第5話
カップ麺が出来上がるのを待ちながら、俺はLSのことを考えていた。
あの美少女――チャンのことだ。LSの運営の偉い人が初心者を騙ってプレイしてると思ってたけど、実際はどうなんだろうか。
「絶対にただのプレイヤーじゃあないんだよなあ」
カメラ向けてもカーソル出ないし。
それと、最初からよく分からない発言、例えばあの街道で迷った発言だったり、職業についてとぼける発言だったり、そういうのがよくあった。
それに加えて、あのばかげた威力の炎魔法だ。正直、魔法職は1回も触ったことがないので噂で聞いた程度でしか分からないけど、魔法はレベルに合わせて解放されるらしい。だからあれ程の威力の魔法は、きっとかなり高レベルにならなければ解放されないはずだ。
あと、コマンドの入力の早さもチート並みだ。俺が走り出して剣を振るまでの間、いや、走り出してすぐの頃にはもう彼女は魔法を放っていた。はっきり言って、その早さは異常だ。
ベータテスターで魔法職だった知り合いはいない――というか、そもそも知り合いがほとんどいないけど――ため、実際どれくらい難しいのか分からないけど。でもあれはおかしい。
剣を振るだけの、1秒もかからないコマンドよりも魔法を放つコマンドの方が早いなんて、ゲームバランス崩壊まっしぐらだ。魔法職の独断場となってしまう。
けどLSに限ってそんな柔な設定なんてしないだろうから、やっぱり彼女がおかしいんだろう。
そんなこんなで彼女のことをいろいろ考えてるうちに3分が経った。
蓋を開けて、少しかき混ぜていただきます。
最近はお金を節約するために自炊をしていたので、久しぶりのカップ麺だ。
毎日だと飽きるだろうけど、久しぶりに食べるカップ麺は美味しかった。インスタントな味のするスープまで飲みきって、ゲームを再開する前にトイレへと向かった。
ぶっ通しでゲームをやるためには、しっかりとした準備もまた必要不可欠なのだ。
彼女のことは、これから一緒にプレイしていく中でおいおい知っていこうと決めた。それに、強い人と一緒にやることにデメリットはない。むしろメリットしかない。
彼女が自分のことをどう思ってるのかは知らないけど、一緒にいる間は彼女のことを利用させてもらおう。
とりあえず今日は、街周辺でモンスターを狩ってレベリングをしようと予定をたて、ヘッドセットを装着した。
ギルドに着くと、チャン以外にも既に何人かのプレイヤーが到着していた。既にサービス開始から3時間が経とうとしている。あと1時間もすればかなり多くのプレイヤーがこの街に来るかもしれない。
そんな中、ちゃんは隅っこのテーブル席に1人腰掛けていた。近寄ってみると、なんとなく怒っているような、そんな感じがした。
「お待たせしました、チャンさん」
「うん」
いつになく、返事が素っ気なかった。いや、出会ったからまだ1時間ちょっとしか経ってないし、いつになくなんて言えるほど会話したわけじゃないけど。
「あれ、なんか怒ってますか?」
「怒ってない」
「いや、絶対怒ってますよね」とは言わずに、黙ってチャンさんの向かいの席へと腰掛けた。触らぬ神にはほにゃらららって言うしね。
「あの、チャンさん。実はこの街周辺でレベリングしたいって思ってたんですけど、思ってたより人が来るの早そうなんで、次の街でやることにしたいんですけどいいですか?」
「……えと、私ここら辺あんま詳しくないからサトウアキラに任せるね」
あまり詳しくないのはまだ始まったばかりだし皆同じでは……? とは思ったものの、これまた口に出すことはない。触らぬ神に以下略。
いや、そういえば彼女は中の人間だ。ここら辺あまり詳しくない発言は初心者騙りの一環だろう。
しかし、それを俺に任せるってことは俺が詳しいことを知っている。イコール、俺がベータテスターだと見抜いていると言うことか……? 別に、隠してるわけじゃないけど、彼女に見抜かれるとは思ってもいなかった。
「了解です、じゃあ次の街まで行っちゃいましょうか」
まあ、そんなことはどうでもいいか。
俺がベータテスターを隠してる――隠して何かあるわけじゃないけど――ように、彼女も中の人だってことを隠してる。同じような条件ってことでここは一旦スルーしておこう。
そして俺はチャンと一緒にギルドを出た。
次の街までの道は、さっきまでのような街道じゃない。というか、道と言えるものはないに等しい。
