているベンチの横に移動しながら私の質問に答えた。
「答えはYesです。電車は来ます」
ただ、その電車に乗ったほうがいいのかはまた別の話のような気もする。
その時、遠くほうから狼の遠吠えが聞こえた。
電車から外が見えなかったことで、なんとなくここは地下鉄だと思っていた。
でもさきほどの外からの光だと思われるもの、そしてこの狼の声。
もしかしたらここは地上で、外へでることは難しくないのかもしれないと私に連想させた。
「エミリ、私はここから外に出ることは可能ですか?」
ここから出たほうがいいかもしれない。
なんとなくそう思った。
「答えはYesです。ここから外に出ることはできます」
問題はここから。
どうやって外に行けるかという質問はエミリにはできない。
「外へ行ける道はこっちですか?」
左の方向を指差してエミリに質問する。
「答えはNoです。そちらに外へ行ける道はありません」
そうなると逆側か。
「じゃあこっちに外に行ける道があるんですね?」
さきほどとは逆の方向を指差してまた質問する。
「答えはNoです。そちらに外へ行ける道はありません」
まさかの答えに動揺してしまう。
「え、こっちでもないの…」
そして次の瞬間ふと、電車を降りてすぐエミリと話していた時のことを思い出した。
なんとなくあそこにあったような気がする…。
すると、左側からガタンガタンと電車がくる音が聞こえてきた。
さきほどから自分の勘でばかり動いているが、ここがどこかもわからない今の状況ではそれくらいしか頼れるものはない。
「走りましょう」
咄嗟にエミリの手をとり、さきほどホームに上がるために上ってきた階段を降りる。
この電車には乗っては行けない。
そんな予感がするのだ。
線路に降りたが、こうしてる間にも電車は私達に近づいてきている。
「確かここに…」
暗くてわかりずらいが確かにさっきエミリと線路上で話している時に扉のようなものがあるのを見た。
ただこれが外へ繋がっているという確証はない。
しかももしカギが閉まっていたら…。
線路は一車線しかないのにこのままじゃ私だけでなくエミリが電車に轢かれてしまう。
今からホームに戻る時間もない。
1メートルにも満たない小さなドアだが1人ずつ潜れば通れる大きさだ。
「もしこのドアが開かなくても力尽くでこじ開けます」
私がそう言ってもエミリはなにも言わずにただ黙って私の側にいる。
暗闇の中にうっすら電車の灯が見える。もぉすぐ側まで来ている。
電車のスピード…
私が目覚めた時には止まっていたから知らなかったが、すごい速さで向かってきている。
ドアノブに手をかけひねるとドアはガチャっと音がしてすんなりと開いてくれた。
「エミリ、先に行って下さい」
エミリを先に通そうとするがエミリが動かない。
「あ、あの、もぉ電車が来てるから早く!」
このままではエミリが電車に轢かれてしまう。
すると逆にエミリが私の背中を押した。
「エミリ!」
振り返ってそう叫ぶと電車がすでに目の前を通り過ぎていっていた。
「え、うそでしょ」
突然のことで頭の中が混乱してしまう。
「どうしよう」
自然と涙がでてきた。
「いやだよ、、エミリ、、死んで、、ないよね?」
さきほど出会ったばかりなのに、すごくすごく悲しい。
「私の、、せいだ」
自分でもわからない感情が湧き上がって涙が止まらない。
どうしよう、こんなにも悲しい。
「答えはNoです。私は死んでいません」
エミリの声がする。
視線を上げると
そこにはなんと、エミリがいた。
「…エミリ?」
安心したと同時に自然とエミリを抱きしめていた。
「エミリ生きてたんですね!ほんとに良かっ…」
エミリの顔を見るとエミリがポロポロと涙を流していた。
無表情なその顔から涙がこぼれ続けている。
「あっ、、!不安でしたよね。私の勝手な行動にあなたを巻き込んでしまってほんとうにごめんなさい。」
正直少しびっくりした。
勝手な思い込みできっとエミリはどこかの国の兵隊の人で、すごくしっかりしているように思ってた。
でもあんなことが起きたのだからこの反応は当然のことだ。
改めてまた罪悪感にかられる。
そしてエミリがもしかしたら悪い人なのではないだろうかという最初の疑いさえも申し訳なく思った。
ただ安堵しているのかエミリの表情が少し柔らかくなっているようにも思えた。
「ほんとうに生きてて良かったです。」
そういえば…
線路とホームの間には少し距離があったから、それでエミリは助かったのかもしれない。
「よし、このまま外に出ましょう」
とにかく今はエミリが生きててくれたことが嬉しい。
ほんとうに不思議…こんなにも嬉しい。
出口だと思われるところは少し距離がある。
そしてやんわりと外の光が見える。
それは希望の光のように思えた。