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第6話

 森を抜け少し歩くと、ようやく次の街が見えてきた。

 もうあんな森の中なんて通りたくないけど、サトウアキラが言うにはここら辺はしっかりした道よりも、ああいった森のほうが多いらしい。いつの間にか私は地獄に落ちていたみたいだ。


 地図には「リアネ」と書かれていた。どうやらリアネという名前の街のようだ。

 先ほどまでいた街――リアナ街によく似た、というか同じといっても過言ではないような名前だが、それだけでなく町の中までもが同じ様な感じだった。

 家の壁の色と、道幅と、その道の形が若干違う程度。町が纏う雰囲気や規模なんかは全く同じように感じられた。


「なんか……さっきの街と全然変わらなくない?」

「そうですね、でも品揃えや街周辺の敵なんかは全く違いますよ。こっちのほうが何もかも上です」

「そ、そうなんだ……。あ、じゃあ食べ物も違ったりするの?」


 先ほど味わった苦い思いはもうしたくない、という期待を込めて私はサトウアキラに尋ねた。


「はい、こっちのほうがバリエーションも豊富で、得られるばバフの効果も高いです。せっかくなんで何か食べてから狩りに行きましょうか」

「え、さっき食べた来たって言ってなかった?」


 まあでも、森の中はかなり地面が荒れていて歩きにくかったから体力を取られたのかもしれない。


「いや、それはリアルの話で、こっちではまだ食べたこと無いですよ」

「……りある?」


 リアル、かな? たしか別の国の言葉で現実とかそのまんま、みたいな意味だった気がするけど。


「じゃあ、こっちってどっち?」

「え? だから、Liberty Storyの中ってことですよ」

「りばてぃーすとーりー?」

「はは、チャンさん、流石にそれは無理がありますって。そもそも僕はチャンさんが初心者騙りをしてるって分かっちゃってるんですよ?」


 流石に無理があるってどう無理があるんだろうか。それに前も言ってたけど初心者かたりってなに。

 たしかにここら辺の土地は初心者かもだけど、これでも私あなたの何百倍も生きてるんですよ!


「……まあいいや。とりあえずご飯で」


 私は町の中央にあるギルドへと向けて、トボトボと歩き出した。




 やはり匂いがしない。

 サトウアキラが払ってくれるっていうから1番高いお肉を頼んでみたけど、やっぱり焼く音はするのに匂いは感じられない。

 いや、もしかしたら無臭にする秘密の道具なんかを使ってるのかもしれない。まだ諦めるのは早いだろう。


「……味が……しない……」


 なんて、そんな期待も容赦なく打ち砕かれ。

 味のしないステーキの食感のある空気の様な固まりを何も考えずに咀嚼した。噛むたびに口の中に広がる味のない脂がより一層その気持ち悪さを惹き立てている。


「それにしてもチャンさん、それどんなモーションですか?」

「はい?」


 よく分からない言葉を使われたのと、味のない食事に絶望してたのとでガラの悪い返事になってしまった。


「あ、いえ……。その、どうやってものを食べる動きをしてるのかなーと」

「え……。いまサトウアキラもやってるじゃん……。なに、急にそんな質問してどうしたの?」

「あ、いえ、なんでもないです」


「やっぱり企業秘密か……」と小さく呟いて、サトウアキラは食事を再開した。

 なにが秘密なのかわからないけど、とりあえず私もお肉もどきをお腹へと流し込んだ。味もないのにお腹が膨れる嫌な感覚は、私が街を出るまで続いた。



「それで、レベリングって一体なにするの?」


 サトウアキラに連れられて街を出た私は、彼に尋ねた。


「ただひたすらにモンスターを狩りまくって、自分のレベルを上げるんです」

「ひたすらって、どれくらい?」

「そうですね……今が14時くらいなので、最低でも6時間はやりたいです」

「6時間……?」


 数で決まるのかと思ったらなんと時間だった。それもなかなかに長い。まあ、私が生きてきた時間に比べれば瞬くような時間ではあるけど。


「あ、短かったですか? けど明日は大学行かなきゃならないので、伸ばすのはちょっと厳しいんです……」

「いや全然、伸ばさなくていいよ」


 それ以上長くされたら溜まったもんじゃない。


「じゃあ私はその間、そこらへんでくつろいどくね」

「えっ? チャンさんも一緒に狩らないんですか?」

「……狩ったって意味ないし、お腹すくだけだしめんどくさいし……」

「そ、そうですよね。チャンさんくらいのレベルになるともうレべリングなんて必要ないですもんね」


 そう言ってサトウアキラは肩を落とした。

 わざとなのか素なのかは知らないけど、人間のこういうところがいやだ。落ち込んで、同情を誘って頼みを聞き入れてもらおうとするなんて、ほんとに卑怯だ。


「わかった、わかったよ! 1時間だけ一緒にしてあげるから!」

「ほんとですか! ありがとうございます! じゃあ早速いきましょう!」


 さっきまでの態度が嘘だったかのように、意気揚々と歩き出した。

 はぁ、と私は大きなため息をひとつついて、彼の後ろについて行った。




 かれこれ4時間が経った。1時間しか手伝ってくれないと言っていたけど、まだ一緒に狩ってくれている。ありがたいことだ。

 しかし今は、そんなことはどうでもいい。いや、どうでもよくはないけど。

 狩りを始めて4時間、俺は5つのポーションを使った。HPポーションを4つと、MPポーションを1つ。

 そして彼女――チャンさんが使ったポーションは、なんと未だ0。HPだけでなく、MPポーションまで使っていない。異常なことだ。

 彼女は魔法職のため、MPの消費量は半端ではないはず。それなのに、まだ1つも使っていない。

 剣使いの俺でさえ、技発動による細かなMP消費で1度使ったというのに。


「チャンさん、ポーション使わないんですか?」

「ポーション? 聞いたことないけどそんなのいらないよ!」


 なんて会話をしながらも、魔法で敵を倒しているチャンさん。

 決して大きな魔法じゃないけど、それでも威力は高くワンパンだ。俺の剣でもまだワンパンはできないのに、そんな威力の魔法を4時間。


「MP残量は大丈夫なんですか? ずっと魔法で1回も休んでないみたいですけど」

「別に、魔法なんて使ったところで疲れるようなもんじゃないでしょ?」


 なんて軽く受け流しながら、今度はかなり大きい魔法で5体の敵を一掃した。四足歩行の犬のようなモンスターで素早いため剣が当たりにくくいため、1体を倒すのにも俺はそこそこな時間がかかってるっていうのに。


「チートすぎませんか?」

「は? ちーと? なにそれ?」

「……もういいです」


 どうやら取り合う気もないようだった。

 俺は考えることをやめて、ボタンを押す指の疲れすらも忘れて、ただひたすらに剣を振った。

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