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かえらない  作者: 森永盛夏
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第六話

 暮太のおばあちゃんを見返す。正直俺にも何をすればいいのかはわからない。それでも、俺はむかついた。見返してやりたいと思った。自分の中にふつふつと熱いものが湧き上がってくる感覚は久しぶりだった。

「え、天乃くんは情報の出どころが知りたいんじゃなかったの?」

「そうだった。まずはそこからだ。そんで、暮太さんの話がもっと聞きたい。」

勢いが先行して、頭が回っていなかったみたいだ。これじゃあまるで暮太みたいじゃないかと反省する。そこへ、おそらく自分用の水とその他にお茶を二本持った高嶋が帰ってきた。俺の雅呼び作戦はあまり効果を持たなかったようで、なんともないような顔をしていた。

「ほい、竜也飲むだろ。暮太さんもどうぞ。」

ペットボトルのお茶を俺には投げつけて、暮太には優しく手渡した。しかし俺はこの無礼を嫌には思わない。むしろ、高嶋なりの友好の印だと知っているからだ。俺と暮太はほとんど反射でありがとうと言った。

「どうした二人、この短時間で何があったん?」

暮太の頬をつたう涙の跡と、ギラギラ光っている俺の目を見て異変を感じ取った高嶋は、心配そうに二人を見た。


 三人は、場所をキャンパス最寄りのカフェに移した。冬なのにテラス席に誘導されたのは、高嶋が喫煙席をご所望したからだ。高嶋のこういう自分を通すというか、我が強いというか、空気が読めるのにあえて外してくる、そんな性格が厄介だと思う。嬉しいときはすごく嬉しいのだが、嫌なときはほんとにこいつごと嫌いになりそうになる。今回はもちろん後者だ。

「さっむいなあ今年の冬は。」

自分でテラス席になるように誘導したくせにこんなのんきなことを言われるとなおさら腹が立つ。

「本題に移ろう。まずは、俺の情報を何処から持ってきたか。暮太さん教えてくれ。」

話を前に進めていかないと永遠とこの寒い場所に座っていなければならない。それは嫌だ。俺は暮太の方を見て切り出した。

「うん、手っ取り早く言うとおばあちゃんが大切に持っていたこのパンフレットなんだけど。」

そう言うと暮太は、がさごそとバックから何か紙切れを取り出した。それは、俺にとってとても懐かしい茶色をしていた。

 どんぐりと山猫、そう大きく書かれたパンフレットの下の方に、『一郎役、天乃竜也』と書かれていた。それを見た高嶋は口を大きく開けてわざとらしく驚いた。

「え、竜也本当に演劇やったことあったの?なんで言わねえんだよ。」

「高嶋も自分が演劇部だったって教えてくれてなかったじゃねえかよ、おあいこだよ。」

俺と高嶋のやり取りを不安そうに見ていた暮太は、こう続けた。

「これをおばあちゃんに見せてもらったときに知ったの。写真はついてなかったけど、天乃なんて名字ここらへんじゃそうないから。それに竜也だし。」

俺の目を一途に見続けて語る暮太。俺は、もう観念してすべて話すしかないと悟った。

「まさかそんなものとっておいてる人がいるなんてな。これ見せられたら白状するしかないのか。」


 「どんぐりと山猫って何?」

そんな疑問を浮かべた小学三年生の俺の目の前に立つ清美さん。安藤先生によって、その正体は明かされた。今回の演劇公演の脚本演出を担当するということだった。清美さんは、よろしくね。と言って笑ったが、その笑顔は安藤先生とは対照的で、当時の俺にどこかキツイ印象を与えた。

 それから何度かあのダンススタジオに通った。ダンスの基礎みたいなことを学んだり、体を柔らかくするストレッチをしたりした。なんでも、安藤先生は普段子どもたちにダンスを教えているらしかった。ワークショップの常連の女子たちも、そのダンススクールの生徒なのだと後から知った。どうやらその数回で、誰にどんな役を与えるのか選定されているようだった。その証拠に、いつも部屋の後ろの方では清美さんが目を光らせていた。

「みんな集合!」

安藤先生がいつものようにそう言った。場所も声色もいつもと一緒なのに参加者みんながやけに警戒したのは、いつもと違って清美さんが安藤先生の隣に立っていたからだった。

「そろそろ役を決めなきゃね。」

清美さんは、見覚えのあるキツイ笑顔でそう言った。


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