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第7話

6話と7話で1つだったんですけど、長くなったので分割しました。なのでちょっと短めです。

「チャンさん、そろそろ終わりにしましょう」


 あれからまた2時間ほど狩り続け、ひと段落ついたところで俺はチャンさんに声をかけた。


「あ、もう6時間経ったんだ? やっぱ6時間なんて一瞬だねえ」

「そ、そうですね……」


 一瞬、か……。

 6時間を一瞬と言えるほど、チャンさんはプレイしているんだろうか。それならこの強さも納得……はできないけど、理解ならできるかもしれない。

 それでも、開始前にプレイできてるってのはずるいと思うけど。


 6時間狩りを続け、俺のレベルは7から149に上がった。かなりの効率だと思う。

 他の人がどれくらいレベル上げしてるのか、というかそもそも何人がプレイしてるのかも知らないけど、まあまあ上位の方なんじゃないだろうか、と思う。まだ初日だし。


 ほんとはもっとプレイしたいけど明日は学校だ。これ以上は明日に響いてしまう。


「学校行ってる間に、他のプレイヤーに差をつけられちゃうかなあ……」


 そう考えるとほんとに学校行かずにLSをやりたくなったけど、自分のためにも親のためにもわがままは言ってられない。


「へー、サトウアキラって学校行ってたんだ。てことは結構お金持ち?」

「え? まあ、そうですね。大学に行ってます。まあそこそこのお金持ち……かもしれないです」


 最初会った時に言った気がしなくもないけど、まあ気にしない。


「チャンさんは学校とか仕事はあるんですか?」

「え? 学校なんて人間が行くところでしょ? それに仕事は……、まあ、しなくてもお金稼げちゃうし? それに今のこの状況じゃあ仕事なんてしたくてもできないし」


 少しリアルに踏み込んだ質問をすると、チャンさんはそう答えてケタケタと笑った。

 それにしても、人間が行くところ、ってなんだろう。まるでチャンさんが人間じゃないみたいな言い方だ。

 それに仕事しなくてもお金が入る、とか、仕事ができない状況とかって一体……。


「……なにか、仕事ができない事情があるんですか?」


 もう一歩、踏み込んでみる。

 不躾だっただろうか、迷惑だっただろうか、これで見限られたりしないだろうか、と色々と不安になった。

 しかしその不安も、どこからともなく湧いてくる異様な好奇心には勝てなかった。

 チーターのように強い彼女が、一体どんな人であるのか知りたかった。


「えー? だってここがどこかもわからないし? さっきの街でも仕事なんて募集してなかったし。だからまずは、知ってる場所に帰らなきゃだよねー」

「……ここって、だって、LSの中じゃないですか。この世界の中じゃ仕事ができないなんて当たり前です。僕は、僕が聞いてるのはリアルのことですよ」

「えるえす? リアル? ……えっと、ちょっとよくわかんないけど、とりあえず街に戻らない?」


 いつものようにそう言って、チャンさんははぐらかした。

 やっぱり答えなくなかったのだろうか。

 それでも、LSやリアルを知らない風にとぼけるのは少し無理があると思う。


「その前に! 教えてくださいよ、チャンさんの、リアルのこと。少しでもいいんで……」


 そんな、無理なはぐらかしに腹が立ってしまったのか、俺はつい大きな声を出してしまった。


「……リアルってなに?」

「とぼけないでください。リアルはリアルですよ。ゲームの中の世界じゃなくて、現実の世界のことです」

「ここは、現実じゃないの?」


 そう言ったチャンさんの声はいやに冷たくて、無機質で。チャンさんのやる気のなさそうだった応答に熱くなってしまっていた俺を、急激に冷ました。


「な、なに言ってるんですか? ここはゲームの中ですよ。3Dで映し出されただけの、ただの仮想空間です。バーチャルの世界です。現実とゲームの世界を混濁しちゃってるのは流石にまずいですよ」

「混濁……? ゲーム?すりーでぃー?仮想世界?ばーちゃる……? ほんとに、なに言ってるのかわからないんだけど」


 チャンさんの声が、どんどん弱くなっていく。気になって顔を上げても、チャンさんの顔色を伺うことはできなかった。

 気づけばあたりは暗くなっていて、こんな状況なのにお腹がすいた。


「……チャンさんの出身地って、どこですか?」

「……昔のことすぎて覚えてないよ」

「じゃあ、あの道で俺と出会う前は、どこにいたんですか?」


 コントローラーを握り締める手に、自然と力が入る。暖房のない冬の部屋で寒いはずなのに、嫌な汗が出てくる。


「……ケリントの街の、道具屋に入ったところまでは覚えてる。けど入った瞬間光に包まれて、気づいたらあそこにいた」

「ケリントって、どこですか?どこの国の街なんですか?」

「えっと、たしか……。セントビア王国、だったかな?」


 チャンの口から出てくるのは日本語で、俺の耳に届く言葉もちゃんと日本語。なのに、俺の頭はそれを理解することができなかった。

 セントビア王国。

 彼女の口から出た国は、日本ではなく、そもそも地球上に存在すらしていない。世界史の本で見たことも、人から聞いたこともない国の名前だった。

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