表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かえらない  作者: 森永盛夏
27/28

第二十六話

 カフェに着くと、高嶋がテラス席で待っていた。この前は俺と暮太が待ちを食らっていたから、高嶋は今日も遅れてくるだろうと予想していたのだけれど。

「よお。なんだ、今日はナツさんと一緒じゃないのか。」

調子のいいときの高嶋は、挨拶より先にこんなことを言う。

「雅ちゃんは今日は珍しく早起きなんじゃない?」

こんな時は、俺も負けじと言い返す。高嶋は俺の言葉を無視して、コーヒーをすすった。


 テラス席に座り、高嶋と向かい合う。暮太からは

『おはよう!』

とメッセージが来ていたので、寝坊ではないはずだ。遅刻であることに変わりないけどな。スマホをズボンのポケットにしまいながら思う。

「そう言えばさ、ナツさんって高校時代演劇部って言ってたよな。」

手持ち無沙汰そうな高嶋が、俺に話しかける。

「ん?ああ、そういえばそんな話だったよね。」

「見てみたいな。あの子がどんな演技するのか。」

「これから見れるんだから良いんじゃね?てか、雅ちゃん最近タバコ吸ってないみたいだけど辞めたの?」

適当に話をスルーして、気になっていたことを聞いてみた。

「いや?そういうわけじゃないけど…。吸う気分にならないんだよね、最近。」

「そういうもんなの?」

「そういうもんなの。」


 タバコの話が終わった後も、いくつかの話題を転々としながら三十分程話し込んだ。どれも他愛もない、適当に選ばれた話題たちだった。

「おまたせしました!ほんとごめん!」

俺たち二人の目の前を走り抜ける小柄な女の子は、受付を済ませると抹茶フラペチーノを持って小走りでテラス席まで出てきてこう言った。別にいいって。俺がそう言おうとすると、高嶋が

「本当に申し訳ないと思ってるのなら!ナツさんの高校時代の演技知りたいな!」

さっき言っていたことを実行に移す気のようだ。

「ええ~。そんなの恥ずかしいよ~。」

暮太は、本当に恥ずかしそうに頭をなでている。

「そんなことより、雅くんが呼び出したんでしょう!どんぐりと山猫のあらすじ?みたいなのどうするかって。」

本当に自分の高校時代を知られたくないんだな。でも、この三人の中で一番不透明なのは暮太だ。過去が気にならないと言えば嘘になる。思えば、おばあちゃんのことしか知らない。

「そのことなんだけどね、主人公の一郎くんの未来のお話にしようかと思ってるのよ。その後、みたいな。」

「へえ、面白そう!」

暮太はおおげさに驚いてみせた。

「ま、そこから具体的にどうするかまでは決まってないから。みんなを集めても無駄っちゃ無駄なんだけどね。だから今日はお前らと過ごしてなんかアイデア浮かばないかな~っつって。」

高嶋は甘ったるそうなコーヒーをすすって空を見上げた。


 無言の時間が続いた。三人はただコーヒーをすすって過ごした。どれくらい時間が経っただろう。暮太はバイトに行く、と言って帰っていった。

「なあ、竜也。」

俺と二人になると、それを待っていたかのように高嶋は話しだした。

「実は、だいたいどんな話にするのかはもう決まってるんだけど、暮太だけどの役にするのか決まってないんだよね。」

一番意欲が高い暮太の配役に悩んでいる。それは、高嶋にしては割と繊細な悩みだった。

「役?それだけ言われてもなあ。とりあえずどんな話なのか教えてくれないと。」

「しゃあねえなあ…」

高嶋と俺はそれから数時間話し合った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