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和名と英名の齟齬

 私は一介の魚類好きである。

 フグのようにふっくらコロリと丸い魚も愛らしいが、その対極に位置する、迫力と鋭利な機能美に溢れるハンター――――サメも甲乙付けがたく魅力的だ。


 きっかけは、たまたま見ていた海外のサメ画像の注釈に「blue shark」という単語を見つけて

「え、ブルーシャークってアオザメじゃないの?」と驚いた事だった。



 そこで、いろんなサメの和名と英名を調べてみた。和名とはある生き物の日本語の名称、英名は同じ生き物の英語圏での名称である。

 何の専門知識もない上に、中学生レベルの英語力しか持たない私であるが、幸い手持ちの図鑑とGoogle先生という心強い味方を得て、手当たり次第に調べた。

 するとこれがなかなかに興味深く、つい夢中になってしまった。


 ひとつの生き物に日本語と英語、異なる文化圏の言葉でそれぞれ勝手に名付けるのだから一致しないのは当たり前である。それ自体は特に驚くような事でもない。

 が、単に一致しないだけでなく、和名を英語で直訳したら違うサメの名前になる、というボタンの掛け違いのような結果が続いたのだ。



【アオザメ】というサメがいる。

 大きな個体で全長4m、回遊魚のような流線型のボディにつんと尖った鼻先。その泳ぎはサメ界最速を誇る。そしてその名の通り、背面は鮮やかなメタリックブルー。

 大変に魅力的な生き物だ。


 青鮫なんだから英語だとブルーシャークかな?と単純に思っていたのだが、アオザメの英名はmako(マコ) shark(シャーク)。マコとはマオリ語で「サメ」を指す言葉だという。

 マオリといえばマオリ族。かの巨鳥ジャイアントモアが消化補助のために石を拾って飲む習性を利用して、『焼けた石を飲ませる』という拷問のような方法で狩っていたニュージーランドの先住民族だ。モアも嘴で咥えた時点で気付けよ、熱いだろうに。


「mako(鮫) shark(鮫)ってサメが重複してるじゃん」と思ったが、そういえば日本にも【オオワニザメ】という奴がいた。ワニ(鰐あるいは和邇)とはサメを指す言葉である。

 「鰐鮫(わにざめ)」、聞き覚えはないだろうか。古事記に由来する昔話『因幡の白兎』でウサギに騙され、怒りのあまりウサギをとっ捕えて生皮をひん剥いた奴等である。

 なんというか「ちょっと頭が回るが故に調子こいた結果、ヤの付く自由業の方々を怒らせた一般人の末路」みたいな話である。


 オオワニザメの英名はsmalltooth(スモールトゥース) sandtiger(サンドタイガー)

 サンドタイガー!何それかっけぇ!!

 ちなみに近縁種のシロワニも英名 sandtiger(サンドタイガー) shark(シャーク)。こちらは乱杭歯(らんぐいば)の悪人面に反して性質が大人しいためダイバーに人気のサメである(でもたま~に襲われる事故が起こるよ!なんせ3m越すサメだからね!)。


 そして冒頭で述べた通り、アオザメでない英名 blue(ブルー) shark(シャーク)というサメはちゃんと存在する。

 そのサメの和名は【ヨシキリザメ】。アオザメと比べほっそりとしなやかな体つきにきょろんと大きな目をした、やはり背面が青く美しいサメだ。気仙沼辺りでよく水揚げされ、練り物やフカヒレの材料として有名である。



 映画『ジョーズ』のおかげでサメといえばコレ、というくらい浸透しているのが【ホホジロザメ】。堂々とした体躯の圧倒的な重厚感とつぶらな黒い目とのギャップがたまらない、サメ界のスーパービッグネーム(ただし悪役(ヒール))だ。


 そういえば以前、サメに関する書籍で危うくホホジロザメに襲われそうになった日本人漁師の話を読んだ事がある。


『海底で潜水器漁(水上から空気を送り込むパイプがついた潜水服を装備し、海底に降りて貝類を掘る漁)をしていた所、背後からドン、と何者かに押された。振り向くと、野球ボールほどのサイズの真っ黒な目玉が、手を伸ばせば触れられる距離から自分をじっと見つめていた―――――』


 幸い、サメは鼻先で漁師を小突いただけで興味を失い去っていったとの事だが、背筋の凍るような話である。



 ホホジロザメの英名はwhite(ホワイト) shark(シャーク)。これは頬だけでなく腹一面が白いので納得がいく。しかしホワイトシャーク=白い鮫でシロザメと直訳すると、【シロザメ】というドチザメ科の別種のサメになる。

