第2話
いつの間にか、よく分からない場所にいた。
そんな私は、とりあえず辺りを散策してみることにした。
歩いてみると、かなり早くに森を見つけた。森に入るのは嫌なので森沿いに歩いてみると、ここは円形状の草原になっていることがわかった。ここから出て別の場所に行くにはこの森に入るしかないらしい。
うーん、森に入るのは嫌だけど、森に入らないとここから別の場所へと行けない……。
悩みに悩んだ結果、私は一つの結論に達した。
そうだ、飛べばいいんだ。
そういえば私には魔法があるってことをすっかり忘れていた。魔法があれば、結構なんでも解決できる。
意識を集中させて、大気中に漂うふわふわしたものを操り、私が吹き飛ばない程度に浮くことができるような風を起こす。
実はこれ、意外と難しいのだ。強すぎると吹き飛んじゃうし、弱すぎると浮くことができない。まあ、長年の経験がある私にとっては、おさのこちょいちょいだけど。
「お、おぉ〜。久しぶりだからできるか分からなかったけど、案外できる」
誰に話しかけるでもなく1人ぼやく。
文字通り風にのって辺りを飛んでみると、一本の大きな道に出た。かなり整備されていて、非常に歩きやすい。
少し歩いていると、森の中から1匹の豚のような動物が出てきた。
豚のような動物、といっても豚の2倍くらい大きいし、色が黒く禍々しい。
「何この子……可愛くなさすぎる」
そして本当に不細工だ。
目は小さいくせに鼻はやたらとデカく、体格的にはこんなものかって感じの口からはこれでもかというくらいに大きな牙が二本出ている。
そして全体的に顔が潰れている感じがするのだ。初めて見る謎の動物に、恐怖やら好奇心の前にまず嫌悪感を感じてしまった。
すると、豚のようななにかが私へと突進してきた。私の言葉や思いが通じてしまったのだろうか。
「ちょ、あっちいって!」
そう言って私は豚を右手ではたいた。パチン、といい音がして、豚は左のほうへと飛んでいき木にぶつかった。
豚はなんとか立とうとしたようだが、脳震盪のせいか、もしくは内臓に傷がついたせいで足は震えるばかりで立つことはできず、その場に倒れた。
「いったーい!!」
突然、右手が焼けるように傷んだため思わず叫んでしまった。手を見てみると、先程豚をたたいた手が赤く腫れていた。
理由はわからないが、どうやらあの豚を触ったために火傷してしまったようだ。
「ちょっと! 何するのさ!」
そう言ってもう1発、棒かなんかで叩いてやろうとして豚が飛んでった方に行ってみたけど、豚の姿は見当たらなかった。
けど、豚は確かにここで倒れたし、動ける様子ではなかった。
あれ? と辺りを見回してみると、不意に地面に何か光るものを見つけた。
「これは……?」
左手で拾ってみると、なにやらピカピカした丸くて平たい石のようなものだった。中にはなにやら模様が描かれてるけど、なんなのかは全く分からない。
「なんぞこれ? 食べ物ではなさそうだな」
そう言いながら齧ってみるけど、固すぎて食べられそうもない。本当になんだこれ……。蹲ったままなんなのかと考えていたところ
「あのー……、大丈夫ですか?」
不意に声にかけられた。
振り向いてみれば、いつのまにか人間の男が近くへと来ていたようだ。豚からでてきた変なのに夢中で気がつかなかった。
「はい、大丈夫ですけど、あなただれですか?」
黒髪黒目の、非常に若い青年だった。
彼はしばらくの間、魂が抜けてしまったかのようにぼーっとしていた。
言葉が通じなかったのだろうか?
でも彼の口からは最近私がよく使っていた言語が出てきてたはずだし、私の言葉が間違ってるわけでもないと思うけど。
「あのー、すみません」
再び話しかけてみる。
帰るには、この男とコミュニケーションを取って現在地を確認しなければならない。
……まあ、実際は帰る場所なんてないんだけど。ただ、まだあのおばさんの焼くお肉を食べたいから戻りたいだけだ。
その後のことは、またその時になったら考えればいい。未来のことは未来の自分に任せる主義なのだ。
「……はっ! はい! 俺はアキラって言います! あ、これはゲームの中の名前で、本名は佐藤晶っていいます! 大学1年の19歳で静岡在住、彼女なし、親の仕送りで一人暮らししてます! あ、でもゲーム買うお金は自分で稼ぎました!」
突然、さっきまで微動だにしなかった彼が、まるで魂を吹き込まれた機械人形のように話し始めた。
「それで、自分は次の街に行くために歩いてたんですけど、貴方の声が少し聞こえてここまできたら、蹲ってるのが見えて、それで声をかけた次第です! あの、あなたプロですよね! こんなに進むの早いのにそんなにキャラが美しいなんて、ほんと一種の才能ですよね! それでよかったら是非フレンドになってほしいです!」
本当に機械人形なんじゃないかと疑うほどの饒舌ぶりだ。全然息継ぎしないし、今の人間はこんなに喋れるのか、なんて少し感心した。
ところどころ意味の分からないところもあったし、別の言語が使われてるところもあったけど。要約すればこいつはサトウアキラ19歳で次の街へ向かってる途中、私と仲良くなりたいってことだろう。
記憶力には自信があるので間違ってはいないはずだ。
「えーと、サトウアキラだっけ? 私ちょっと迷っちゃっててさ。ここがどこだか教えてくれない?」
「ここで迷った……? あ、いえ! なんでもないです! なら次の街まで一緒に行きませんか? 街に行けば多分地図も売ってると思うんで」
「おお、地図があるんだ。じゃあそこまで案内お願いしようかな」
地図があれば、多分なんとかなると思う。
一応、全部の国を旅したことあるし、もし変わってなければ、地形を見ればなんとなくわかると思う。記憶力には自信があるし。
私がそう返事すると、彼は嬉しそうに笑った。
「はい! じゃあ、行きましょう! ……それで、あの、フレンドになってもらえませんか? あと名前も教えてもらいたいです……」
「あ、そうだね、名前ね……。ああ、最近よくしてもらってたおばさんには、嬢ちゃんって呼ばれてたよ」
生憎、私は名前がない。
嬢ちゃんってのは多分名前じゃなくて、私のような姿の者のことをそう呼ぶだけなのだろうけど。彼には悪いけど、彼にもそう呼んでもらうしかない。
「じょうちゃん……? ……ああ、ジョーチャンってことですか? てことはまさかの中国人!? 日本語上手すぎるでしょ……じゃなくて、じゃあチャンって呼ばせてもらいますね!」
「え、チャン……? まあ、いいけど……。それで、フレンドってたしか仲のいい人って意味だよね」
「え? まあ、英語だと友達って意味ですね」
英語ってのはよく分からないけど、まあ友達になるくらいならいいだろう。人間で友達になりたいなんて言う人は初めて見たし、面白そうだ。
「うん、いいよ、なってあげる。これから仲良くしていこうね」
「……え? うん、そうだね……?」
よく分からないけど、サトウアキラはなんだか残念そうな顔をしていた。友達になろうとしてやってるのに何が不満なのか。……まあいいか、そのうち聞けば。
そして私は、地図を手に入れるために次の街へと向けて歩き出した。
「ちょ、ちょっと待ってくださいチャンさん! そっちは逆ですって!」
そして私は、地図を手に入れるために次の街へと向けて歩き出した。
主従百合か共依存百合にしたいです。