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眼帯娘とオカルト先輩  作者: 水戸
HINOTAMA
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8


 如月紗綾。如月紗綾には二つの顔がある。というのは如月紗綾談だが、黒澤駿河に言わせれば三つある。と思う。


 三つ。一つは、紗綾が学校などで普段女友達や教授や、その他大勢に見せている顔。善良。善良で、品行方正、思いやりがあって、可愛らしい、光の顔。次に、二つ目。黒澤駿河に対する悪辣で、辛辣で、威圧的な、顔。


 そして、三つ目は、とにかく面白そうな噂をどこからか聞いてきて後先構わずに首を突っ込む、眼帯娘としての、顔がある。


 眼帯。駿河は正直、それをしている人間をついぞ見たことはなかったし、恐らく紗綾に会わなければ見ることは無かったろうアイテムである。本当ならば、眼帯にも正規の使用理由がある、れっきとした道具なのだが、しかし、このアイテムにはもう一つの顔がある。如月紗綾のように。


  俗にいう「痛い格好」をする時だ。


「はい、参上! 大学に到着です!」


 如月紗綾が棟と棟とを結ぶぼやけた渡り廊下の照明の下で声をあげた。


 まだ、学舎の廊下や所々の照明はついていて、学舎の周りはほんのりと明るいが、それが寧ろそれ以外の構内の暗さを助長させていた。駿河は向こうの棟のバルコニーの照明が辺りの金属に反射してキラキラ光っている様子が相変わらず綺麗だと感じた。恐らく設計の上ではそんな効果なんて全く考えて居なかったのだろうが、偶然の産物は得てして美が宿ることがある。


 静かだ。と駿河は思う。音がしないという意味ではなかった。耳を済まさなくても大学構内の茂みから、コオロギの声が聞こえてくる。遠くの方からは車がこの時間になっても盛んに走っているだろうことを感じ取れる音がしていた。しかし、どれもこれも、その音が聞こえてくるという前提で、静かさを強めるに過ぎないようだった。


 ほんのりと明るい照明頼りに駿河がしぶしぶと紗綾を見ると、そこには幼少の頃に見た出来の悪い戦隊モノのレッドのポージングのような格好をキメていた一人の後輩の姿があった。駿河は下から上へと視線を送る。いつになく足元の露出が多い。


 黒色の靴、ニーソックスを思わせる所々花の装飾が施された長い、白い靴下。セーラー服を思い起こさせる紺色のスカート、軍服のようなジャケットの中から覗くシンプルなシャツ。


 そして、もう少し、上に目線をやる。その顔には斜めに一本線が入っていた。眼帯。右目をすっぽりと覆い隠す黒色の眼帯を着けていた。


 駿河は、視線を逸らしながら溜め息をついた。どうしてこんな格好をしているかはこの格好を初めて見てから長くなるが未だに全く想像がつかない。想像したくもない。


「いえーい、先輩! ドンドンパフパフですよ! ドンドンパフパフ!」


「いーえーたのしー」


「ちょっと先輩。棒読みではありません?」 


「むしろ僕がそれ以外のどんなリアクションをとると思っていたんだよ紗綾ちゃん。棒読みでも奇跡なくらいだ」


「さて、火の玉ですが」


「待った、それと僕の頬をつつくな」


「何です? 先輩」


「火の玉についてだけど」

「はい?」


「僕は火の玉の噂について録なことを聞かされていないのだけども、それについての詳細を紗綾ちゃん、まずは教えてくれないか?」


「五月蝿いですねえ先輩は。今まさに説明しようとしていた所じゃないですか。全く、せっかち過ぎますよ先輩」


「チュパカブラの時は僕に何もかも言わずにつれ回したくせに? その時に得た紗綾ちゃんは聞かない限り教えてくれないって教訓を生かすのがそんなにも悪いと?」


「あの時はあの時、この時はあの時ですよ」


「それって今回僕に何も教える気無かったよね?」


「仕方無いですねえ、先輩は。……えと、コホン。いいですか先輩、仲諒大学周りには墓地が沢山あるのは知っていますよね、そして墓地に囲まれたこの大学も勿論夜な夜な火の玉が見えてしまうという都市伝説も!」


「知るわけないだろ」


「ですよねえ!」

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