 体長は80cm~最大でも1mのひたすら地味なサメで、もちろんホホジロザメとは似ても似つかないし、言うほど白っぽくもない。


 シロザメの英名はspotless(スポットレス) smooth-hound(スムースハウンド)。これはよく似た別種の【ホシザメ】(英名starspotted(スタースポッテッド) smooth-hound(スムースハウンド))の背に白い斑点が散っているので、そちらと区別するためのスポットレス(星なし)だろう。スムースは滑らか、ハウンドは猟犬の種類。鋭い目付きや獲物を追う姿を短毛の猟犬になぞらえたのかもしれない。なかなか格好良い名前だ。



 ホホジロザメと共に『人食いザメ』として広く認知されているのが【イタチザメ】。最大で体長7mを越え、鼻先は尖っておらず平たい。体側には縞模様があるが老成魚では薄くなる。

 好奇心が強く悪食で知られる海の食いしん坊である。腹から車のナンバープレートやハト時計まで出てきた記録がある。


 人間は、何かに興味を引かれた際には「つつく」「持ち上げる」と手を使ったアクションを取る事ができる。しかし手も足もないサメの場合は対象に触れようと思ったら「体当たり」か「噛む」しか選択肢が無い。

 イタチザメはその好奇心の強さ故に案外浅い所までやって来て「これ何だろ、ちょっと齧ってみよ」と噛み付き、悪食故に「あ、食べられそうだし食べちゃお」で被害が深刻化する。サメに悪気は一切無い。


 イタチは英語でweaselだが、これまた単純思考で試しに検索欄にweasel(ウィーゼル) shark(シャーク)と打ち込むと、出てくるのは【ヒレトガリザメ】という耳慣れぬ名前のサメだ。東南アジアからインドに分布する体長1mほどのサメらしい。


 イタチザメの英名は、縞模様にちなんでtiger(タイガー) shark(シャーク)。なるほど、虎の持つ獰猛なイメージが人食いザメに相応しい。



 しかしここでまたタイガー()シャーク()を直訳して「トラザメ」にすると、全然違うサメになる。

【トラザメ】は日本全土の沿岸部に生息。黄土色と茶色の斑模様が微妙にトラっぽさを醸し出しているものの、全長50cmほどの小さな体で海底をのそのそと這い回るように移動する、大人しく可愛らしいサメだ。日本各地の水族館で展示されている。


 このトラザメ、英名でcat(キャット) shark(シャーク)という。



 キャット()シャーク()。そして和名【ネコザメ】といえば、そのサメらしからぬユーモラスなフォルムで知られる、トラザメとは全く関係ないサメである。

 目の上が猫耳のように隆起しており、貝や甲殻類を好んで食べる。およそサメのイメージとは駆け離れた独特の口吻で固い貝殻もバリボリ噛み砕く事からサザエワリとも呼ばれる。螺旋状に巻いたドリルのような形状の不思議な卵を産む。


 余談だが、ハコフグ帽子でおなじみの「さかなクン」がアクアショップで働いていた若かりし頃、店内の水槽で非売品として私的に飼っていたのがネコザメだった。昔観ていたTVチャンピオン「魚(つう)選手権」における選手紹介の思い出である。この企画で五連覇を成し遂げ殿堂入りした事が、現在のさかなクンの活躍に繋がるのだ。



 さて、日本人には猫耳に見えるこの頭部の出っ張りを、欧米人は「角」に見立てた。

 ネコザメは英名ではbullhead(ブルヘッド) shark(シャーク) あるいはhorn(ホーン) shark(シャーク)と呼ばれる。

 牡牛の頭にある(ホーン)。しかしホーンシャークをツノザメと和訳してしまうと、これまた全く無関係な【ツノザメ科】という深海鮫のグループが現れる。


 TVの「幻の深海魚を釣り上げる!」的な企画番組において雑魚(ザコ)扱いされているのを時々見掛ける体長1m前後のサメで、肝油の原料として知られる。

 代表格は【アブラツノザメ】や【フトツノザメ】だが、その英名はspiny(スパイニー) dogfish(ドッグフィッシュ)

 スパイニーとはトゲトゲしている事。トゲトゲ犬魚……どうやら英語では小型のサメ類をドックフィッシュと呼ぶようだ。同じ犬でもハウンドは格好良かったのになぁ。




案外長くなったので二回に分けます。

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