第二十六話
カフェに着くと、高嶋がテラス席で待っていた。この前は俺と暮太が待ちを食らっていたから、高嶋は今日も遅れてくるだろうと予想していたのだけれど。
「よお。なんだ、今日はナツさんと一緒じゃないのか。」
調子のいいときの高嶋は、挨拶より先にこんなことを言う。
「雅ちゃんは今日は珍しく早起きなんじゃない?」
こんな時は、俺も負けじと言い返す。高嶋は俺の言葉を無視して、コーヒーをすすった。
テラス席に座り、高嶋と向かい合う。暮太からは
『おはよう!』
とメッセージが来ていたので、寝坊ではないはずだ。遅刻であることに変わりないけどな。スマホをズボンのポケットにしまいながら思う。
「そう言えばさ、ナツさんって高校時代演劇部って言ってたよな。」
手持ち無沙汰そうな高嶋が、俺に話しかける。
「ん?ああ、そういえばそんな話だったよね。」
「見てみたいな。あの子がどんな演技するのか。」
「これから見れるんだから良いんじゃね?てか、雅ちゃん最近タバコ吸ってないみたいだけど辞めたの?」
適当に話をスルーして、気になっていたことを聞いてみた。
「いや?そういうわけじゃないけど…。吸う気分にならないんだよね、最近。」
「そういうもんなの?」
「そういうもんなの。」
タバコの話が終わった後も、いくつかの話題を転々としながら三十分程話し込んだ。どれも他愛もない、適当に選ばれた話題たちだった。
「おまたせしました!ほんとごめん!」
俺たち二人の目の前を走り抜ける小柄な女の子は、受付を済ませると抹茶フラペチーノを持って小走りでテラス席まで出てきてこう言った。別にいいって。俺がそう言おうとすると、高嶋が
「本当に申し訳ないと思ってるのなら!ナツさんの高校時代の演技知りたいな!」
さっき言っていたことを実行に移す気のようだ。
「ええ~。そんなの恥ずかしいよ~。」
暮太は、本当に恥ずかしそうに頭をなでている。
「そんなことより、雅くんが呼び出したんでしょう!どんぐりと山猫のあらすじ?みたいなのどうするかって。」
本当に自分の高校時代を知られたくないんだな。でも、この三人の中で一番不透明なのは暮太だ。過去が気にならないと言えば嘘になる。思えば、おばあちゃんのことしか知らない。
「そのことなんだけどね、主人公の一郎くんの未来のお話にしようかと思ってるのよ。その後、みたいな。」
「へえ、面白そう!」
暮太はおおげさに驚いてみせた。
「ま、そこから具体的にどうするかまでは決まってないから。みんなを集めても無駄っちゃ無駄なんだけどね。だから今日はお前らと過ごしてなんかアイデア浮かばないかな~っつって。」
高嶋は甘ったるそうなコーヒーをすすって空を見上げた。
無言の時間が続いた。三人はただコーヒーをすすって過ごした。どれくらい時間が経っただろう。暮太はバイトに行く、と言って帰っていった。
「なあ、竜也。」
俺と二人になると、それを待っていたかのように高嶋は話しだした。
「実は、だいたいどんな話にするのかはもう決まってるんだけど、暮太だけどの役にするのか決まってないんだよね。」
一番意欲が高い暮太の配役に悩んでいる。それは、高嶋にしては割と繊細な悩みだった。
「役?それだけ言われてもなあ。とりあえずどんな話なのか教えてくれないと。」
「しゃあねえなあ…」
高嶋と俺はそれから数時間話し合った。




