第一章 1
なんだか体が軽く、思考がはっきりしない。ここは一体どこなのだろうか。私は誰なのか。こんなときは必殺!思考整理!
「私は橋野わき。高2女子の重度オタクで今日は私の推しのミイハてゃんの誕生日だったから公式サイトずっと張っていつもより多めにストラップつけて全力で応援しようとしててそれで、それで…。」
思い出した。スマホに集中しすぎて電柱にぶつかったのだ。そして私は気を失って…ということはここは病院なのか?
そんなことを考えていると、頭が回ってきたからなのか、視界も晴れてきた。目の前に人影のようなものが見え…ん?多くないか?しかも、私の周りを囲うように人がたくさんいるではないか。この状況は一体…?
「おおー!」
周りの人々が歓声を上げ始め、私はさらに困惑した。私のような人間の意識が戻っただけで、こんなに歓声を上げるものなのか?そもそも私、あなたたちのこと知らないぞ?
「大魔導士様!これは成功ですよ!この方がきっと我々を救ってくださる救世主なのですよ!」
何やら中年ぐらいの紺のローブを着た男が、白と金でできたローブをまとった老婆に声をかけている。というか、大魔導士だと!?これはオタク魂をくすぐられる言葉じゃないか。今の言葉から考えるに、老婆が、魔術だか何だかを使って救世主を召還したってことなのだろうか。そして、その救世主というのは私なのでは!?今気づいたことだが、どうやら私は浮いているようだ。凄いな!凄すぎる!夢の力半端ない!こんな夢は初めてだ。どうせ短い時間しか見れない夢だし、存分に楽しんでやろうじゃないか!まずはかっこいいセリフを言わないとだな。
「そなたが大魔導士か。私を召還するとはなかなかの腕前のようだな。我が名はワキ!召還されたからには救世主として、お前らに救いの手を差し伸べよう!」
「おお、大導師様、これは期待できそうですぞ。大導師様は救世主を召還した魔導士として有名になられますよ!そして私はその補佐役で大活躍したと有名に…グヘヘ」
へへっ。決まったな…っておい、あの中年男下心見え見えじゃないか。
すると、ずっと黙っていた老婆が口を開いた。
「召喚に応じてくれた救世主がいてくださったことは、まことに我が主神アミル様に感謝せねばならん事じゃのう。しかしのう、わしゃさっきのこのお方の言葉で聞き捨てならんことがあってのう。救世主ワキとおっしゃったかの。先ほどあなた様はミイハの名前を出しはしなかったのう。」
ミイハって私の推しのミイハてゃんのことなのか?というか、思考整理の部分聞かれていたのか。
「ああ、言ったぞ?それがどうかしたのか?」
この一言が決定打になったのだろう。周りの空気が一気に変わった。さっきまで向けられていた尊敬のまなざしは一切なく、今は外敵扱いさえ感じる。なんで!?私なにかした!?その疑問に答えるように老婆が言う。
「やはり、私の召喚の念はアミル様には届いていなかったようじゃ。我々の日ごろの行いがたたったのじゃ。アミル様の敵のミイハの使徒が下りてくるなんて。このままではわしらは本当に終わってしまう!皆の者!こやつをここから追い出すのじゃ!」
まてまてまてまて!え、おかしくない?何勝手に召喚しておいて悪者扱いしてくれちゃってるの?私もしかしたら崇められてゆるゆる傲慢ライフ送れちゃう!?とか一瞬思っちゃったんだけど!違うの!?
「おいてめえ!さっさとここから出ていきやがれ!邪魔なんだよ無礼者!シッシッ」
ちょ、えええ。さっきと態度違いすぎじゃないこのおっさん?
そんなこんなで、ガタイのいい、この国の騎士らしき大男二人に両脇から抱えられた私は、そのまま今にも壊れそうなおんぼろ馬車に乗せられた。運転席のほうを見ると、奴隷なのだろうか、やせ細っていて薄汚れたローブを着たおじいさんがいた。
「いいか、こいつを城壁まで連れて行って門の外へ出してしまえ」
中年男はおじいさんにそう言い残して建物の中へ戻っていった。
こんにちは五曜の星です。今回も相変わらず短いですね(笑)読みやすいと思って勘弁してくださいませ。今回主人公の名前を出しましたがモブ中のモブです!みたいな意味の名前ですね(笑)それではまた次回~。