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かえらない  作者: 森永盛夏
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第二十話

 メールを読んですぐは明日が少しだけ楽しみだったけど、風呂に入って気がついた。

「明日土曜なんだけど…。」


 駅から、大学近くのいつものカフェまで歩く。カフェの出入り口までにテラス席の前を通るのだが、そこに高嶋の姿はなかった。

「雅ちゃん呼び出しといてまだ来てないのかな。私たまに高嶋雅がわからなくなるよ。」

駅で一緒になった暮太が、テラス席を覗き込んでいる。俺からすれば、高嶋も暮太もさほど変わらない。

 レジで注文を済ませて、テラス席に荷物を置いた。レジ横の商品の受け渡し口に戻って、俺は自分と高嶋の分のブラックコーヒーを二杯持って、暮太は抹茶ラテと高嶋が使う分のガムシロップを3つ持って席へ引き返す。この単調で短い距離の移動が地味にめんどくさいと思うのは俺だけではないはずだ。

 直前に電話するとメールにあった。確かに電話は来たが、一方的に時間を指定されて一方的に電話は切れた。

「あ、もしもし?竜っちゃん?今日の集合時刻、午後三時ね~。」

 同様の内容が暮太にも伝えられていたらしく、同じラインの列車には乗らない俺と暮太が珍しく同じ時間に駅に着いたというわけだ。

「それにしても遅いね、雅ちゃん。もう三時半だよ。」

暮太はイメージの割に時間には厳しいようだ。

「あいつ、ルーズなんだよ。一年弱つるんでてやっとわかったこと。」

この調子だと、暮太の抹茶ラテは高嶋の到着までに三杯はなくなりそうだ。


 おーい。テラス席の外、カフェの出入り口を通る前に俺たちが通った道から高嶋が手を振っている。遅い!暮太が割と本気で怒った。

「ごめんごめん。ヒーローは遅れて来る。って言うだろ?」

口は減らないけど、小走りになった高嶋。横目で見えた暮太は、腕組みをしていた。机の上の抹茶ラテはとっくの昔になくなっていた。


 遅れちゃったし、早速本題に入ろうか。高嶋が切り出した。暮太の機嫌はまだなおらないが、高嶋はお構いなしに続けた。

「じゃあ、作戦発表するね。ズバリ!誘導尋問ブラフ大作戦!」

息を呑んで聞いていた俺と暮太は、頭の上にはてなを浮かべた。まあこれ見てよ。高嶋は、いつも持っているトートバッグからA4のレポート用紙を何枚か取り出した。一枚一枚少しずつ違うパターンで書かれた台本。しかし大まかに分けると、先生が反対するものと、賛成するものの二通りだった。

「なにこれ。」

暮太が目をキラキラさせて言った。あ、機嫌なおった。

「俺が書いた、ダンススタジオでの台本。って言っても、ここには大まかな流れしか書いてないけどな。これ徹夜で書いてたから今日寝坊したの。ごめんね、ナツさん。」

「ううん、いいよ。先生が切り出す…?」

「ここにあるレポート用紙を全部トートバッグに入れておいて、その日の萩野さんと安藤先生の行動に一番似てるやつを一枚だけ取り出す。これが当日の俺の仕事。だから、お前らには俺の書いた筋書きから大きくはずれないように演技で最低限のコントロールをしてほしい。それが当日のお前らの仕事。」

「いや、むっず!俺そういう即興系やったことないし、ここ最近全然演技してないんだけど?」

俺は自分でもわかるくらいの結構な剣幕で高嶋に噛み付いた。

「え?何いってんだよ。即興も演技も、いっつもやってんじゃないの?」

「OK!私やる!竜っちゃんもやろう!できるよ!きっと!」

「根拠ねえじゃんか!」

高嶋が激甘のコーヒーをズズッと飲み干した。

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