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かえらない  作者: 森永盛夏
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第十一話

 昨日のカフェに、昨日の三人が集まった。今日も、高嶋は寒い寒いと言いながらテラス席を選択した。

「ふたりとも、劇団の名前は考えてきた?どうしよう、『劇団』は固定にする?」

初っ端からうきうきの暮太は、どんどん話を進めていく。

「え、俺劇団は固定で考えてきてた。」

高嶋はタバコを箱から引き抜きながら言った。

「天乃くんは?」

俺たちには下の名前で呼ばせようとしたくせに、俺達の呼び方は名字のままらしい。

「天乃じゃなくて竜也でいいよ。」

「竜也、話そらすなよ。」

高嶋が妙に真面目だ。

「わかった、竜也くんって呼ばせてもらいます。」

「え、じゃあ俺も雅くんて呼んでもらおうかな。」

「は?お前雅呼び嫌なんじゃなかったのかよ。」

「素直かよ。小学生じゃあるまいし自分の名前気に入らないとか気に入ってるとかそういうのないだろ。」

ふふふ。と暮太が笑ったところで三人共本題に戻ろうと思ったらしい。


 それじゃあ、せーので発表しようか。暮太が俺と高嶋を見て言った。せーので言ったら結局他の人がなんて言ったのかわからなくない?と高嶋。そうしたら暮太が何も言わなくなってしまったので、

「これに書いてせーので出したらいいんじゃない?」

と、テーブルに置かれたナフキンを指さしながら提案した。暮太は何も言わずナフキンを一枚取ると、もう片方の手で俺たちに見えないように衝立を作ってボールペンを取り出した。それを見た俺と高嶋も続く。


 「書けた?私は書けたけど。二人は?まだ?」

暮太が少し前からずっとこの調子なので、ゆっくり考えたい俺と高嶋は仕方なく殴り書いた。いくよ?暮太の合図に合わせて、三人共身を乗り出す。

「せーのっ!」

テーブル中央に出された三枚のナフキン。俺は、暮太のものを読み上げた。

「U?」

続けて高嶋が俺のナフキンを読む。

「S?」

暮太が高嶋のナフキンを読んだ。

「B?」

劇団USB…?俺は思わず口からこぼれたその言葉を咀嚼しきれずにいた。

「え?そんな変な名前やだよ!」

暮太は本気で嫌そうだったが、高嶋は楽しそうに笑う。

「いいじゃんおもろいじゃん!」

俺は何も言えなかったけど、こんなにも収まりのいい言葉が出来上がるなんて運命だと思った。恥ずかしながら。


 劇団USB。形から決まったこの名前は、高嶋によって意味が添えられた。俺たち三人の頭というUSBに記憶されたたくさんの情報が、すべて劇団のこれからを彩りますように。後から決めた由来だけど、高嶋の作ったこの由来は今後三人に愛されるだろうことがわかった。

「劇団USBってのはいいとしてさ、ナツ…さんはなんでUの一文字を選んだわけ?雅は、なんでBなの?」

俺は、気になっていたことを聞いた。まず答えたのは高嶋だった。

「俺は、barelyのB。かろうじて、とかほとんどないのbarely。だって、劇団って言うには人数少なすぎるべ。」

「まあ、確かに。」

俺は思わず笑ってそう返した。

「ちょっと!これから大きくなるのにそんな名前つけてどうするの。」

暮太は不服そうだったけれど、構わずにもう一度聞く。ナツさんのUのは何処から?

「私のUは、ultraのU!かっこいいでしょ!」

俺はクレタナツという人間が、やっぱり馬鹿だと、改めて思った。

「ウルトラ―!」

叫びながら手を挙げる暮太に乗って、続けてうるとらー!と返した高嶋を見て俺は道を間違えた気がした。

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