第二十五話
その後、SNSで『劇団USB』というグループを作ってから解散した。なんだか、俺は劇団を始めたんだという実感のようなものが湧いてきた瞬間だった。
『とにかく、真狐ちゃんもやってくれるっていう体で話を書き始めるよ。それで信じて待っている他ない。』
高嶋のこのメッセージがグループの産声だった。じゃあ、萩野がやらないって言ったらどうするんだとか、まず書けんのかとかいろいろ思うところはあったが、高嶋の文字からは強い決意が感じられたので何も言わずに
『既読』
と返した。暮太は、笑っている女の子のスタンプを送っていた。どうやらツボに入ったようで嬉しかった。
もうすっかり夜になって、星がちらちら輝いている。風呂に入り夕飯を食べ、本を何ページかめくってからすぐに寝床についた。ぐっすりと眠れる気がしていた。
程なくして、安藤先生から連絡があった。
「もしもし、竜也くん?真狐ちゃんのことなんだけどね、OKだってさ。私以上に上手に山猫を演じれる人なんて居ないですもんね。だってよ。」
スマホの向こうで先生は笑っていた。俺も声を出さないように気を使いながら少し笑った。
「そうですか。ありがとうございます。真狐ちゃんにも、そう伝えてください。あ、あと真狐ちゃんの連絡先教えていただけると嬉しいんですけど…。」
素直に感謝の意を述べてから、萩野をいきなりグループに入れて脅かしてやろうという企みのもと連絡先を聞いてみる。
「あら、そういうことは自分で言ったほうが良いんじゃないの?またみんなで集まればいいじゃない。」
先生が何か勘違いをしているような気がしなくもないが、それ以上何も考えずに、そうですね。と返した。劇団のメンバーにもこのことを伝えてからまたお電話します。と言って電話を終えた。
『萩野真狐、山猫やってくれるって。』
俺からのメッセージに、高嶋は
『既読』
と返し、暮太は
『二回目はあんまり面白くないね。』
と返してくれた。とにかく、二人が喜んでいる様子は伝わってきた。
俺は、今後の予定についてタイピングしながら考える。こうやって画面越しに、音もなくただ無機質な文字が統一されたフォントで行き来するだけなのに、どうしてこんなにも感情が伝わるんだろう。相手が喜んでいたり、悲しんでいたり、怒っていたりするのが、手に取るようにわかる。この能力は、俺にだけ備わっているのではではないはずだ。現代っ子。つまり、スマホが若い頃から手元にあって長い時間友人や恋人と連絡を取り合っている僕たちみんなが持っている能力のはずだ。あるいは、送る側が感情を込める技術を会得しているのかもしれない。
『安藤先生が、とりあえずまたみんなで集まったら?って言ってたんだよね。だから、とりあえず高嶋が軽く話の筋を書き終えたあたりで集まったら良いと思うんだけど、どうだろう?』
二人から、賛成。の二文字が送られてきて安堵する。
『どんな感じに書くつもりなの?』
暮太からの純真な催促が送られる。今決まったばかりのことなのに、高嶋が可哀想な気がしなくもない。でも、それは俺も気になっていたところだ。高嶋からの返事を待ってみる。
『とりあえず明日、カフェ集合でよくね?文字打つのめんどいから。』
あいつらしい。不覚にも、笑ってしまった。今度は俺と暮太から、賛成。の二文字が送られる。




