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20 王都で移動販売

 ネールにとことんダメ出しをされて火がついた。そうよ、自信を失ってグジグジしていても何も生まれやしない。


 私は王宮前の広場で移動販売ができるよう、広場を管理している公園管理課に申請書を出しに来ている。


「ルイーズさん、どうぞ」


 小部屋に呼ばれて移動販売の計画書を出す。係の男性はそれを読んでチェックしている。


「スープと軽食ですね?食器は木製ですか」

「はい。提供する軽食の数の分だけ食器を用意しますので使い回しは致しません」


「なるほど。時間は?」

「昼前から売り切れるまで。最長でも夕方の鐘の前には撤収します」


「ゴミは?」

「食べ残しは桶に入れて持ち帰ります」


「ふむ。いいでしょう。広場の利用料は前払いになります。広場の利用を許可します」

「ありがとうございます!」


 こうして私の移動販売は一歩前進した。あとは何を売るかだけど、それは決めている。


「豚肉と野菜の煮込みですか?田舎料理ですよ?」

「それがいいのよネール。お洒落で美しい料理はお店の人に任せるわ。私の移動販売はおなかがいっぱいになって、熱々で、安くて美味しいものを売りたいの」


「そうですか。また思い切りましたね」

「だってネール、都会的な盛り付けや味付けは王都の料理人にかなわないわよ。おのぼりさんはおのぼりさんらしく、ほっこりできる食事を提供すればいいと思うの」

「なるほど」


 そうと決まったら行動あるのみ。


 二人で市場に行き、野菜と肉を買い込む。香辛料、調味料、大鍋、小鍋、木のお皿、コップ、スプーン、フォーク、小さなトレイ。


 行きも帰りもベントニオが大活躍。ベントニオは王都に来てからは欲求不満にならないよう、毎日散歩に連れ出している。朝早く、ローランドが寝ている間に人の少ない街道を歩かせている。


 そのうち、思い切り走らせてやりたいな。週に一度はなんとかしてやろう。


 夜からはひたすら料理した。刻む、刻む、刻む。炒める、炒める、炒める。あとはひたすら煮込む。やっといつもの私に戻った気分。


 見た目は地味だけど、ホロリと崩れる豚肉に野菜の出汁が染み込んで、なんとも美味しい。


 セットのスープはあっさりと。


「ルイーズ様、美味しいですよ。きっと売れます」

「楽観は禁物だけど、うまくいくことを信じて進むしかないわ。でもネール、あとひとつ、ほんの一口でいいから何か付けたいけど、何がいいかしらねぇ」


「そうですねぇ。合間に食べるピクルスとか、キャベツの酢漬けとかですか」

「あっ、それ必要だった。ありがとうネール」


 残っていたにんじんを細かく切って歯応えが残る程度にサッと茹でた。刻んだゴマと砂糖、お酢、塩、刻んだパセリで和えた。


 よし、明日はこれを売ろう。ローランドは心配そうだけど、「売れ残ったら毎日豚肉の煮込みよ!」と言ったら「まかせてくれ。全部食べ切ってやるさ」と笑って送り出してくれた。



♦︎



「田舎風の豚肉と野菜の煮込みはいかがですか!スープ付きです!いかがですか!」


 初日だから元気よくね。笑顔でね。


「懐かしいな。これ、お袋がよく作ってくれたよ。ひとつくれるかい?」


 一人目のお客様は年配の男性だった。


「ありがとうございます!熱いので気をつけて」

「ずいぶん安いけど商売は大丈夫かい?」

「はい。大丈夫ですよ。ありがとうございます」


 男性は馬車の近くの花壇のレンガに腰をかけて食べてくれた。ひと口ごとにウンウンと頷いている。よし、気に入ってくれたみたい。


 そのあとはぽつりぽつりとお客さんが来てくれたけど(こりゃ半分は売れ残るかな)と思っていたら近くの洋品店や事務用品のお店からまとめて注文が入った。


 私は盛り付けに専念してネールはお金のやり取りに集中してもらった。


 最後のひと皿を売り切った時の満足感。嬉しくてたまらない。初日から順調だったことに感謝の思いで胸が熱くなる。


 使った食器を重ねて馬車に収め、広場を撤収することにした。パタパタと食器を片付けていたら、まとめて注文してくれた商会の男性が近寄ってきた。


「今日はありがとうございました」

「美味しかったよ。また明日も来るの?」

「はい。よろしくお願いします」

「あのさ、少しだけ量が足りないんだ。大盛りも頼める?」

「はい。できますが、もしご希望ならパンを別売りにしましょうか?」

「ああ、それがいいな。頼むよ」

 

 ネールもそれは心配していた。

「若い男性には量が少し足りないかもしれませんよ」と。


 明日の食材を買って帰ったら、下のパン屋さんでパンを頼まなくては。いくつ注文したらいいかなぁ。


 そんなことを考えていたらネールが笑う。


「ん?どうしたの?」

「ルイーズ様がやっと元気になられて安心しましたよ」


「私、そんなに元気がなかった?」

「はい。もしかしてお痩せになったことに気づいてないのですか?」

「服が緩くなったからさすがに気づいてた」

「顔色もかなり悪かったですし、たったひと月でずいぶん痩せられました。ローランドさんが心配して手紙を寄越すはずですよ」


「え?手紙?なんて?」


 ネールがしまった、と言う顔をした。


「そう。なるほどね。父さんが心配したのもネールが来てくれたのも、そういう理由だったのね」


「ローランド様はルイーズ様のお身体を心配してくれただけですよ」


「そうでしょうけど。私に内緒でそんな手紙を書くなんて。私がまるで親離れできない人みたいじゃないの。私、とても頑張ってたのに」


 情けなかった。痩せたのは不慣れな生活で食欲が落ちただけだ。病気じゃない。


 どうして私を飛ばしていきなり父さんに知らせたんだろう。夫婦なのに。誰にも頼らずにやっていこうとした自分の意気込みを軽くいなされたようで、やり場のないモヤモヤが。


「ローランド様に謝りたい」というネールには「大丈夫。喧嘩なんかしないから。それよりゆっくり休んでね。明日もお手伝いと用心棒をお願いね」と言って帰ってもらった。


 

 夕方6時ごろにももう一度更新の予定です。

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