第二十四話
香菜の申し出はもちろん嬉しかった。
「だから、私達が引退するまでは演じる側で部に居てくれないかなぁ。」
「それは無理です。」
っていう、話があったのさ。高嶋が言って、話を終えた。
「いや、だからなんだよ!」
やれやれ。といった顔で高嶋が顔を振る。しかし今回はさすがの暮太も頭上にクエスチョンマークを浮かべている。
「話したかっただけ。」
はぁ?!暮太が声を張り上げた。
「雅くん?なんの脈略もなく自分語り始めたと思ったら話したかっただけだと?!なんか重要なことに繋がるのかと思って真剣に聞き入っちゃったじゃんかよ!」
暮太にしては珍しくまっとうな意見を出すものだ。俺は便乗して続けた。
「これで本当に話したかっただけとかだったらほんと怒るぞ?」
雅はまだやれやれと首を振っている。
「だからさ。書く人はどうしたって書くこと以外やりたくないもんだし、演じる人はどうしたって演じること以外やりたくないもんだよ。ってこと。」
「わかりづらいよ!すっごく分かりづらいよ?」
暮太が反発する。俺は意外にも、たしかになあ。と感心した。
「ていうか、いつも即興演技やってるようなもんだ。っていう発言にはつながってないよ?その話。」
暮太は相当即興演技というものが気になっていたようだ。今ここでそこを追求しなければ引き下がりそうもない。高嶋もそれがわかっているようで、
「それはこれから話しますから!ナツさんはいい加減竜也のモノマネやめて。」
「え?ナツさんそれ俺の真似だったの?」
「そうですけど?」
しれっと答える暮太。俺、そんなふうに見えてるんだ…。
結局高嶋は演劇部として残る道を選んだ。一年間、演じることもせず脚本を書くこともせず。あの頃は死んでた。高嶋は言った。ではなぜ一年後に演劇部を辞めたのだろう。そのことに関して高嶋は話してくれなかった。正しく言えば、話してはくれたけれども、
「香菜さんにフラれたからだよ。」
とか言っていたので、たぶんはぐらかされている。
「多分、多分だけど、みんな本当の自分を隠して生きていると思うんだよね。そう思ったんだよ。演劇部を見て。思ってもいないのに人を褒めてみたり、引き止めてみたり。俺、なんとなくそういうのわかるんだよね。」
高嶋は言った。すごく抽象的な言葉だけど、その抽象的な言葉のおかげでやっと納得できた気がした。
「じゃあ本当の自分って何?とかさ。私は演じてませんとか言う自称毒舌キャラいるじゃん?」
高嶋が続けると、暮太は頷いた。
「いるよね、そういう人。私の友達にもいる。」
あ、トイレの前で見つけた時に一緒に居た人のことかな。頭にあの怪訝そうな顔が浮かんだ。
「だろ?そういうやつに言いたいんだよね。本当の自分がわからないならなおさら毎日演技だろ?って。」
たしかにそうだ。でも、
「私は演技してません。って言ってくるやつにはなんて言うんだよ。」
言った後で、少し意地悪すぎたかもな。と申し訳なくなった。
「あっそ。って言う。」
高嶋のあっけない降伏に、暮太と俺はクエスチョンマークだ。
「それだけ?雅くん。それじゃなんか、こう…悔しくない?」
暮太の言葉に共感した。自分が考え抜いて出した答えを否定されたら、しかも言い返せなかったら。そう考えると俺は歯ぎしりしてしまうくらい悔しい。悔しいというか、自分が情けなくなるというか。
「しゃーないだろ、そんなん。全否定して反例持ってこないバカは論破もクソもない。分かる人にはわかる。それで十分だ。今、USBのメンバーが共感してくれた。それだけで十分だよ、俺には。」
後は作品で見返せばいい。そんな言葉が後に続く気がした。暮太はやや照れくさそうにはにかんでいた。




