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28 ラウルさんの活躍

 ロザリオは三歳になった。


「かあさん、おなかすいたぁ」


 もう寝る時間なのに。ロザリオは一日中おなかを空かせている。彼はローランドに似て大柄で、同い年の子供たちと遊ぶと頭半分ほど背が高い。


「さあ、おちびちゃん、もう寝る時間よ?」

「やだ!父さんにおかえりなさいするの!」


 ロザリオは毎晩のようにローランドの帰りを待っているのだけど、一勝九敗くらいで眠ってしまう。今夜もパタリと眠ってしまった。


「ただいま」


 やがてローランドが帰ってきた。

真っ直ぐロザリオの寝顔を見に行くのは習慣だ。


「可愛いなぁ」

「起こさないでね?」

「うん。ちょっとキスするだけ」

「起きちゃうから」

「大丈夫だよ」


 そんな会話も毎晩のことだ。ロザリオは父親が大好きな父親っ子だ。体を張って遊んでくれるのが嬉しいらしい。



 ロザリオが乳離れした時から私は移動販売の現場に復帰した。その間はネールがロザリオの世話をしてくれている。


 ロザリオが生まれて以降、私、ローランド、ネールの四人で週に一度一緒に夕食を食べるのが習慣になっている。


 最初は翌日に売る屋台の料理の下ごしらえの後、「食べてから帰ればいいのに」とネールを誘っていたのだけれど、ネールは「若い夫婦の邪魔になるから」と遠慮して断り続けていた。それを説き伏せたのはローランドだ。


「ルイーズにも俺にも早くから母親がいない。週に一度くらい母親と思って俺たちと過ごしてほしい。なによりロザリオが喜ぶんだよ」


 それを聞いてネールが折れた。


 ある日の夕食会の時、ネールが「殿方の茶飲み友達ができた」と言う。そしてそれがラウルさんだと。


「えっ?お二人はいつから?」

と驚いた私に

「ただの茶飲み友達ですからね」

とネールが苦笑した。


「ネールのお友達ならば私たちともお友達ではないの」と都合よく言い張り、私はラウルさんも夕食会にお誘いした。だってずっとラウルさんと親しくなりたかったんだもの。言い出せなかったのよ、売り手とお客という垣根を越えられなくて。


 次の夕食会に我が家を訪れてくれたラウルさんは

「ネールさんは自分が年上だといつも気にするんですがね。五十を過ぎたらどちらが年上かなんて関係ありませんから。年寄り同士仲良くしてくださいと、私からお願いしたんです」

と笑う。


 ネールは人に甘えさせることはあっても自分は甘えない人だ。過去がそうさせるのかもしれないけれど、私はずっとラウルさんのような存在が現れることを願っていた。だからとても嬉しい。


「良かった。本当に良かったわ」

「ラウルさんはきっと独り暮らしの老後を心配しただけですよ」

「もう。ネールったらすぐそんな憎まれ口を言うんだから」


 その日の食事会のメインは厚切り豚肉のニンニク生姜焼きだったけど、いつもよりずっと美味しかった。豊かな気持ちで食べると味も美味しく感じるものなのね。



♦︎




 移動販売は順調で、リカルドさんは恋人と結婚して新しい移動販売の馬車を構えて独立した。主に住宅街を回っている。


 リカルドさんの移動販売はパスタが売りで、日替わりパスタはご贔屓が多い。


「ルイーズさんの馬車でもパスタを売りませんか?」

「私が真似をしてもいいの?」

「いいに決まってるじゃないですか。僕のとこの基本の品揃えは全部ルイーズさんのレシピなんですから」

「じゃ、お言葉に甘えさせてもらおうかな」


 そんなやり取りができる人がいるのはとても嬉しい。私も王都に馴染んできたなぁと思う。


「ぼく、パスタ好き!」

「ロザリオはパスタもお肉も大好きよね」

「うん!」

「お野菜も好きになってほしいなぁ」

「お野菜、きらい」

「坊ちゃん、お野菜も食べないとお父様みたいに大きくなれませんよ」


 ネールは移動販売の助っ人からロザリオの養育係になり、ロザリオを見守ってくれていて、ロザリオを時に厳しく時に優しく世話してくれている。


 リカルドさんたちが抜けたので私は新しい人を雇った。王都の生まれ育ちの十五歳の女の子、メリッサちゃんだ。男の人の方が安全面では安心だけれど、なんと安全面はラウルさんが担当してくれることになった。


「どうせ暇を持て余しているのですから。お役に立てる場所はありがたいのです」


 そう言って移動販売の営業時間の間だけそばにいてくれることになった。そんなある日のこと。




「びっくりね。こんなまずいの、初めて食べたわ!」


 突然の言葉に驚いて声の方を向くと、若い女性だ。私を睨んで目を吊り上げている。


「お口に合いませんでしたか。申し訳ありませんでした」


 とりあえず周囲で食事中のお客様が不愉快にならないよう謝った。すると私が謝ったことで勢いをつけたように更に絡んでくる。


「よくもこんなまずい料理で商売ができたものよね。恥ずかしくないの?それとも男に媚を売って稼いでるの?」


 お客さんの半分は女性客なので、とんちんかんな言いがかりに思わず苦笑してしまった。


「なによ。何がおかしいか言いなさいよ!」

すると仲間と思われる若い男性が参加してきた。


「客に対して失礼じゃないのか?この店は客をなんだと思ってるんだ?ああ?」


「銅貨五枚でお食事を売っているのであって施しを受けてるわけじゃありません。食の好みは人それぞれですから次からは他のお店へどうぞ」


「お前!客に対してなんだよその態度は!」


 そこでラウルさんが私の後を継いだ。


「客だ客だって言ってるが、客にもマナーは必要なんだよ。店先で薄汚い言葉を吐き散らして騒ぎを起こすのは、ここが繁盛してるからだろう?妬みか?」


 ラウルさんがわざと挑発するようなことを言い始めて慌てた。案の定、若い男がカッとなったのか、食品が並ぶ馬車の屋台部分を荒らそうと手を出して、いくつかの食器がガラガラと地面に落ちた。


「ウワァッ!」


 何をどうしたのか、見えなかった。気づいたら男は地面にうつ伏せになって押さえつけられている。


 ラウルさんが近くにいる人にしか聞こえない小声で男に話しかけた。


「なんだ。威勢がいいのは口だけか。どうせ何かの鬱憤晴らしだろ?恥を知れ、このクズが」


 周囲のお客さんたちが口を出してきた。


「こいつら、他の店でもいちゃもんつけてたな。見たことあるぞ」


 あ、そうなんだ。常習なんだ。


「警備隊に突き出してきます」


男を引っ張り上げて、ラウルさんが言う。若い女性はギャンギャン大声で騒いでいたけど、一緒に付いていくようだ。逃げないだけ可愛げあるじゃないの。


 お客さんたちが元のように食事を再開した。


「大丈夫だったかい?ルイーズちゃん」

「ええ。こういうの、初めてじゃないから」


 イーダスでも何度かこの手のことはあった。コズモさんがいたから被害は無かったけどね。


 それにしてもラウルさんは強かった。






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