森の中を通って、木と木の間を抜けていく感じだ。ちゃんと整備された道なんてものはなく、どこから敵が襲ってくるのかもわからない。もしかしたら強い敵が突然飛び出してきて一撃でやられる、なんてことももしかしたらあるかもしれない。
ここは駆け出しプレイヤーの最初の難所となるような、そんな場所だ。だから俺も、気を引き締めて臨もうと思っていた、のだけど。
「いやー!!! もうまじ無理! やめて! やめてー!!!!!」
俺のキャラに掴まり、涙目になりながら大声で叫ぶ美少女魔法使い。
それだけなら、側から見れば可愛いものとして目に写るかもしれないけど、彼女は泣き叫びながら強力な魔法を連発するのだ。
いや、いったいどんな手さばきなんだろう。どれだけやり込んだらこんなに早く魔法を連発できるんだろう。今何レベルでMPはどれくらいあるんだろう。
って、そんなことより。
「ちょ、やめ、俺に! 俺に当たってるから! ちょ、まじで!」
それが敵だけに当たるならまだしも、その余波が俺にまで飛んでくるのだから堪ったもんじゃない。
「ちょ、死ぬ! 死ぬううぅぅ!!!」
ここはPKゾーン――所謂、プレイヤーがプレイヤーを攻撃できる場所なので、たとえ意図せず与えてしまったダメージでも普通に死んでしまう。
死んだところで、コイン系アイテムとレベルが10%喪失するだけだから大きな痛手になるわけではない。けど、ここまで戻ってくるのと再び彼女と合流するのが非常に面倒なのだ。
「ちょ、まじで! まじでやめ!」
そう言って俺は彼女の腕を掴んだ。
「ひっ! な、なんだよサトウアキラかよ! ビックリさせないでよ!」
「いやいや、さっきまで自分が何に掴まってたか覚えてますか?」
「それで、なに? いきなり腕掴んできて」
さっきまで泣き喚いていたのがまるで嘘のように、あっけらかんとしている。
「え、ちょっとまって、なんでいきなりそんなに冷静っぽくなるの? さっきまで泣いて叫んで魔法ぶっ放してたよね?」
俺はそう言いながら、地図と一緒に買っておいた回復ポーションを使う。赤かったHPゲージが段々と青に染まっていく。
「まあ、うん、私森が嫌いなんだよね」
「んなこと知るかあぁぁああ! もういい、俺は先に行ってるから後から魔法ぶっ放しながらついてきて。絶対に! 俺に当たるなよ!」
そう言って俺は歩き出した。
そしてそれから、10秒ほど経った時、突然大爆発が起こった。
「うおっ! な、なんだ!?」
ポーションのおかげでMAXになりかけていたHPバーが一瞬にして吹き飛び真っ赤になる。振り向いてみれば、その爆心地にはポツンと彼女が1人立っている。
そして彼女の周りには、彼女を中心としたクレーターが形成されていて、地面は黒く焦げさっきまであった木々はいつのまにか消えていた。
「は……? ちょ、おま――」
「サトウアキラ! なんで先に行くの!? 仲良くするんじゃないの!? なんでこんなところに私1人を置いてくのさ!」
涙目になりながら、彼女は言った。というかその涙目ってどうやってるの?
んまあ、そんなことは今はどうでもよくて。
「だ、だってチャンさんがなんか面倒なこと言ってたんで……」
「面倒ってなにさ!」
「はい! ごめんなさいでした! じゃあ、はい! 一緒に行きましょうか!」
元々背丈が子供みたいだったし、声も幼い感じがしていて、それに加えてあんな風にぐずっていたから忘れかけてたけど、彼女はLSの中の人なのだ。怒らせたらまずいだろう。
俺は瞬時に立場を低くして謝罪をした。これからも何かと厄介にならせていただくには、相手の機嫌をとって気に入られるのが1番だ。のはずだ。
「うん、それじゃあ案内よろしく」
無事に機嫌を直してくれたようで、ひとまずホッとした。
そして俺はチャンと2人並んで歩き始めた。そういえばギルドの時はなんで怒ってたんだろうって思い出したけど、もちろん今聞くなんて馬鹿なことはしなかった。触らぬ以下略。時と場合って大事だよね。
それから約1時間森の中を歩いて、ようやく俺たちは次の街へとたどり着いた。その間、出てくるモンスターは全てチャンが魔法で倒してしまった。
それでめちゃくちゃ魔法使うのにMP切れの素振りが全く無かったものだから、まじでいったい何レベなんだろうって気になった。けど、なんとなく機嫌を損ねそうだったから聞くことはなかった。
触らぬ神には祟りなし、って言うしね。